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43話 タイムリミット

 隕石を降らせて姿を眩ませた妖怪王は、妖怪ダイダラボッチの頭上にいた。彼女はその妖怪と小竹(こたけ)狐行(コユキ)たちが戦うのを見届けて勝った方を倒すことで楽に両者の始末を狙っていたが、隕石の対処を諦めたコユキたちは妖怪を攻撃しに行かず怪世界から脱出に必要であろう妖怪王探しに専念し、妖怪に指示を出していた魔術師あかりは巨体な妖怪の肩の上という高い位置から見る景色を、登り詰めてきた氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)とともに楽しみ始めて、進軍を止めた。

 そのせいで妖怪王寿々絵(すずえ)は望む敵同士の潰し合いが始まらない。隠れるのを止め、ヒツギとあかりの前に姿を現したのだった。


「下がってて」


 そう言ってあかりはヒツギの前に出て、連れの人造人間、ミイラ、そして悪魔を召喚した。だが皆弱っている。妖怪王が現れる前、彼女は彼らを倒そうとしたが、三郷(みさと)楽阿(ラクア)に敗れた。そのときのダメージが残っている。

 しかし相手の妖怪王は彼ら人間と同じサイズ。ラクアが知り合いと勘違いするくらいには人間みたいな存在だ。隕石を降らせる強力な能力も、落ちてくる前なら怖くない。だから滅亡のタイムリミットまでなら、今の彼らだけでも太刀打ちできる。


 人造人間のフィジカルとミイラのロープ投げのような包帯捌きで、妖怪王の拘束を狙う。だが瞬殺されてしまった。突如降ってきた小さい代わりに大量の隕石の雨に薙ぎ払われてしまった。あかりたちも狙われたが、それは悪魔が身を盾にして守った。


「やっぱり、小さいのならすぐ落とせるか」


 大技を撃てるのなら小技も可能なのは納得がいく。ヒツギは寿々絵という敵が持つ能力への認識をすぐに改めた。想定外、というよりは、何も想定していないから内も外もないというか。相手の隠していた強さを見ても動じなかった。



 寿々絵は手を挙げると、小さな隕石が浮かび、空中に穴が発生する。また撃ってくるのかとヒツギは身構えるも、隕石は消滅した。何者かの妨害によって消えたのかと期待した彼だったが、ラクアたちの姿は見えないからきっと今も地上にいる。さらに寿々絵の浮かべる不敵な笑みが気になる。

 ヒツギは妖怪に乗る前、寿々絵が瞬間移動したのを思い出す。あの隕石も同じ要領でワープさせていたとしたら、どこか別の方向から飛んでくるかもしれない。


「気をつけて! どっかから降ってくる!」

「危ない!」


 ヒツギはあかりに警戒を呼びかける。言われる前から彼の横顔を見ていた彼女は、彼の頭上に小さな隕石が迫っていることにすぐ気づき、突き飛ばして回避させた。二人は無事なものの、代わりに足場である妖怪の肩に直撃してしまう。


「大丈夫!?」

「ああ。ありがとう」


 平気と答えたのはヒツギだけで、攻撃を食らった巨大な妖怪は苦しそうな声を上げる。逃げ回るばかりではいつか妖怪が限界を迎える。そもそも隕石が迫っていて時間は限られている。ヒツギは決着を早めるべく反撃に転じた。

 あかりの倒された仲間たちを、彼の特殊能力でゴーストとして召喚する。擬似的に復活させた。本物が倒されたからできる、彼の勝負だ。


 人造人間たちはあかりの味方だが、そのゴーストは彼女の指示が聞こえず、すべてヒツギが操って動く。だが彼はこれまでの接触で戦い方を心得ている。難しく考えることはない。さっき彼女がやろうとしてできなかったことを真似するだけ。

 だが寿々絵を捉えることはできない。一度見ているのは彼女にも言えること。加えて彼女は未来を予知できる。ヒツギが攻撃してくる番なのは予測済みだったので、的確に対処する。寿々絵は自身と人造人間がミイラを挟むような位置を維持するよう立ち回り、人造人間の腕が届かず、ミイラが包帯を伸ばすには味方を巻き込まないよう迂回させる必要がある、二体の戦いずらいポジショニングだ。

 狙いが定まりにくく悪戦苦闘している間も、寿々絵が小さな隕石で攻撃してくる。どの方向から来るか分からないから全方向を警戒しなくてはならず、包帯での捕捉に専念させてくれない。


