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女神の贈り物と好色騎士  作者: ヴィルヘルミナ


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第十話 魔術師寮の家政婦です。

 朝日が顔を直撃した。

(あー、まだこの夢、覚めないのかー)

 目を開くと、私を片腕で抱きしめて寝ているジークの間抜け顔。端正な顔立ちでも口が少し開いてるだけで、可愛く感じるから不思議。腕の重さが意外と心地よく感じる。


(五感がある夢か……。もうちょっとだけ夢の中でもいいかな)

 長い夢だなと呆れつつも、覚めないことにほっとしている気持ちもある。現実世界でのストレスが、こんな形で表れているのかと思うと、もう全部楽しんでしまった方がスッキリしそう。


「おはよう、ジーク」

 耳元で囁くと、ジークが驚き顔で目を開く。どんどん赤くなっていく顔が可愛くて頬が緩む。

「お、おはよう。トーコ……」

「どうしたの?」

「夢じゃないんだな……って、ほっとしてる」

 微笑むジークの安堵の声が、ちくりと胸に刺さった。きっと、これは私の心の裏返し。ジークは私の夢の中の人物で、私が夢から覚めたら消えてしまう。


「頬に口付けてもいいか?」

「唇以外なら」

(目覚めた後も、また夢の続きを見れたらいいのに)

 今まで、夢の続きを見たいと思っても、成功したことは無かった。


「トーコ……」

 頬にキスしながらのイケボの甘い囁きが、一瞬で甘い空気を連れてくる。ベッドの上で抱き合う二人に、この空気は危険過ぎ。夢だからと言っても、朝からアレコレしてしまうのは恥ずかしい。

「シャワー浴びてくるから、放して」

 わざとらしいくらいに微笑むと、ジークがショックを受けた顔になる。待てを喰らった犬みたいな表情を見ていると、ぞくぞくして気持ちいい。


 シャワーを浴びて、昨日買った服に袖を通す。久々の新品の服は気分が上がる。ちょっと過剰なくらいに糊が掛けられているのはご愛敬。生成のふんわり袖のブラウスにひざ下二十センチの青色のふんわりスカート。茶色のコルセットベストを着て茶色の編み上げブーツを履くと完全に童話の主人公。


 鏡の前でくるりと回る。夢の中でなければ、こんなに可愛らしい服をこの歳で着れる訳がない。髪の毛は低めに結んで、スカートの友布で出来た青いリボンを結ぶ。


 日焼け止めを塗って、淡い茶色のアイラインを入れて、指で口紅を乗せてぼかす。素朴で可愛い服には、濃い化粧は似合わないと思う。ますます童話な雰囲気にうきうきする。


 またくるりと回った瞬間に、浴室から出てきたジークが扉にもたれかかりながら私を見ていることに気が付いた。ジークは生成のシャツに黒いズボン。軍服に似た服もカッコよかったけど、砕けた感じの服もカッコいい。


「……何、にやにやしてるの?」

 浮かれている姿をしっかり見られたのは恥ずかしい。

「トーコは可愛いな!」

 瞬間で距離を詰めてきたジークの腕に抱き込まれて、頬ずりされる。


「ちょ! ジーク、離しさないよ!」

「トーコ、もうちょっとだけ!」

「し、仕方ないわね!」

 許可すると頬ずりされた上に、顔のあちこちにキスが始まった。軽いキスが何度も繰り返されると、くすぐったくて笑ってしまう。


「はい。今朝はここまで」

 どさくさ紛れに、唇にキスしようとしてきたジークの口を手で遮る。しょんぼりとしたジークの表情は、怒られた大型犬のようで可笑しくて笑ってしまう。


      ◆


 朝食はまた騎士の食堂に連れて行かれて、ジークは超塩味ヨーグルト雑穀粥とパンと鶏もも肉焼きと昨日と同じメニュー。私は昨日買った果物で済ませた。食堂内には昨日よりも人がいて、ちらちらと視線を感じるけど声を掛けてくる人はいない。何故か遠巻き。


「トーコ、果物ばかりでは力がでないぞ?」

「わかってるわよ。だから厨房目当てで魔術師寮で働くんじゃない」

 ご飯も理由だけれど、給金が結構良いというのが本当の理由。昨日、食材と調味料が買える店はあたりを付けてある。


 高い壁の中に作られた騎士の宿舎の隣にある魔術師寮は、建物の印象が何となくおどろおどろしい。深緑の屋根に淡いベージュのレンガ作りで、三階建ての洋館。


「ジーク、手をつなぐのはここまでよ。これから私は仕事するんだから」

 朝からずっと繋がれていた手を振り解く。ジークが一瞬で情けない顔になって、縋られてる感じがして気分がいい……と思ってしまうのは自分でもよくわからない感情の動きだと思う。


