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5話 後は任せた

 夜になったら暴走を始めた妖怪輪入道。生首に車輪がるいて車輪には火の玉がいくつもついている。走ったりぶつかったりするだけで、道路や建物などあちこちに燃え移る。こうなると火消婆の能力で輪入道が体に纏う火を消して落ち着かせるのがセオリーだが、輪入道とは無関係な辺りの火もまとめて消してしまう。突然真っ暗になれば二次被害を起こしかねない。

 だから家の中に避難させることが先。氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)は注意を呼びかけながら街を駆け回る。


 すると路上で倒れている人とそのそばに火消婆を発見した。その妖怪に見覚えがあるヒツギは、倒れているのが誰か察しがつき、駆け寄った。


「……魂を奪われたのか」


 ヒツギの問いかけに火消婆は頷く。倒れているのは夕雅(ゆうが)。輪入道のパートナーで、暴走するまで一緒に行動していた。避難指示で別行動している間に輪入道と鉢合わせ、目が合ったら魂を奪う能力の餌食になったと推測がつく。揺すっても目を覚まさず、外傷がないことがその根拠だ。

 ヒツギも一度やられたことがある。目覚めたときには夜が明けていたから、すぐ復活させるのは難しいと考えた。


 ヒツギは夕雅が抱えている照魔鏡を抜き取った。ダウンするのを察し、倒れた拍子に手離さないようしっかり握っていたものだ。彼はこの鏡を知らない。同行していたときは見ても聞いてもいない。だが火消婆と同じく輪入道対策の何かだと推測がつく。


「奴はどこに? この中か」


 ヒツギは夕雅が相討ちに持ち込んだと考え火消婆に尋ねたが首を横に振られた。この鏡は妖怪を封印するものではない。あるいは封印できるが輪入道には逃げられた。魂を奪われながらも対処したというわけではなく、輪入道は今も街中を走り回っている。


 こうなると見つけないことには始まらない。ヒツギは鏡を持って交差点の中心に立ち、左右に傾けながら四方を監視する。正面は鏡の外を、それ以外はカーブミラーのように鏡越しに道を見る。走り回っていれば、いつかこの近辺を通る。

 見つけたとてどう対処するか、ヒツギは考えていない。追いつける速さではなく、見えた先に向かっても着いたときにはもう違う場所に逃げられている。彼にはどうすることもできない。だがこの鏡や妖怪になら何かができるかもしれない。解決できる可能性を信じ、とにかく探してみた。



 しばらくして鏡に炎の塊が写ったのをヒツギは見逃さなかった。すると塊が青い炎に包まれて炎は消えた。彼は事態を飲み込めないまま、とりあえずその塊の元へと向かう。夕雅を置き去りにしないよう、火消婆はその場に残った。炎が消えて目印を失ったが、街の灯りを頼りに道を駆ける。


「狐? 可哀想に……」


 輪入道の姿はなく、代わりに白くて尾の多い狐が倒れていた。ヒツギはこの狐に見覚えがなく、状況の理解が追いつかない。狐が輪入道に轢かれてしまい、妖怪はもう逃げたのではないかと推測し、もう手遅れと決めつけて墓を立てることにした。土に埋めるべく抱えようとするが、その前に狐の頭の向きを確認した。

 狐死首丘。故郷を忘れないことの喩えは、狐は生まれ育った丘に頭を向けて死ぬという言い伝えに由来する。だから頭の方向に向かって歩いた先の土を墓場とする。


 きっとこの狐は普段から人力車の客に餌付けされていて、今回も貰うつもりで近寄ったらそれが暴走する輪入道だった結果、衝突して命を絶たれたのだろう。そう推測し悲しみながら、ヒツギは死骸の土葬に向かう。

 生きていた頃はどれだけ元気だったのか気になる彼は、自身の特殊能力で亡き狐のゴーストを召喚してみようとした。だが能力が発動しないので怪しく思った。


「……生きてるのか」


 別に死んでいなくてもゴーストは出せる。試合で負けるとか、脱落が召喚可能の基準となる。それが不発ということは、生きて負けたふりをしているのを意味する。

 怪しむヒツギに狐は本性を表し、跳び上がって道路に着地した。


「よく見破ったね」

「喋った!? もしかして妖怪か」


 その正体は妖怪九尾の狐。人間や他の妖怪に自在に化け、人間の言葉を話せる知能を持つ。尾は最初一本だが長生きすると増える。多いほど力が強力で、千年生きると最大の九本になる。