 そしてヒツギは術中に嵌まり、ミイラの包帯が人造人間に絡まってしまう。解き方を知らない彼は慌てて余計に絡めてしまった。さらに降ってきた隕石がダイダラボッチを襲い、ついに耐えきれず体が倒れていく。

 肩に乗るヒツギたちも一蓮托生。倒れゆく妖怪の上で踏ん張り、急激に落下する感覚に襲われる。そこで彼は悪魔のゴーストに背中を持ち上げてもらい、あかりの手を掴む。肩の上から離脱し、滑空して衝撃を和らげた。しかしダイダラボッチの巨体にブレーキをかけられない。倒れた衝撃で山や建物がいくつも潰された。



 地面から穴を空け、北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)たちが地上へ脱出する。地上で妖怪に潰されそうになったので、髪をドリルのように回転させて穴を掘って待避した。コユキとラクア、そして美南(みなみ)哀月(アイリ)も後に続き事なきを得たが、巨体の妖怪が倒れるのは只事ではないと察する。


「……アカリ! どこ!?」


 倒れた妖怪はあかりの仲間。アイリは彼女が敵と知っても友達に似ているから無事でいてほしいと願う。肩の上に乗っていたはずだが、倒れた体の上を見渡しても姿がない。潰されたか放り出されたか心配になり、呼びかけて探す。

 

「あそこ!」


 滑空する悪魔とそれに抱えられているヒツギとあかりを見つけたアゲハは、その方向をラクアたちに伝える。するとヒツギも彼女らに気づき、合流するよう、けれどもぶつからないよう祈って、悪魔に身を委ねた。結果、彼らとは離れた位置まで流されて着地した。


「平気、みたいだな…… 倒れたのって、まさか」


 怪我した様子ではないと見てラクアは安堵したが、巨体が倒れたのは何かがあったにちがいない。並の人間では歯が立たない妖怪を転倒させられない。彼らの前から姿を消していた妖怪王の仕業ではないか。そんな推測は的中している。


「頭の上にいたんだ、妖怪王が。なあ?」


 ヒツギは目撃者仲間のあかりに振って、同意してもらうことでラクアたちに信じてもらおうとする。だが彼女は彼に助けてもらったことで頭がいっぱいだった。


「どうして……助けてくれたの?」

「……お前だって俺を助けたし」


 ヒツギはあかりに何度も助けてもらった。巨体だからという理由で海へと追いやった仲間の復讐をする彼女からすれば、怪世界を守る妖怪王の復活を目的とする彼らは敵であり、現に一度、魔術師として復活に協力するふりをして人造人間たちで始末しようと対立した。

 けれども妖怪王からすれば、妖怪が人間を襲う異変を起こしたコユキとその仲間であるヒツギも倒すべき敵。あかりからすればヒツギが妖怪王にやられるのは好都合のはずだが、彼女は彼を助けた。

 だから彼もここは助け合うものと思い込み、一緒に落ちそうになったとき彼女を見離さなかった。だから助けた理由は、自分が助けられたからでしかない。


 一方彼女が先に彼を助けたのは、彼を敵と思わなくなったから。隕石による滅亡が迫るなか、彼は仲間の手を借りて登り詰めてきた。彼は攻撃せず、高くからの景色を眺めていた。あかりは復讐心に駆られていたが巨体の上からの景色を楽しむという本来の目的を思い出し、彼と分かち合いたいと思った。だから彼を助けた。


「……そうだったね」


 二人でいたいから守った、と伝えるのを抑えた。借りを返した程度の認識のヒツギに、言っても通じないと思った。それにダイダラボッチが倒されてしまった今、もう一緒に眺めることは叶わない。


「それより、妖怪王のことを」


 あかりは話題を切り替える。結果的にラクアたちと会話できる距離に戻ってきたから、情報共有を優先するべきだと伝えて。

 助けた理由を聞いてきたのは彼女の方なのにそんなこと呼ばわりした件にヒツギは首を傾げるも、彼女の言い分が正しいと受け止め、妖怪王と出会って勝負したことを打ち明ける。


「この頭の上にいたんだ。小さい隕石をドカドカ落として、皆やられちまった」


 地上で姿を消した妖怪王は巨体の上にいて、逃がすまいと戦い、隠し持っていた小さな隕石の雨にあかりの仲間は皆倒されてしまった。巨体が地面に伏したのも妖怪王の仕業であり、今後戦うときはその能力にも注意が必要だと忠告する。


