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7話 立ち入り禁止

 夜が明けて氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)は目を覚ます。三日ぶりに自分の意思で眠ったからか目覚めがいい。ここのところ輪入道に魂を奪われ気絶して、気がついたら朝だったから、普段通り眠ることができて新鮮だった。

 この一晩の間に事態は進展しただろうか。ヒツギは辺りを見渡すと、あちこちに倒れた妖怪がいて絶句した。寝ているようには見えない。力尽きて動けないようだ。彼はもう手遅れと決めつけて墓を立てることにした。

 ヒツギは足で地道に土を掘って妖怪を埋めると、特殊能力でゴーストを召喚した。敗者や死者といった脱落者の分身を出す能力。人間にも他の動物にも適応される能力は、この世界の妖怪も例外ではなかった。

 まるで生きているように歩き回らせると、門番に斬られて倒された。ゴーストをやられても困らない。ヒツギにダメージはなく、また召喚すればいい。


 それより妖怪を攻撃したその人間にヒツギは怒りが湧いた。


「酷いじゃねえか! 偽物だからよかったものの……」

「妖怪は立ち入り禁止だ。 ……偽物?」


 だがそれが仕事だと門番は冷徹に言い返す。ヒツギが口走った偽物というフレーズに疑問を抱いたものの、残骸が残っていないことを見て納得した。


「詳しいな、貴様。何者だ」

「……迷子でよそ者です。ここにもいませんか? 妖怪のいない世界から来たって人」


 ヒツギは能力者であることは伏せて、立ち位置を伝えた。これだけ大きな街だから、他の誰かが現れた可能性がある。とりあえずその人と会えば何とかしてくれると考えたが、門番は首を横に振る。


「あの、この辺で倒された妖怪は」

「夜に侵入しようとしたから撃退した。城の主の命令だ」


 ゴーストへの躊躇ない斬りかかりから、行き倒れの妖怪は門番たちの仕業だとヒツギは読み、的中した。そして理由にも心当たりはある。この世界には妖怪がいて、加えて人間と共存している。そんな不思議な世界だったが、彼が肝試し中にこの世界に飛ばされたのと同時期に妖怪が人間を襲撃し始めた。

 だからこの城下町は妖怪を追い出し、戻ってきたり野生の個体が寄ってきたら、都度門番が追い払っている。その対応がエスカレートした結果、逃げる気力も奪われた妖怪が路上で息絶えてしまったのだ。


「……俺が土に埋めてきます。他の妖怪がこれを見たら、復讐しにくると思うんで」

「死骸を残せば近寄らなくなると思ったが、なるほどな。よし、任せた」


 放置された残骸を見た仲間の妖怪が、ここは危険と捉えて去っていくか、仕返しにくるか。どちらに転ぶか確証はなく、門番の考えにヒツギは一理あると思った。ただ彼らがヒツギの案を採用したので従うことにし、順に埋葬した。



 ヒツギは一仕事終えたが、事態は動いていない。道行く人は誰も彼を知らない。彼と同じ肝試し中に飛ばされた人と合流することはなかった。

 彼は手紙を読み返す。人力車の俥夫に見せて連れてきてもらったから、招待された城に到着したことは間違いない。部外者を通さない門番のせいで目前で足踏みしているのが現状だ。つまりやるべきことはやっている。後他の誰かが前進させてくれるのを待つだけだ。もしその人が門の奥にいてヒツギの来訪に気づいていないなら、彼が入れない以上、向こうから来てくれるのを待つ他ない。


 そこでヒツギは、来たことをアピールしてみようと考えた。まず思いついたのは手紙を届けること。城の外で郵便屋を探し、手持ちの手紙を送り主に返すよう依頼する。併せて城の前に着いたことを伝達してもらえば、後は何とかしてくれる。

 ヒツギは散策し、妖怪烏天狗に声をかけた。この世界では飛べて知能のあるこの妖怪が郵便屋で、彼に手紙を渡してきたのもこの種族だ。


 手紙を差し出し、送り主に渡してほしいと言葉で伝えた。烏天狗は少し戸惑ったが手紙を受け取り、じっと見つめる。送り主を認識したのか、頷いて小脇にしまおうとして、手を止めた。ヒツギは目で追うと、鞄を持っていないことに気づく。彼に手紙を渡してきた個体は持っていた。

 目の前の個体も元々は持っていたのではないかとヒツギは考えた。どこかに置き忘れたのか別の個体に預けているのか。烏天狗が自己解決するのを待ったが、結局手紙は手に持って移動していった。