「化けていたのに鏡に写され元の姿に戻っちゃった。まさかこんな人間がいるなんて」

「化けて?」


 輪入道に轢かれて倒れていたのではない。化けていたのを正体を写す鏡の力で暴かれたのだ。同時に力を奪われ死んだふりをして休んでいたのが、妖怪とバレたせいでごまかせなくなった。変身解除と素性の特定、どちらもやってのけた人間のヒツギを、九尾の狐は気に入った。

 

「じゃあ用はない。本物をどうにかするのが俺の仕事なんだ」


 輪入道が人間を襲っていることが問題で、化けた模倣犯に構っている場合ではない。ヒツギは街に戻って捜査を再開しようとしたが、放ったらかしにされるなんて九尾の狐は気に入らない。せっかく面白い人間に会えたのだ。


「手伝うよ。あいつの弱点、教えてあげる」


 九尾の狐はヒツギに同行した。妖怪として輪入道の生態に詳しく、襲撃の収束に向けて考えがある。彼は断る理由がないので受け入れ、一緒に歩いた。



「あいつは靴を盗んで人前に出て、反応を確かめるんだ。その人間は、自分のと他の人、まずはどっちを気にするか」


 利己的か利他的か。エゴイストかアルトゥリストか。そんな話に聞き覚えのないヒツギは今一つピンとこない。


「自分のを気にすると襲われる。人を気にすると、優しい人と思ってくれる」


 自分の靴は無事かどうかよりも、失くして困っている人がいないかを先に確かめることができるか。それを輪入道は見ているという。


「自分が助かることより他人が避難するのは、輪入道的に好印象さ」

「俺らがさっきやってたことか」


 もし九尾の狐の言うように輪入道が優しい人がいるか確かめているのなら、ヒツギは騒動の終着点が想像できた。炎を纏って走り回り人を怖がらせ、最後まで外に残っていた人間は逃げ遅れた者か他の全員の無事を見届けた者か。後者ならその優しさを評価し暴走を止めるが、前者ならこの一帯の人間は駄目だと見限って街を焼き尽くす。

 そして本来なら、最後の一人は夕雅になるはずだった。輪入道の能力で魂を奪われ、避難が終わる前にダウンしてしまった。このままでは逃げ遅れた人が出てしまい、輪入道に悪印象を抱かせてしまうにちがいない。そうなると優しい人はいないと見限られてこの街は終わりだ。


 ヒツギに戦う力はない。けれども人の役に立つことはできる。そしてその行動が運命を分かつというのなら、やらない手はない。


「お前は中でじっとしていろ。俺は全員避難させる」


 ヒツギは九尾の狐を近くの建物に、街の人と一緒に待機させた。まずは安全を確保して、ここからは一人で駆け回る。見かけた人間にも妖怪にも避難指示を出す。

 それが終わったとき気づいた輪入道がどうするかは、そのときに考えればいい。暴走が止まらないケースに備えて九尾の狐にもついてきてもらう手もあるが、そのケースが起こると確定してはいないから今は待機させる。


 それからヒツギは街を走り回って、轢かれたり焼かれたり魂を奪われないように、安全な場所に隠れること、興味本位で顔を覗かせないよう呼びかけた。

 出歩く彼が一番危険な立ち位置だが、彼には夕雅から借りた照魔鏡がある。交差点で鏡を持ち上げて傾ければ、死角からやられるリスクを下げられ人を見落とすことも抑えられる。彼は夕雅が果たせず力尽きた役目を完遂させるべく、彼の未練を晴らすためにも駆け抜けた。


 夜深くなると野生の妖怪も街に増えてくる。だがヒツギにとって人間も妖怪も変わらない。街で輪入道が暴れている実態を、焼けた箇所を見せて伝えようとする。皆の元に隠れるようジェスチャーと人の言葉で伝えようとし、誘導しては次の地点に向かう。

 一度済ませたエリアでも後から妖怪がやってくるから、きりがないことに気づいてヒツギは心が折れた。


「終わらねえ……妖怪は襲われないなら放っておいて平気か?」


 当初の方針では無理と察したヒツギは、量を変えて達成にできないか考えた。異変は妖怪が人間を襲うのであって妖怪同士でトラブルは起こらない。ならいくら増えてきても犠牲にならず、人間の避難に限定する方が現実的に思えた。もとよりヒツギは人間だ。妖怪の代表として彼と同じよう妖怪に避難指示を出せる存在がいるかもしれない。


