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42話 頼れる人

 人間と妖怪が共存する怪世界に転移させられた氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)たちは、妖怪が人間を襲う異変の収束と元の世界へ戻る鍵を握るであろう妖怪王と出会った。

 だが問題が二つある。一つは妖怪王を呼ぶために巨大な妖怪ダイダラボッチを引き連れて上陸しようとした魔術師あかりが、妖怪王が現れて目的は達成されたにもかかわらず迫っていること。ここで諦めても妖怪王に始末されるだろうから、いっそのこと好き放題暴れるつもりだ。このままでは踏み潰されて地形がめちゃくちゃになったり人間も妖怪も被害が出る。

 もう一つは妖怪王が怪世界を滅ぼそうとして隕石を降らせていること。着弾すると人間も妖怪も吹き飛んでしまう。争う者を等しく抹消し人間と妖怪に協力して復興させることで共存する社会を作り直す気だ。


「スズエ……なんて奴だ」


 三郷(みさと)楽阿(ラクア)美南(みなみ)哀月(アイリ)は、妖怪王の正体が知り合いの東戸(ひがしと)寿々絵(スズエ)だと思い込んでおり、実際はそっくりな赤の他人の妖怪王は、彼らの誤解を利用するべく、その知り合いを演じている。


「やっぱりそっくりさんじゃないの? あいつみたいに」


 自分たちと同じで特殊能力に目覚めただけの普通の人間だと思っていたが、実は妖怪王で隕石を落とす能力も隠し持っていたことに驚くラクアたちに、北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)は疑問を投げる。魔術師あかりが本性を露にした際も同じような反応をしていたが彼女は知り合いの西浦(にしうら)あかりとは別人だった。だから実は寿々絵も彼らの知り合いのスズエでは別人ではないかと。

 確かに今回は寿々絵本人が同一人物と認めているが、勝手に言っているだけで証拠がない。するとラクアは試そうと考えた。妖怪王は怪世界を滅ぼす野望を掲げていて、自分たちの早とちりを利用できると考えている疑いがある。スズエ本人ではない証拠を発掘するべく、本人なら知っている思い出を言えるか尋ねた。


「そ、そうか…… 俺のこと分かるか?」

「あの子のこと好きでしょ」

「ちょっ、それは言わない約束だろ!」


 スズエとはそっくりなだけで面識がない妖怪王は、当然彼女の記憶を知らない。ラクアやアイリのことも、彼らが怪世界に来てからのことしか知らない。だからその範囲で判断し、すると図星を突かれた彼は同様した。アイリのことは小学生の頃から好きでスズエにもバレているが、本人に片想いを暴露するのは止めてほしいと頼んでいる。自分たちについて知っていることを言えと頼んだのはラクアたちだが、こんな形で想いを明かされるのは嫌だ。


 なおヒツギたちもラクアとは怪世界に来てからの知り合いであり、彼がアイリを好きなことは態度からバレバレだ。妖怪王に見抜かれていても不思議ではないと思い、この程度ではスズエ本人としての証明にならない思えた。


「あの子じゃ分からないよ。名前を言いな」

「やめろ馬鹿」


 そこで小竹(こたけ)狐行(コユキ)は寿々絵にアイリの名前を知っているか尋ねた。寿々絵が彼女らと旧知の仲ならすぐ答えられるはず。そしてコユキたちは道中ラクアが何度も彼女の名前を呼んでいたおかげで覚えた。妖怪王が答えに迷ったり間違えたりした時点で、彼らの知り合いのスズエとは別人と見做すテストだ。ついでに彼の好意をバラしてドキドキさせられて一石二鳥。

 そんな作戦をラクアが阻止してきた。コユキを放っておくと暴露されると察し、腕で押さえ込む。触れた相手を過労させる特殊能力で彼をダウンさせ未然に防ぐ。貴重な戦力を削がれてしまったが意に介さない。


「仲間割れしてる場合じゃないよ!」


 アイリの言う通り隕石が迫っている。放っておくと皆やられてしまう窮地なのに味方を潰してどうするのかとラクアを注意する。彼しか頼れる人がいないから、真剣に考えてほしかった。



「仕方ない。この世界は諦めて脱出を優先だ」


 迫ってくるのが生き物なら、ラクアは受け止めつつ相手を過労させて勢いを失うのを待つという根競べな対処ができるが、物体が相手では効果がない。そこで彼は対処せずに助かる道を考えた。これまでは異変解決のために妖怪王を探し回っていたが、それは元の世界に戻るための条件とは限らない。

