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40話 光が差して

 魔術師に妖怪王を復活させてもらうため蘇生の山を登る氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)たち。もう少しで到着というところで魔術師あかりが本性を露にし、ヒツギたちを潰しにかかる。彼以外の四人は拘束され、絶体絶命の状況だ。


「不思議な鏡を持ってたようだけど……さっきぶっ壊して土に還してしまったのよね」


 あかりはヒツギが妖怪に対抗するためと思わしき道具を持っていたのを知っている。人造人間に襲われたとき、彼は照魔鏡を盾にして防ごうとした。だがその鏡は正体を暴く性質があるだけで本物には効果を発揮しない。拳に砕かれ、もはや使い物にならない。だからもう彼に打つ手はないと、あかりは言及して追い詰める。


 なおヒツギは壊れた鏡のことをすっかり忘れており、あかりに指摘されて思い出した。一方で彼の仲間たちは知らぬ間に彼の武器が失われていたことに焦る。道理で最近取り出さなかったわけだと納得したが、頼みの綱を断たれて大ピンチだ。


 あかりの仲間は人造人間も悪魔もヒツギの仲間を押さえ込むのに両手が塞がっており、残るミイラがヒツギを狙って包帯を伸ばす。すると彼はポケットから取り出した破片を振り回し、縛られる前に包帯を切り裂いた。

 想定外の反撃にあかりは驚く。ヒツギが壊れた鏡を土に埋めるのを見ていたが、実は破片を一部回収していたのは知らなかった。割れて鋭利な面ができ、包帯を切る武器を隠して持っていたのだ。



 立て続けにヒツギは反撃する。鏡の破片を傾けて太陽光を反射し、あかりの顔に向けて目眩ましをした。光が差して怯み仲間への指示が遅れた隙に、ヒツギはラクアの包帯を破片で切った。その下の服が彼の肌を守り、無事に解放した。

 逃げられたことに気づいたあかりはもう一度拘束するよう叫んだが、先に動いたのはラクアだった。彼はアイリを押さえる人造人間に飛びかかり、特殊能力で過労させる。腕を疲れさせ、拘束が緩みアイリも解放された。だが人造人間に触れていた彼女にも能力が影響し、疲れが蓄積して体が蹌踉めく。


 このままでは形勢逆転されてしまう。あかりはラクアの対処を最優先と判断し、悪魔にもコユキを捕まえたまま彼に突撃するよう指示を出す。


 ミイラ、人造人間、そして悪魔の三体が一斉にラクアに迫る。これを彼は両手と腹で受け止め、踏ん張った。彼にも負担がかかるが、敵が疲れるまで堪えきり、まとめてダウンさせた。悪魔が倒れたことでコウモリもバタバタと落下する。彼の一蹴により、勝負はついた。


「……降参。私の負け」


 もう打つ手がないあかりは負けを認め、勝負は終わった。


「大丈夫!? 苦しくない?」

「平気よ」

「ボクは平気じゃない……」


 アゲハは口を塞いでいた包帯を外し、怪我はないと答えてアイリは安心した。だが自分は違うとコユキが訴える。彼は狐に化ける体力を失い、人間の姿に戻って突っ伏していた。これはラクアの能力の影響。悪魔は彼を捕まえたままラクアに触れて過労した。間接的にコユキも触れたため、疲れを蓄積させられたのだ。


「悪い、お前らも巻き添えにして」


 自分のせいでコユキはクタクタになっていると自覚のあるラクアは、勝つためには仕方なかったと謝る。そして巻き添えを食らったのはアイリも同じだ。彼女も人造人間越しに彼の能力を受け、疲れが溜まっている。幸いコユキほど長時間受けたわけではないから、決着する頃にはアゲハに駆け寄れるくらいに回復していた。


「誰かさんが敵に能力教えなければ楽に勝てたのに」

「ごめん……」


 ラクアはアイリを責める。彼女があかりに特殊能力を明かしたせいで彼は真っ先に無力化させられた。それがなければ彼女らが敵に捕まる前に対処できていたかもしれず、そうだったら彼女らを過労に巻き込むこともなかった。

 あかりが敵になるとは思わなかったアイリは、悪気はなかったとはいえ敵に情報を流してしまったことを謝る。元はといえば彼が宿の女子部屋に忍び込もうとしたせいなのだが、彼の圧に怯えて言い返せなかった。それに言い返したところで、彼は他の男子に参加を強制させられた身だろうし、余計に揉め事を生むかもしれないと考え、言葉を飲み込んだ。