「踏み潰すのを止めたのは、上で戦ってたからか」

「いや……それは違う」


 陸に乗り込んできた巨体が急に足を止めたのは、妖怪王との戦いが始まっていたから、へたに動いて足場を不安定にさせないためだったのかとコユキは考えた。だが実際は違うとあかりが答える。復讐の前進を止めたのは乗り込んできたヒツギに施されたからであり、それからしばらくして妖怪王が現れた。どのみち戦いの最中は足を止めてもらうつもりだったからが、止まったきっかけと妖怪王は関係ない。

 そしてこの訂正は、妖怪王の真意を探るヒントとなる。


「じゃあ……止めたから現れた?」

「そう。そっちで潰し合ってくれれば楽なのだけど」


 真意に勘づかれたからには両者の対立に期待できない。そう判断し面倒だが全部自分で倒すと決めた妖怪王が再び姿を現した。


「追いやられた恨みで街をめちゃくちゃにしようとしたあなたと、妖怪に人間を襲う暗示をかけたあなた」


 寿々絵はあかりとコユキを順に指差し、彼らが怪世界にもたらした被害を言葉にする。


「皆まとめて、ジ・エンドよ」

「なら俺たちを帰してくれ! 俺たちは悪くない!」


 どちらにも加担していないラクアは寿々絵に訴えかける。確かにこれまでコユキと同行していたが、妖怪が人間を襲う異変は同行する前、知らぬ間に彼が独断で起こした問題だ。共犯ではない。そして怪世界に来たのも、肝試しの最中に突然飛ばされたからであり、来たくて来たのではない。

 そんな自分たちまで一網打尽に潰されるのは御免だが、巨大な隕石を防ぐ方法は無い。だから無関係な自分たちは急いで元の世界に送り返してほしいと懇願した。彼自身とアイリ、アゲハ、そしてヒツギを助けるために。


 それにラクアは寿々絵のことを幼なじみ本人と思い込んでいる。実は妖怪王だったとしても長年向こうの世界で一緒に過ごしたのも事実。幼なじみのよしみで助けてもらえないかと期待して頼んだ。


 見離して自分だけ助かろうと縋る姿に寿々絵は呆れた。


「俺からも頼む! ちゃんと墓は立てる。こいつらのこと忘れない」


 ヒツギも便乗して頭を下げた。コユキたちが起こした問題を風化させないために、墓という証を残す。それが自分が助かることで果たせる使命と考え、隕石が落ちる前に転移させてくれないかと頼んだ。

 しかし寿々絵の反応から悪手だったのではと思い直した彼は、咄嗟にアゲハに擦りつける。


「……おい! また俺の声で勝手なセリフを」

「はあっ!? してないし」


 アゲハは声を真似て離れた位置から発声させる特殊能力があり、ヒツギは勝手に代弁させられた。今のセリフも彼女が勝手に彼を演じて言ったということにして、彼の本心ではないと妖怪王に信じてもらおうとする。

 だが今回はそんなイタズラを仕掛けていないし、失言を他人のせいにするなと言い返す。だがヒツギも諦めず、自分はそんなみっともないことを言わないと反論し、ラクアに流れ弾を浴びせた。


「俺だけが思ってるみたいに! お前らも同じこと考えてるだろ!」


 ラクアも人や世界を見捨てて自分は助かろうとするのは印象が悪い自覚はある。けれども声に出したのが自分だけで、実は皆も内心同じ考えのはずだと指摘する。これで自分だけ責められて、黙ってるだけの面々が平気で助けてもらえるのは納得がいかない。


「訂正だ。正直に言った俺だけ帰せ」


 苛立ったラクアは、頭を下げないのに便乗して助かるのを許すまいと、言葉にした自分だけを元の世界へ連れていくよう妖怪王に頼んだ。自分の口で言わない限り、他の三人は見捨てる。といっても助かりたければ自分で何とかするようにさせたいだけで、同じように訴えかけたらその人とは一緒に帰還する。


「……分かってない」


 寿々絵は人間と妖怪が協力して解決することを望んでいるのであって、無関係だからと主張して助かろうとする姿勢を求めているわけではない。それにラクアの幼なじみとは別人だから、特段贔屓する義理もない。これまでは何かの役に立つと思って彼の幼なじみと同一人物のふりをしていたが、もうその必要はないと判断した。


「分裂したあなたたち……結果的に楽に倒せそう」


 想定とは違う形で勝手に潰し合いを始めてくれて寿々絵としてはラッキーだ。仲間割れした彼らを崩すのは容易いと確信し、勝負を挑んだ。

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