 妖怪王を説得して異変をどうにかして帰還することがこの旅のトゥルーエンドだったのかもしれないが、そこへ辿り着くためのフラグは立てられなかった。だからハッピーエンドを目指す。滅亡する怪世界から脱出する方法を考えた。


「脱出できるの?」

「知らん。でもあいつなら知ってるはず」


 脱出の計画を遂行する気なのは頼もしいが、方法を知っていて黙っていたのかとアイリは不信感を募らせる。だがラクアも方法を知らない。だから代わりに知っている人から聞き出せばと割り切っている。その相手は妖怪王寿々絵だ。彼女のことは今も幼なじみと思い込んでいるが、自分やアイリが助かるためなら容赦をしない覚悟を決めている。


「……戦うの?」


 ラクアは黙って頷き、寿々絵と向き合う。まさかこんな形で勝負するなんて想像したこともなかったが、勝って帰る方法を聞き出さないと隕石に潰されてしまうので、綺麗事は言っていられない。

 隕石を落とす能力を隠し持っていたのは衝撃だが、落ちてくるまでに時間がかかり、その前に勝つことを考えればその能力は無いも同然。スズエが持つ元々の能力も開けた場所での一騎討ちなら脅威ではない。ラクアは勝算があると見込んだうえで彼女に挑む気でいる。間合いを詰めれば彼は優位に立つこともあり、彼は突撃していった。

 だが寿々絵は姿を消した。見失ってしまったが隕石は今も迫っている。突然現れたこともあり瞬間移動する能力もあるかもしれないとラクアは考え、辺りを警戒する。自分たちがここにいることは相手に見えているはず。だがどちらを向いているかまでは読まれない。奇襲に備えて四方をチェックした。


 そして寿々絵が瞬間移動した先は妖怪ダイダラボッチの頭の上だった。ラクアが見渡す視界より高い高度にいて、他の誰も気づかない。ダイダラボッチの肩に乗るあかりでさえ、音も影もなく乗ってきたことに気づかない。

 寿々絵の狙いは当初の流れ通りラクアたちとあかりたちをかち合わせること。妖怪に人間を襲わせたコユキとその仲間たちも、巨体過ぎて海に追いやられたことに復讐を掲げるあかりも、等しく成敗の対象。彼らが戦い消耗し合ってくれた方が、それから始末する寿々絵としては楽だから、それまでは高みの見物だ。



 そんな寿々絵の策を知らずラクアは探し続け、もしお手上げならアイリに最後に何て告白するか考えていた。アイリは彼女に潜まれる前に特殊能力で拘束しておけば彼をアシストできたと気づき反省する。言及しても彼に責められるだけなので言葉に出さないが。


 一方迫るあかりのことが気になるヒツギは、ラクアに疲れさせられたコユキがようやく回復して立ち上がるのを見届けて、頼み事をした。


「あれに変身できない? 俺を乗っけて」

「……できるけど、勝ち目は」

「大丈夫。同じ大きさでお願い」


 コユキには九尾の狐の化ける能力がある。巨大な妖怪に化けるのも可能だが、それで互角に渡り合えるわけではない。ヒツギの狙いが何かは分からないが、あまり期待しないでと補足した。

 だがヒツギとしては可能という返事を得られただけで満足だった。あかりと同じように乗せてほしいと頼み、その後どうするかは彼女や妖怪王の反応で決めることにした。

 コユキはラクアに過労させられたダメージが残っており、蹌踉めきながらヒツギを背負う。アゲハにも支えてもらい何とか持ち上げ、そのままダイダラボッチに化けてみるみる巨大化した。

 ヒツギは空高くからあちこちを見渡す。これがあかりの見ている景色なのだとしみじみと眺め、周りの反応を窺う。引き続き向かってくる彼女と、姿を眩ませたままの妖怪王。消耗したコユキが長持ちしないと読み、彼は計画を立てる前に今しかできない指示を出す。


「ぶつかりにいってくれ。向こうに乗り移る」

「分かった。信じる」


 その指示とは相手に触れるほど接近することで、そうすればヒツギは相手に飛び移れるかもしれない。事情をあかりに伝えたらダイダラボッチのパワーで隕石を攻略できるかもしれない。そう考えてコユキに危険を承知で頼むと、彼は迷わず承諾した。飛び移れるか、移れたとしてどうすればうまくいくかは分からない。それでもやれば道は開けると考えて決行する意思を持つヒツギならきっと大丈夫だと信じ、慣れない巨体を動かしてあかりの方へ進み出した。


