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33話 "同期"

 雨のおかげで火事は収まり、蘇生の山への道は通行止めが解除された。チームの一員としての自信を失い離脱していた氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)は、仲間が作戦を立てたときにそれを活かせる場をあらかじめ作る役割を持てると自覚し、チームに復帰した。


「このまま向かうこともできるけど、元の道に戻りたい?」


 小竹(こたけ)狐行(コユキ)は二通りのルートを提案する。彼らは雨乞いの滝に行くために途中の西の京から進路を変えて今に至る。ここから直接目的地を目指す早いルートか、逸れた地点まで引き返して当初のルートをなぞる堅実なルートか。コユキはヒツギに尋ねた。


「一度戻って、友達に会ったら頼みたくて……前みたいなお話を」

「私? ……まあ、やってもいいけど」


 ヒツギとしては後者の迂回ルートを選びたい。理由は経由地に、怪世界に来たばかりの頃に面倒を見てもらった人力車引きの俥夫がいる。もしこの後会えたらやってほしいことがあると北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)に頼む。以前一度やってもらった、降霊しての会話だ。


「……妖怪に襲われたとか?」

「好きな人がお墓に眠っているって。俺が会ったとき、そこに案内してもらった。妖怪の仕業じゃないって本人は言ってる」


 霊媒師になったアゲハへの頼み事ということから察したコユキは、その原因は妖怪が人間を襲う異変にあるのではないかと予感するも、ヒツギは否定した。その俥夫、夕雅(ゆうが)が妖怪の襲撃と疑っていないので、それを信じて彼も否定する。

 異変を起こした元凶たるコユキは、これは自分のせいではないようで安堵した。これで心置きなく同行できる。


「分かった、行こう。ボクも興味あるんだ。お前の友達に」

「ってことだけど、そっちは? 先に行く?」


 コユキも乗り気なので、人力車二台に分かれて移動するうちの一組は迂回して目指すことが決定した。そこでもう一組、三郷(みさと)楽阿(ラクア)美南(みなみ)哀月(アイリ)に尋ねる。一緒に来るか、別ルートで目的地を目指すかを。


「俺も行く。そこに用はねえけど、見てみたい」


 ラクアはヒツギたちの組と同じ迂回ルートを希望した。西の京に行く理由は、アゲハの口寄せを見たいから。以前彼女があの世に一番近い山で降霊したとき、ラクアは居なかった。それ以前にも見たことがないから、せっかくやるなら見学したい。それ以外には迂回する理由がない。


「前に誘ったじゃん」

「あれは……俺を身代わりにする気だったじゃねえか」


 その見学のチャンスをラクアは一度見送っている。ただそのときは、アゲハが降霊してもしも暴走したら、触れた相手を過労させる特殊能力を持つ彼が彼女を押さえ、鎮める役割を依頼されての勧誘だった。加えて人力車一台にヒツギとアゲハもいては乗り切れず、アイリと合流前だったので二台に分かれる発想もなく、一人溢れるのを口実にラクアは断った。

 憑依されたアゲハに触れたラクアが取り憑かれたときの対策をコユキたちは考えずに誘ってきたのも一因だ。アゲハは助かればオーケーだと彼を見捨てる疑いもあった。


「まあ一回成功してるし、その心配は要らないか」

「うん。来てくれなくても何とかなったし」


 とはいえ当時はアゲハも初めての降霊だから手探りの節もあり、何が起こるか読めなかったがゆえの綱渡りな提案だった。だが来なかったラクアの手を借りることなく降霊し会話して目的は果たせたから、次以降も大丈夫だろうとコユキたちは思う。



「で、なんで見たいの?」

「俺らの"同期"に姉を亡くした妹の姉がいてな」

「……なんて?」


 コユキはラクアとペアのアイリがあまり乗り気でないのを察した。彼が行きたいと言えば同乗する彼女も付き合わされるか、もう一台手配して一人で先に目的地に直行することになる。興味本位だとか曖昧な理由なら拒否しようと思い尋ねたが、予想の斜め上な動機を告げられ、むしろ彼が興味を惹かれた。

 姉を亡くした妹、までは理解できる。姉を好きな人に置き換えれば、今から会いに行く夕雅と同じ状況だ。だがその姉というフレーズが一気に混乱を招く。妹の姉なのは事実として、亡き姉とはどういう関係にあたるのか分からない。 


「"同期"ってのはこの島だと能力者になった時期が同じ同学年って意味でな。ああ、ここは島の外か。アハハハハ」


 ラクアは中学三年生に進級した先月、能力者になったことで彼の暮らす島の用語、"同期"の定義を理解した。アイリも同じだが、他三人は違う。ヒツギとアゲハは留学してきたばかりで、コユキは怪世界に来てから能力が覚醒した。

 そんな彼らにいきなり"同期"を一般とは異なる定義で話せば、戸惑うのも無理はない。だから暮らす島で能力者内での用法だと補足するも、今いる場所は島の中どころか妖怪だらけの別世界なので"この島だと"が正しい場所を指していなかったことに気づき、改めて自分たちの置かれた状況の可笑しさから笑い出す。


「ってことはボクら三人は"同期"ってこと? 能力者になったばかりのボクと、来たばかりの二人は」


 その島で以前から暮らしており概念に理解のあるコユキは今の話から、ヒツギとアゲハは自分と"同期"ということになると考えた。彼らもラクアたちと同じ学年で、彼は怪世界に来て能力に目覚め、他の二人は島に来たばかり。能力者になった時期ではなく、登録した時期が基準となるから、三人が一緒になる可能性は高い。