「ト、トーコ……もう手は繋いでくれないのか?」

「……仕事している時だけだから、我慢して?」

 あまりにも寂しげな顔をするので、ちょっとだけ言葉でサービスするとジークが笑顔になった。ふむ。単純で可愛い。


 ジークが玄関のノッカーを叩くと、少ししてサタルーシュが扉を開けてくれた。

「ジーク、トーコ、おはよー。待ってたよー」

 昨日の白い白衣もどきではなくて、生成のハイネックのシャツに裾の長い紺色のベスト、黒のズボンという少しラフな服。美形は何でも似合っていいね。


「おはよ、サタルーシュ。従僕とかいないの?」

「雇っても二、三日でやめちゃうんだよねー。基本的にお客なんてこないしね。合鍵を渡すからトーコは自由に出入りできるよー」

「普通、使用人なら裏口からじゃないの?」

「裏口なんてないよ? この寮は出入りする人間が魔法で記録されるんだよー。だから入り口は一つ。おーい、リカルドー」

 サタルーシュが扉を軽く叩いた。


『なんだ?』

「うわ!」

 扉の中央に、たっぷりとしたひげを蓄えた老人の顔が立体的に浮かび上がった。色彩は木目一色で、目がどこへ向いているのかわからないけれど、私を見ているのが分かる。

「木の精霊リカルドラートリューだよ。あ、彼女はトーコ。今日から家政婦として来てくれる。ジークは知ってるよな」

『ふむ……おチビさん、よろしくな』

 木の彫刻のような老人を口を開けて見ていた私は我に返った。

「よ、よろしくお願いします」

 ぺこりと頭を下げると、満足気に笑った木の老人が扉に消えた。立体感があって、柔軟に動く顔はCGとはまた別の感じ。はっきり言えば気持ち悪かった。


 中に入ると、使い込まれた濃い飴色の板張りの廊下。壁は白くて魔法灯(ランプ)があちこちに輝いているのに、どこか重い空気が漂っている。


 一階にはサロンと食堂と厨房と管理人室。二階と三階は個人の部屋がある。サタルーシュは二階の奥を陣取っているらしい。三階は貴族、二階は一般国民や外国人と決められている。


「魔術師が王城内で寮生活なんて面白いわねー」

 普通の幻想(ファンタジー)世界なら、森の中とか、怪しい塔とか、そういう所で住んでるんだと思う。私の夢の中では寮生活なのか。以前、本で読んだ魔術学校の寮が印象に残っているのだろう。


「町では独り身の魔術師に部屋なんて貸してもくれないし、家も売ってくれないしねー。妻帯だと大丈夫なんだけどねー」

 サタルーシュが笑いながら言った。

「何それ」

「昔々、独身の魔術師が、結婚という餌で釣って相手に魔法実験して廃人にして捨てるっていうのを繰り返してたんだって。それが一人じゃなくて複数いたから、独身の魔術師は害悪って思われてる。妻帯だったら一応信用されるんだ」


「ふーん。魔術師って女はいないの?」

「女の魔術師は、この国では魔女って呼ばれてて、大抵森の中に引きこもりだよー。魔女が共同生活してる森もあるよ」

「へー。魔女の共同生活とか、面白そうー」

「いやー、結構ドロドロしてるみたいだよー。相当我が強くないと心が折れるんだってー」

「やけに詳しいわね」

「共同生活に心折れて帰ってきた魔女が、町で魔道具屋してるからさ。安くしてもらう代わりに愚痴聞いてんの」


 何だろ。妙な部分が現実的で悲しくなってきた。和気あいあいとした魔女の共同生活とか、童話っぽくて良いと思うけれど、きっとそんな理想は夢の中でも幻想なんだろう。


 ちらりとジークを見ると、ジークの目が輝いて笑顔になる。

(……犬みたいで可愛いけど……物凄く可愛いけど……ちょっと恥ずかしい)

 緩みそうになる顔を引き締めて、周囲へと目を向ける。


「あ! 何あれ?」

 暗い廊下の奥の壁に、キラキラと七色に光る一メートル程もある大きな砂時計が見えた。

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