 だが夕雅と火消婆を思い返し、人間も妖怪も関係なく助けるのは変わらないと決心した。ここは人間と妖怪が共存する世界。お互いにできることは違うが、垣根なく暮らしている。倒れた夕雅に火消婆が寄り添ったのは、人間でも妖怪でも関係ない行動なのがその証。

 ヒツギは避難の呼びかけを続行した。


 すると建物の屋根の上から狐の鳴き声が響いた。その後妖怪が次々と街から離れていく。声の方向を振り向くと、そこにさっきの九尾の狐がいた。じっとしているようヒツギは伝えていたのだがこっそり飛び出してきており、鳴いた後は屋根伝いに去っていく。


 彼は九尾の狐が手を貸してくれたと察した。妖怪が増えなくなれば、後は街中の人は減る一方。全員の避難は達成できると前向きに捉え、最後の踏ん張りに励んだ。



「これで全員避難させたはず……」


 ヒツギは一方通行の道路の終わりに待ち構えた。この道は輪入道の走行ルート。無差別に走り回っているのなら、待っていればいずれ通る。

 その読み通り、正面から駆けてきた。この瞬間を待っていた彼は叫ぶ。


「もう全員逃げた! 俺を認めろ!」


 利他的な人だとアピールし、輪入道に好印象を抱いてもらおうとする。そこで輪入道はブレーキをかけた。ヒツギと目を合わせ、彼の魂を奪う。前に一度味わった感覚で、彼は何をされたか理解した。

 自分はここまで。後は任せた。心の声でそう言い残し、彼は気絶した。持っていた鏡は割らないよう、しっかり抱えて倒れた。



 翌朝ヒツギは目を覚ました。見知らぬ部屋にいて、そばには夕雅がいる。彼が復活したのを喜んでいたが、それは彼も同じだ。


「目が覚めたんだな」

「そっちこそ! いや、本当によくやってくれたよっ」


 気絶していたのは夕雅も同じ。ヒツギは彼が起きて喋っているのを知って、回復できたことに安堵した。だが彼からすれば、ヒツギが輪入道の暴走を止めてくれたことへの感謝が大きい。目覚めた今、改めてお礼を言う。


「街の皆を避難させて、それを輪入道に伝えて……暴走は収まって、火消婆が全部消しても二次被害は出なかった」


 ヒツギが気絶した後は、落ち着いた輪入道が火消婆の元に向かい、全部消火するよう頼んだ。灯りも全て消えてしまったが、全員避難していたおかげでパニックで被害が増えることはなく、じきに灯りは点いて街の火災は鎮火し一件落着した。後は任せたという願いは叶っていたのだ。


「キミがいなければ駄目だった。本当にありがとう」

「どうも。俺も一人じゃ無理だったし」


 火を消す妖怪がいて、そうするチャンスを掴んだヒツギがいて、彼にアドバイスをした九尾の狐がいた。誰一人欠けても解決には至らなかったわけで、彼もその皆に感謝している。



 しかしヒツギの問題は残っている。またしても知らぬ間に一晩明けたが、まだこの怪世界にいる。元の世界に戻れていない。肝試し会場にいて一緒にこの世界に飛ばされた、人がそろそろ異変の解決をしてくれてもいい頃合いと思うのだが、彼がここにいるということはまだ解決に至っていないということだ。


 とはいえ進歩はあったと考える。ヒツギは輪入道暴走の異変に大きく関与した。その話がこの世界で広まれば、一緒に来た誰かの耳にも届く。そうすれば事態は動く。ここにいることを伝える良い機会だったと捉え、元の世界に帰ることができるのは時間の問題だと前向きに捉えた。


「そうだ、狐……白い狐は?」

「いや、知らないけど」


 それはともかくヒツギは九尾の狐のことが気になった。夕雅と一緒に彼の目覚めを待っているのかと思ったが、ここにはいないし夕雅も知らないという。少し謎は残ったが、ともあれ三日目の活動開始と気持ちを切り替え、体を起こした。

 また会えたらお礼を伝えようとヒツギは思った。輪入道が鎮まるためのアドバイスに加え、わらわらと湧く妖怪を街の外に帰してくれたアシスト。それらの協力もないと解決できなかったのだから。

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