 想定外だが何か考えがあるのだろう。ヒツギは疑問に思いながらも見送る。なお鞄を所持していない理由は、郵便屋の資格を剥奪された個体だから。妖怪の立ち入り禁止を命じられ、外に追い出された際に没収された。

 だがヒツギに頼まれたことで郵便屋としての使命が帰ってきたと勘違いし、中へ入ろうとしている。


 しかし郵便屋だった烏天狗でも例外ではなく、妖怪だから門番に迎撃された。幸い傷は浅い。元の知能と郵便屋として危険から逃げる精神の染みつきに救われ、人間の抵抗を理解してすぐ撤退したのだ。



「飛んでいけないか?」


 ヒツギは妖怪に協力してもらっていることを門番に知られるわけにいかない。物陰で烏天狗を誘導し、正面突破ではなくバレずに入るのはどうかと尋ねる。しかし烏天狗は首を横に振り、彼はできないの意思表明と受け止めた。


「まあ、できちゃったら色々問題あるか」


 ヒツギの世界にも人が越えられない程度の柵しかない立ち入り禁止エリアはあり、鳥や虫は平気で入れる。けれどもそれは荒らしたり盗んだりと人間ほどの知能がないので、入れても害はないとされているため。空の郵便屋を任せられる存在に、死角からの侵入を許せば悪用し放題なのだ。

 そう思い直したヒツギは、魔除けの札か何かで上空含め見えないバリアでも張ってあるのだろうと解釈した。けれどももしそうなら四六時中門番に警戒させる意味に疑問が生じる。かといってバリアがないならどこからでも入れてしまう。


「ちょっと待ってて」


 ヒツギは考えても分からないから門番に質問しにいった。妖怪を連れていくのは迎撃されて危ないので、隠れて待機させた。


 正面だけ堅く守っても、空から妖怪が入れてしまうが、果たして門番の役目を担えているのか。その答えは、妖怪も歩いて出入りするようルールを覚えさせたから心配無用という、ヒツギは強引と感じる解決策だった。

 だからこの烏天狗は空を飛んで向かおうとしないし、律儀に門番に存在をアピールして、襲われたら撤退した。人間と妖怪が共存するこの世界は、それを成り立たせるために人間は妖怪から自由を奪っている。


 ヒツギは謎が解けたので引き返し、烏天狗の元へ戻る。妖怪は飛べても飛ばない。飛んで侵入するのは悪いことだと教育させられてきたせいだ。これでは手紙を送り主に届けて、着いたことを伝えられない。ならば飛べる人間を探す。人間はルールを破るし、バレずに侵入は可能だろう。

 だが彼に飛ぶ術はない。誰かと合流すれば糸口が見えてきそうだ。けれどもそれができたら、手紙を届けずとも解決しそうだ。彼と同じくこの世界に呼ばれた人に会えたら、その人についていって脱出する方がいいのだから。

 彼がこの世界で起こした騒ぎなどほったらかしで構わない。異変を鎮めた功績を評価されて城の主に招待されたことなど、元の世界に帰れたからボイコットしたで終わらせていいということだ。



 とにかく現状、妖怪に協力を求めてもヒツギは城の主に連絡ができない。彼は烏天狗に手紙を返してもらい、解放することにした。


「やっぱりそれ預かる。俺のことはいいから……またな」


 ヒツギが手紙の方に手を伸ばすと烏天狗は手紙を渡したが、そこから離れなかった。また渡してもらうのを待っているのか、彼が移動すると後についていく。


 彼は門番に助けを求めた。烏天狗に追われて襲われていると嘘をつき、追い払ってもらう。妖怪は攻撃を避け、ようやく離れていった。

 一方彼は対処を求めつつ門番が動いた隙間から強行突破を図る。だが企みは儚く散り、あっさり拘束されてしまう。命乞いをしていると、烏天狗が飛び込んできた。

 援護に来てくれたと思いきや、ヒツギを引き戻そうとする。中に入ってはいけないと実感したからこそ、安全な道へ下げようとする。


 結果、烏天狗は倒れてヒツギは門番に拘束され連行された。



 捕まったヒツギの前に城の主が現れた。顔は知らないが門番がそう呼ぶことから、この人が手紙の送り主だと彼は認識した。


「……何者か」

「この手紙を貰った者です」


 悪いことをしたが、ヒツギとしては目的が達成された。今がチャンスと踏んで、招待された身だとアピールする郵便屋に頼んで家のない彼に手渡しできたのだから、向こうは彼の顔を知っている。何より手紙という証拠があるからこれで伝わると信じ、反応を窺う。