 そんな二人のやりとりを見てコユキとアゲハは、ラクアの片想いが道理で伝わっていないのだと納得がいった。王様のような高圧的な態度が、彼女に抵抗感を植えつけている。



「裏切ったのに放ったらかし……」

「変な連中だ」


 あかりは負けたら彼らに非難される覚悟でいたが、彼らの中でギスギスし始めて眼中に無い。無傷で勝ったヒツギだけは誰かを責める気は起こらずあかりのことを気にして彼女に近寄り話しかける。

 もしかしたら彼らなりの気遣いかもしれないとヒツギは考えた。全員があかりにヘイトを向ける前に矛先を仲間で向け合い、彼女を許せるようになる意図を込めている可能性がある。


「約束だから、復活をお願い。妖怪王の」

「分かった。ついてきて」


 あかりは巨大な妖怪を呼び寄せる野望を掲げていた。ヒツギたちが勝ったことで阻止したが、それで一件落着ではない。当初彼らが魔術師の彼女に依頼した、妖怪王の復活。蘇生の山を登るのを再開し、置いていくと釘を刺してラクアたちの衝突を中断させた。


「……できないわ」

「やっぱり……じゃあ破壊されたわけじゃないんだ」


 あかりは儀式を始めるも、何も起こらない。復活させる対象が生きているということであり、氷漬けのまま破壊された説は否定された。


「あの氷の中には居なかった。アイリが壊したんじゃなかったのか」

「ごめん、嘘だったみたい」


 破壊はアイリの仕業だが、妖怪王を始末したのは勘違いだったと判明し、彼女の手は汚れていないと分かりラクアは安堵した。一方アイリは彼らに無駄な旅をさせてしまったことを気にして謝る。彼女が氷塊を壊したが中に妖怪王がいたかどうかははっきり覚えていなかった。だからいた可能性に賭けて、それなら復活させればすぐ会えるという話しが進んでここまで来た。いないと堂々と答えられていたら、復活を目指すのは寄り道と分かっていただろう。


「いいさ。探せばどこかにいるって、はっきりしたし」


 とはいえアイリ以外の誰かによって妖怪王が倒されていた可能性もあった。そしそうだったらいくら探しても見つからないわけで、儀式で試して生きていることを明確にしたのはこの旅の収穫と言える。探せばどこかにいる。彼らのゴールは変わらない。

 だがそのどこかについて手がかりがない。また一から仕切り直しだ。


「……ここにはいないのね」


 復活して目の前に現れるのを覚悟していたあかりにとっては、どこか分からない場所にいるから今ここに復活することはないと知ったのは最後のチャンスだ。運好く遠くにいたら、すぐにここに駆けつけては来られない。なら野望を邪魔されることはない。

 そう企んだ彼女は魔術で妖怪を呼び寄せた。海に隔離されていた巨大な妖怪ダイダラボッチが、陸地へと迫ってくる。これが彼女のパートナー。動くと危ない巨体だからと追放した連中へ復讐する野望の、一蓮托生の仲間だ。

 山頂から見える巨体な妖怪に、あかりの計画が動いたとコユキは察する。だが自分の仕業とバレるのは彼女も想定しており、むしろ自ら暴露する。彼らに負けても、野望を貫くと決めたのだ。


「なら私たちを止める者はいない。じゃあねっ」


 あかりは人造人間たちとともにドロンと姿を消した。行方が気になるが、今対処すべきは陸地に迫る妖怪だ。ヒツギたちは急いで山を下り、海へと向かった。



 途中、アイリとコユキが転倒した。ダメージと疲労の蓄積で、体が動かない。しかしここは山。人力車は来られないし、あいにく移動に長けた特殊能力者はいない。

 いざというときに助けを呼べない状況に誘導するあかりの狙いが、後になって彼らに響いた。当の彼女は魔術で瞬間移動して撤退しており、今ごろダイダラボッチと合流し陸地へ進撃していることだろう。


「あなたは平気なの?」


 アゲハはラクアに尋ねる。彼が一番ダメージを負っているはずなのにピンピンしている。平気なら問題ないが、強がっているだけでピンチなようにも思える。


「ああ。ずっと修行したおかげでな」


 ラクアはまだまだ動けると答えた。頑丈なのは怪世界に来てから滝行で鍛えていたからで、どんな妖怪を相手取ることになってもいいように備えて、元の世界に戻るために行動するのは他人任せにしていた。人より多く鍛えていたから余裕はあると胸を張る。その言葉を信じてアゲハは提案した。