 彼女も同類の接近に気づき、逃げず迎え撃つ。不用意に動いて陸に被害をもたらしかねないのに向かってきたことを後悔させるべく、味方のダイダラボッチで押し倒してしまおうと考えた。そして狙い通り取っ組み合いを制する。両者がぶつかったとき、ヒツギは勢いを利用して飛び移った。それからコユキは力負けし、倒れた体が地面に着く前に元の姿へと戻り、何も潰さずに済んだ。


 陸への被害をコユキに押しつけられなかったことは残念に思うあかりだが、ヒツギが近くに来てくれていたことに気づく。彼も目が合ったことに気づくと、まずは会釈して歩み寄った。



「妖怪王が出たって聞いたけど」

「みたいだな。すぐどこか行ったけど」


 アゲハが特殊能力で飛ばした蝶を一方通行の電話代わりに、話してあかりに状況を伝えていた。遠くて姿ははっきりしなかったが彼女らの前に妖怪王が現れたと聞かされており、本当なのかとヒツギに尋ねる。

 現れたのは事実だから彼は頷く。すぐ姿を消したしどこに向かったかも分からない。だからあかりの所に向かい、事態が動く可能性に賭けたのだ。


「……どっか行って」


 あかりは妖怪王の狙いが自分たちだと勘づいている。大規模な騒ぎを起こせば止めに現れると想定しての進撃だから、会いたい彼らの役に立つと同時に自分たちはただでは済まないと覚悟している。そしてそばにやってきたヒツギは巻き添えを食らってしまう。それは悲しいから、笑って突き離した。

 その笑顔に彼はドキッとするも、行く当てがないから無視して残り、話しかける。


「飛行機から見下ろすのとはだいぶ違うな」

「ヒコーキ?」


 怪世界は妖怪の力や能力に頼って科学の進歩がヒツギたちの世界よりずっと遅れている。聞き覚えのない単語に首を傾げるあかりに、ヒツギは彼女には伝わらないと察した。話したいのは飛行機についてではない。


「こんなに良い眺め、お前は普段から見てたの羨ましい」

「光があるともっと綺麗よっ。夕焼けとか、海とか」


 あかりは元々は巨体の妖怪で街を荒らす気はなく、乗せてもらって一緒に空からの景色を眺めるのを楽しんでいた。同じ経験をして共感するヒツギに、別の時間帯ではもっと綺麗に映ると紹介する。

 街に被害が出るから禁止されて、復讐のために動いていたが、かつて純粋に眺めを味わった気持ちを思い出した。妖怪王に狙われる自分に巻き込ませたくなかったが、眺めを楽しむ彼と気持ちを分かち合うために寄っていった。


「隕石が迫ってなければもっと綺麗だっただろうな」

「……うん。もっと明るいはず」


 妖怪王に狙われている以外にも、その彼女が落とそうとしている隕石という問題がある。ゆったり眺めを謳歌している場合ではないが、どうすることもできないのも事実。ラクアの言う通り妖怪王を倒して元の世界へ待避するしか助かる道はないが、その妖怪王は隠れたままだ。

 隕石のせいで空はだんだん暗くなっている。普段ならこの時間帯でこんなに暗いのはよほどの悪天候の日だが、考えれば雷が落ちるより物騒な日だ。


「……でも、今日はあなたの顔が見える」


 だが今まで一緒に景色を眺めてくれる人がいなかったあかりにとっては、ヒツギと眺める今日を特別に感じた。普段も今日も巨体の妖怪と一緒なので独りというわけではないが、言葉の通じ合える人間同士でいるのはまた違う。


「焦れったいわね。早く戦いなさいよ」


 痺れを切らした妖怪王がヒツギたちに向かって叫んだ。まさか肩に乗る自分たちより高い頭の上にいたとは思わず彼らは驚く。寿々絵からすれば両者がかち合って勝ったが消耗した方を倒すという、楽に殲滅する作戦だったのに、争う前に止まってしまっては意味がない。

 あかりを止めることで妖怪王を引き摺り出すなんてつもりはなかったヒツギだが、出てくれたのは好都合。だが地上のラクアたちに知らせる術がない。


「……よし、勝負だ」


 だったら自分たちで妖怪王を倒す。勝算はないが、試すと決めた。なお寿々絵の狙いはヒツギたちとあかりたちの勝負だが、そんな企みを知らない彼はあかりと共闘して寿々絵に勝つつもりでいる。

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