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41話 迷惑な連中

 魔術師あかりが本性を曝け出して敵対し、氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)たちは壊滅一歩手前まで追い込まれた。しかしヒツギの機転により形勢逆転。昨日破壊された照魔鏡の破片を忍ばせていたのが功を奏し、拘束された仲間を救出し、反撃開始して勝利した。

 その照魔鏡は化けた妖怪の正体を明らかにする効果を持ち、ヒツギは怪世界に来たばかりの頃に出会った人力車引きの俥夫から託された。ずっと持ち歩いていて何度も彼の役に立ったが、旅を続けるなかでヒビが入り、ついに粉々になってしまった。


「あの鏡が割れたけど、いよいよ大詰めなんだなって」

「あれホントびっくりしたんだけど」

「うん。何しれっとぶっ壊してたの」


 元の世界へ戻るため、怪世界で起こった妖怪が人間を襲う異変を止めるための旅の重要アイテムだった照魔鏡が破壊された。それは役目を終えたとも捉えられる。旅の目的である妖怪王探しは、全国各地を巡ってきたが、ついにもうすぐ会えるかもという段階まで来た。

 願うが叶うときにミサンガが切れるように、もう出番がなくなるから壊れる運命を迎えたのかもしれない。そう呟くヒツギに、そもそも突然壊れていたことに驚かされたと小竹(こたけ)狐行(コユキ)北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)が反応する。二人は昨日各自自由行動する前までヒツギと同行していたからこそ、知らないところで大事な道具が壊されていた事実に唖然としていた。

 事実を知ったのはさっきあかりと勝負していた最中で、そのときは詳細を尋ねる場合ではなかったが、今は去って野望実現に向けて動き出したあかりの元へ向かっている最中で、交戦中だったときよりかは余裕がある。


 一方で三郷(みさと)楽阿(ラクア)美南(みなみ)哀月(アイリ)は定員の都合でヒツギとは別の人力車に乗ってきたから、彼と離れていた時間が長く、いつの間にか照魔鏡が割れていたことにコユキたちほどの驚きは感じなかった。


「さっきのデカい奴のパンチで、バキって」


 ヒツギは照魔鏡が割れた経緯を明かす。といっても単純で、コユキたちと同じく自由行動中に一人でいたところをあかりの仲間に攻撃され、咄嗟に鏡を盾にしたら破壊されてしまっただけの話。特別な効果はあれど作りは普通の鏡で、強い力を加えれば割れるのは当然のこと。前にもコユキに踏まれてヒビが入ったから、脆いのは分かっていた。


「で……妖怪王は出てきてないみたいだけど」


 ヒツギの推測通り旅の大詰めだとしたら、妖怪王がついに現れるはずだ。当初はもういないものと考えあかりに復活を依頼したが、どこかで生きているからできないと言われて諦めた。逆に彼女はラッキーと捉えヒツギたちに勝ったら決行する野望を、負けたにもかかわらず強行した。

 巨大な妖怪ダイダラボッチが龍の形をした列島に迫る。そんな危機に妖怪王が動き出すと推測したヒツギだが、まだ姿を見ていない。見過ごすような被害の規模ではないはずだが、もしかしたら復活させる必要があったのかもしれないとコユキたちは思えてきた。復活させられないのはあかりがそう言っただけで、実はできるのに騙したのかもしれない。もしそうなら彼女の野望をどこからか現れた妖怪王が阻止してくれる、なんて期待はできない。そのときは妖怪王の行方を掴めないままなので、旅はまだまだ続くかもしれない。照魔鏡を使えないと困る場面が出てくるかもしれない。



 あかりと勝負した以外に何もしなかった蘇生の山を降りて、海から迫るダイダラボッチとその肩に乗る彼女と対峙した。


「見つけたぞ! ボクらはここだ!」


 しかし離れていて声は届かない。そこでアゲハは特殊能力で声をあかりのそばから出す。まるで電話のように離れた場所へ、さらに色んな声色で発することができる。コユキたち周囲にも聞こえる声量で、疑いの言葉を投げた。


『妖怪王を復活させられないってのは嘘じゃないでしょうね?』


 巨大過ぎて海に追放した妖怪が陸に迫ってくる。こんな一大事にも妖怪王は姿を見せないから、実は来られないのではないかと考えられる。そんな状況を想定してあかりに復活を依頼したのだが、できないと言われた。