「じゃあおぶって。アイリは私たちが連れていくから」


 倒れた二人を分担して運ぶ。女子ならヒツギの筋力にアゲハも手を貸せば自分たちで対処できると考え、コユキはラクアに任せようとした。せっかくならアイリの方を背負いたいと思ったラクアは、二人の体重差を逆転させることにした。

 ラクアはコユキを抱えるふりをして力を込め、彼に囁く。狐に化けないともっと過労させると脅し、力を絞らせ小柄な動物に姿を変えさせた。


「こっちのが軽いだろ。交代だ」


 ラクアの言う通り、アゲハたちは軽い方を運びたい。頑張って化けて協力してくれたコユキにお礼を言い、ヒツギに抱えさせた。そして彼は目論み通りアイリ担当になり、動けない彼女を連れていくためという大義名分を得て彼女を抱え上げる。なお触れると過労する能力は常時発揮される性質ではなく任意でオフにできる。発動中に同時に触れた内の特定の人にだけ無効にすることはできないだけで、ある程度融通が利くのだ。


「大丈夫、後で追いつく」

「いいから乗れ。こうなるルートを想定しなかった俺のミスだ」


 ラクアは味方を巻き添えにしたが、それは楽に敵を倒せて味方が疲れることにデメリットがないと判断したから。あかりが現れるかもしれない妖怪王に臆さず計画を実行したら急行する必要があることまでは頭が回らなかった。

 彼女は知り合いの西浦(にしうら)あかりによく似ているから無意識に警戒を落としていたことも一因だが、彼女のことをよく知っておけば、強行する未来を予測できたかもしれないと反省する。

 ともあれ勝手に巻き込んだ側として、仲間を見捨てるわけにいかないから、アイリが嫌がっても離さない。



「今度会ったらとっちめてやるわ」


 アゲハはあかりへの恨みを吐く。彼女はラクアたちのようにアカリとは面識がなく、友達に似た子というバイアスがかかっていない。怪世界に来てつい昨日知り合った赤の他人の認識で、素性を見せられても裏切られたというショックは感じなかった。

 ヒツギも彼女と同じような気持ちだが、あかりが単に裏切ったわけではないと思えた。本当は優しい。表情からそう感じた彼は、何か裏があると考えた。

 もしかしたら彼女は、自分が問題を起こせば妖怪王が駆けつけてくると思って決行したのかもしれない。来なければ当初の目的を達成でき、来たら自分たちが退治され目的を阻止されるのと引き換えに、ヒツギたちが探す手間は省かれる。

 何もしなければ彼らや妖怪王を敵に回すこともなかった反面、ヒツギたちが目的に近づく可能性は生まれなかった。あかりがリスクを冒した行動に走ったのは、彼らの役に立つ結果に繋がるための捨て身の精神があったのかもしれない。


「でもこの騒ぎで妖怪王が登場したら、あの子にお礼を言おう」


 もしも近いうちに妖怪王が現れたら、それはきっとあかりのおかげだ。アゲハたちが彼女を許せないとしても、その行動が自分たちに好都合な結果を招いたわけで、感謝の気持ちは伝えたいとヒツギは提案する。


「……あんまり入れ込むと、お別れが辛いわよ」


 アゲハはヒツギがあかりに惚れているのではと考えた。彼の意見には賛成で、彼の口から伝えたら二人の距離は縮まる予感がする。それは面白いことになりそうだが、二人が一緒にいられる時間は長くないと思えるのも事実。怪世界に飛ばされた彼らは、いつしか世界の異変の解決に向けて妖怪王を探しに動いていて、それを成し遂げたら元の世界に帰れることだろう。

 その妖怪王が現れるということは、この旅はもうじき終わりを迎える。想いが通じ合っても裂かれる未来が待っているなら、今以上になろうとするのは控えた方がいいとアゲハは忠告した。


「でも計画的なのって苦手なんだよね」

「……泣かせても知らないから」


 だが自信なさげなヒツギを見て、そういえば彼のウリは無計画なことだったのをアゲハは思い出す。きっと留学した件も直前に友達に明かして、悪意なく悲しませていた相手がいるような気がする。そんな性分などんな結果を招くか、その目で確かめてはどうだとアゲハは投げやりに返した。

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