「待っていたぞ。どう辿り着くか楽しみだったが、まさか強行突破とは」


 門番に伝えてくれていれば手紙を通行手形代わりにして難なく通過できたのに、とヒツギは不満に思う。そのせいで妖怪を苦しめてしまったが、それは彼がちゃんとした作戦で挑んでいれば犠牲にならずに済んだわけで、彼にも非はある。

 それはさておき、ヒツギは聞きたいことが色々ある。なぜ呼ばれたのか。自分と同じく別世界から来た人を知らないか。妖怪が人間を襲う異変の原因は何か。ただ全部を知る必要はないと彼は思う。むしろどれも、他の誰かが突き止めてくれればいい。彼が手紙に従ってここまで来たのは、そうすれば事態が動くと考えたためだ。


「暴れる妖怪に臆さず住民の避難を全うし、人のために尽くした。誇れ」

「はい……まあ、やるべき人がダウンして、代わりを自分がやらなきゃってなって……」


 避難の呼びかけはヒツギの判断ではなく、同行していた輪入道のパートナーの人間だ。彼はこの世界で知り合って、妖怪に悪い奴はいないと信念を掲げ、異変のせいで暴走した妖怪にも冷静に対処していた、良い人だ。

 手分けして避難誘導していたところ、輪入道の能力で魂を奪われ気絶させられてしまったその人の意思を継ぎ、ヒツギは完遂した。

 だから、褒められるべきは自分だけではないと思った。その人は仕事の都合で管轄から出られなかったが、ヒツギの本音は一緒にここに来たかった。


「お主なら分かるだろう。妖怪と人間は、分かれて暮らさなくてはならないと」


 主はそう言うもヒツギはピンとこない。すると主は門番に下がるよう告げ、彼と二人で話をしたいと言った。



「まあ率直に……妖怪に不自由な世界だと思います」


 城の主しか聞いていない場所でヒツギは思っていたことを呟いた。確かに妖怪は多様な体格と能力を持ち、並の人間にはできないことを容易にできる。だから人間の生活を支えてもらうにはうってつけの協力相手だ。

 素早く走って牽引するのも、空を飛んで建物を気にせず一直線に移動できるのも、人間の生活にあると便利な力を妖怪は持っている。だからこの世界の人間は、妖怪と共存し始めた。

 妖怪なんているか分からないヒツギの世界とはまるで違う。最初は良い世界と思っていたが、段々と、人間目線で良い世界でしかないと気づいていた。


「こう……寄りかかって楽をしている人間がいて、割を食うのは支えているのが妖怪で」

「そうだ。そしてその環境に不満を抱かせないよう、それが当たり前だと学ばせている。妖怪が怖いから」


 ヒツギは疑問に思う。その洗脳は偉い人間、つまりこの城の主が主体となってやっているはずなのに、トップが方針にダメ出しをしている。けれども代替わりしたばかりなら腑に落ちるから、気にしないことにした。


「だから妖怪と人間を切り離す。協力しておくれ」

「分かりました」


 ヒツギは即答した。そしてゴールの認識を改めた。異変の解決ではなく、妖怪の独立。異変はむしろ人間の勝手から解放する運動の先駆けだったのだ。


「妖怪が犠牲になるのは、もう嫌だし」

「……犠牲? どういうことだ」


 城の主は門番の仕打ちを知らない。人間から解放された人間より強い妖怪がなぜ犠牲になったのか、見当のつかない主は困惑した。だがヒツギははっきり覚えている。人間の元に戻ろうとした妖怪が、人間に教えられたルールを守って門番と対面し、防衛の名目で狩られてしまったことを。


「朝、門の前に妖怪が死んでて……門番がやったって」


 ヒツギが埋葬して墓を立てたから痕跡は隠してある。けれども主の命令に従い、妖怪に門を通らせないよう仕事をした。それが犠牲の経緯だと打ち明け、当事者に聞いた方が早いので犯人に言及した。


「まあ妖怪が入ろうとしなければよかった話なんだけど」


 ヒツギは不思議に思った。入るなら門からというルールは守るのに、戻ってくるなと言われても戻ろうとした。そこも言うことを聞いていれば、門番が防衛に走ることもなく、平和だったはずだ。


「何故だ……何故、妖怪が被害に遭う」


 城の主にとっても想定外だったようで怒りに震えている。


「肝試しで妖怪に攻撃してはいけないんだぞ……」


 主はそう呟いて奥の部屋に移動する。残されたヒツギは、聞き覚えのある単語が出たことに気づく。ただ、この主が肝試し関係者、つまり彼と同様に別世界から来た人の変装とまでは察せなかった。

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