 巨体を理由にパートナーを追い出されたことに復讐心を抱くあかりにとって妖怪王は邪魔な存在。活き活きと決行する彼女を見て、復活させられないのは嘘ではないかと疑ってかかる。もし嘘だったら、ただでは済まさない。

 あかりは証明に困った。できないことを演技ではないと信じてもらうのは難しい。特に今回のように、できないと嘘をつくことがプラスにはたらくケースでは。


「本当だぜ。俺も出せない」


 もしあかりが復活させられるのなら妖怪王はこの世にいないわけで、それならヒツギの特殊能力でゴーストとして召喚できる。彼の意思で動く、シルエット状の存在だ。それを出せないということは脱落者ではない。つまりどこかに潜んでいる。ヒツギによってあかりの証言は正しいと認められたのだ。


「庇ってない?」

「……え、何のために?」

「まあいいけど」


 アゲハはヒツギがあかりを守ろうとしていないかと疑った。彼がゴーストを召喚できないというのもあかりと一緒でそういう演技かもしれないし、二人が意見に整合性を持たせて事実を捻じ曲げることもできる。

 だがヒツギは首を傾げる。結果的にあかりを擁護しているが、事実を述べただけのこと。もしゴーストを出せたら彼女は嘘つきと言い張るつもりでいた。決して彼女に気に入られようと、庇うつもりで発言したわけではない。そんなヒツギの言い分を態度で信じたアゲハは、自分の思い過ごしだと受け止める。


「それにあいつらの知り合いの子と似てるらしいし、根は良い子じゃないかな」


 ヒツギはあかりのことをよく知らない。だがアイリとラクアは、彼女とそっくりな女子と面識があり、最初は本人と思い込んでいた。別人と分かってからも、裏切りの瞬間に本人と重ね合わせて本人がそんな言動をしたかのように酷くショックを受けていた。

 裏切ったら驚かれるくらいに良い子なら、そのそっくりさんのあかりも同じくらい良い子なようにヒツギは思う。約束を裏切って巨大な妖怪を呼んだのは、きっと彼らを思ってあえて悪人になる気なのかもしれない。騙すつもりなようには見えないと思う。

 するとアゲハは彼を信じ、再び声をあかりに届ける。


『君は正直者だ』

「え、それ俺の声?」


 今度は自身の声色ではなく男の低い声だった。聞き慣れない声だがヒツギはもしかして自分の声かと尋ねるとアゲハは頷いた。ミスではない。あえて彼の声をあかりに届けるために真似たのだ。


「あなたの言葉だし」

「まあいいけど」


 遠くへ声を届けられるのはアゲハだが、あかりが嘘つきではないと証明したのはヒツギだ。アゲハは届ける声色を自由に変えられる点を活かし、彼の手柄として伝えてみた。そんな経緯を聞いてヒツギは構わないと割り切った。誰の声でも言葉が同じ。アゲハが彼の声で余計な発言をしたわけではないから、勝手に声真似されても受け入れた。


 なおあかりはヒツギが信じてくれたことにドキッとした。昨日会ったばかりで彼の特殊能力をよく知らないから、彼が証明の適任者だとは気づいていない。ひとえに信用してくれたと受け止め、嬉しくなった。その信用に応えるために、自分を犠牲にしてでも妖怪王を引き摺り出すと覚悟が強まった。


「妖怪王ならここよ」


 突然背後から聞こえた声にヒツギたちは驚き振り返る。その顔にラクアとアイリは覚えがあった。


「スズエ! 居たのかよ」


 東戸(ひがしと)寿々絵(スズエ)はラクアの幼なじみで肝試しの会場に一緒に来た、くじ引きでアゲハとペアになった参加者だ。だから彼らと同じく怪世界に飛ばされていてもおかしくない立場だが、スズエは来てないものと思い込んでいた。頭上に数字が見えて人探しに長けた彼女は、来ていたら散り散りになった他の人たちを数字を頼りに合流し、とっくに全員集合できていたにちがいない。

 けれどもそんなことはなく無計画に全国を旅していたヒツギの元へ次々と集まっていったから、彼女は怪世界に転移させられていないと思い込んでいたので、今さら現れたのは驚きだった。


 なお彼女もあかり同様、顔と名前が似ているだけの別人で、ラクアたちのことは知らない。しかし知り合いと錯覚させておくと何か便利かもしれないと考えてなりきろうとした。


「能力失ったのか? お前なら俺らがどこいるか分かるはずだろ」

「……そうね。だからここに来た」


 人の恋もしくはガチの寿命が数字で見えるというのがスズエの能力。という設定を知らない寿々絵はラクアの話に適当に合わせた。実際彼らに会いにきたのは事実だ。

 

「私こそが妖怪王」

「……え?」


 ラクアは幼い頃から、アイリも小学生の頃からの知り合いのスズエが、正体は妖怪王だと名乗ったことに思考が固まる。だが別人であり、本人は怪世界の外。外ではあまり時間が進んでおらず、けれども彼らの数字が見えないことでどこかに消えたと察し、騒然としている。

 アイリとラクアがいるなら大丈夫だろうとは信じているが、二人揃うことで彼が動揺し足手まといになっていそうで不安でもあった。



 妖怪王を名乗る寿々絵。彼女と似た女子と面識のないコユキやアゲハは、彼女の発言を真に受けた。怪世界がめちゃくちゃにされそうなこのタイミングに現れても不思議ではないと思っていた。現れたらどうするかも考えていたから、計画通りに話しかける。


「あいつを止めてくれるか」

「任せて」


 そう答えるも寿々絵はその場から動かない。いよいよダイダラボッチが陸に乗り込んでくるというのに、彼女がどう対処するつもりなのかコユキたちには読めない。


「お前、本当に妖怪王なのか。道理で探しにきてくれなかったわけだ」


 ラクアはスズエが妖怪王だと思い込み、それなら怪世界に飛ばされた自分たちを放置していたことに納得できると考えた。そんな重要な役職なら、合流や脱出を優先しない。怪世界での使命を果たすために動いていても不思議ではないと。


「……ラクアは普通の人?」

「当たり前だ。……疑う気持ちは分かる」


 ラクアは幼なじみのスズエの正体を知って驚いたが、彼らと小学校の旧友のアイリは実は彼も彼女の同類なのではと思えてしまった。そんなことはない、普通の人間だと答えるも、そう思っていたスズエが実は妖怪王だった事例を受けて、疑心暗鬼になるのは仕方ないと思った。


「あれが妖怪王……」


 彼らと離れて巨大な妖怪の肩に乗るあかりには、彼らの会話は聞こえない。けれどもアゲハが実況するのを聞かされ、事情を把握していた。

 妖怪王に会うことがヒツギたちの目的。騒動を起こせば現れると賭けていたが、幸い乗り込む前にやって来た。未遂の今引き返せば妖怪王に始末されずに済むかもしれない。撤退し、彼らを妖怪王に会わせるための芝居だと打ち明ければ、平和的に解決するかもしれない。

 だがその可能性は無いと考え直した。妖怪王に見つかった自分たちが野放しにされるとは限らない。裏切ったことで彼らを怒らせ、始末するよう頼んでいるかもしれない。そんな思い込みからあかりは、進む一択と割り切った。


 ついに上陸し、地響きを立てて歩く。踏み潰されそうな人間や妖怪がいてもお構いなしだ。そんな迷惑な連中を妖怪王が放っておくはずはない。と思ったが、まだ動かない。ラクアは不思議に思う反面、逆に知る限りのスズエの実力で何かできるのかが疑問だった。


 徐々に空が暗くなる。朝出発して山を登って降りただけなのに、日没には早いと違和感を覚える。見上げると、巨大な隕石が迫っていた。


「一度全部壊すわ。人間と妖怪が共存する世界を作り直すために」

「まさかお前があれを!?」


 まさか星を降らせる能力を隠していたとはラクアは思いも寄らなかった。特殊能力の有無や性質は彼らが暮らす島の測定器で判明する。そこに登録されたスズエの能力に、こんな物騒なものは無かった。能力評価は島の同学年でトップクラスのAランクだが、アイリと同階級だしSランクのラクアの方が上だ。けれども惑星一つ消し飛びそうな能力に太刀打ちできるほどのパワーはない。そんな恐ろしい力を妖怪王という正体とともに隠していたのかと唖然とした。


 こんな威力では、ダイダラボッチどころか彼らや他の住人もただでは済まない。だが寿々絵がさっき口走った通り、狙いは世界の作り直し。争ったり仕返ししたりする野心を宿した者を皆殺しにし、崩壊した世界を復興する過程で人間と妖怪に協力させる。そうやって共存に近づける狙いだ。


「こうなったら、あいつと協力して何とかするぞ!」


 裏切りだとか復讐だとか、争っている場合ではない。妖怪王の野望を阻止するため、あかりと巨大な妖怪の手を借りる交渉をコユキが提案した。

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