「多分。測定器で登録したら分かる。ここから出られたらの話だけどなー」

「うるさいよ」


 ただそれを確かめるには怪世界を脱出しなくてはならず、それが果たして実現できるのかとラクアは渇いた笑い声を発する。正論でも真剣に目指しているところを茶化すなとコユキは怒った。


「で、俺の"同期"はアイリ以外にもいて……そいつが訳ありで」

「何だっけ? 姉の妹の姉だとか」

「そう」


 ラクアのその"同期"の一人が、さっき口走った姉と死別した妹の姉という複雑な関係を持つ者であり、アゲハの降霊を見守ることで何か役に立てないかと考えたきっかけだ。

 彼の言う通り複雑な事情があるが、同じ境遇の知り合いがいるアゲハは、もしかしてと考えた。


「サクラみたいね、その人」

「……え、知ってた?」


 アゲハが名前を出すとラクアとアイリが驚いた。ヒツギたちは彼女と面識がないので話についていけない。アゲハとラクアたちに共通の知人がいたことは読み取れた。



「ええ。だから私、サクラを探してて……居候にさせてもらおうと」

「人を探してるってのはサクラのことだったのか」

「私の家においでよっ」


 腑に落ちて頷くラクア。彼は肝試し会場で、アゲハが誰かを探していると言っていたのを覚えている。人が集まる所に立ち寄ったところ、アイリに気に入られて飛び入り参加させられた。なおくじ引きでペアになれずアイリはがっかりしていた。

 アイリと会話していたのに実はラクアにも聞かれていたと知ったアゲハは、盗み聞きしていた彼を気味悪がったが、間髪入れずアイリが、住むなら自分の家にしないかと誘ってきた。


「駄目だ。お前中学は私立だし、遠いし」


 アゲハはアイリに対しても抵抗感があり、妙に引っつかれそうで正直同居は避けたい。だが自分で意見を出すことなく、ラクアが助け舟を出してくれて、彼への印象が良くなった。

 そして反対する理由も真っ当だ。アゲハは島の中学校に編入するつもりで、どの学校かは武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)の居場所次第だが、彼女と同じ学校の方が安心できる。仮にサクラではなくアイリの家に居候へと変更すると編入先も彼女と一緒にしたいが、あいにく彼女は私立、それも電車で通学する遠くの学校の生徒。合理的ではない。


「だからアイリが俺らの学校に来ればいい」


 それが本音かとアゲハは呆れた。ラクアとアイリは小学校が一緒だったくらいに家が近く、彼女が私立へ進学しなければ中学校も高校も一緒のはずだった。そこに未練がある彼は、アゲハとの出会いを口実に、彼女を同級生にしようとしたのだ。


「ごめんなさい。もう約束したし」

「私も……アカリたちといたい」


 だがアゲハは断る。サクラと約束をしたし、彼女もサクラのそばで秘密を守らないといけないと考えている。だから他の人に乗り換えることはない。

 直後、アイリも断った。アゲハと一緒に暮らせるチャンスとはいえ、いきなり転校して今の同級生と離れるのは嫌だ。来年の高等部はそのまま進学するかラクアたちと公立に行くかで迷ってはいるが、だからこそ残り一年間の中学校生活は大事にしたい。


「ごめんねラクア。せっかくアゲハと一緒の学校になれるチャンスだったのに」


 アイリの気遣いが却ってラクアに追い討ちをかけた。彼はアゲハと同級生になりたくて自分を利用したとアイリに勘違いされており、本命か彼女だということは微塵も伝わっていなかった。フられたどころか通じてもいない有り様を、コユキとヒツギは目を合わせて笑いを堪えている。



「とにかく、サクラが自分をモデルに物語を書いてるから……儀式の取材ってことで」


 ラクアは平静を装おうとし、降霊に同行する必然性をアピールする。単なる興味本位ではなく、サクラの役に立つ情報をその目に刻むことが目的だと。そして彼の動機を聞いてアイリも付き添うことにした。もしも肝試し会場にいた友達が自分たちと同じようにこの怪世界のどこかに飛ばされていたら早く探したいが、行方の手がかりはなく、そもそも来ているかも不明な状態。妖怪が人間を襲うなか一人で焦って進むリスクを鑑みて、ついていく方を選んだ。

 それに通り過ぎただけで実は迂回先に友達がいるかもしれない。


「無理にとは言わないぜ。会えたらでいい」


 そしてラクアの方も、行けば確実に夕雅に会えるとは思っていない。いるのは確かだから、理論上、見つかるまで探せば絶対に会える。だがそんなことで時間を使っていると怪世界からの帰還も、そのために魔術師に会いに行くのも遅くなってしまう。ヒツギの言う通り、元の道まで引き返して乗り継ぐまでにたまたま会えたらラッキーな程度で構えている。

 そんなラクアを見るコユキは、彼は夕雅に会えなくてもアゲハの口寄せを見られなくても満足できる何かしらの要因があるように思え、探りを入れた。


「本音は?」

『アイリと一緒の時間が増えて嬉しい』


 するとラクアの声で本音らしきものが聞こえた。だが彼の口は動いておらず、彼自身も言った覚えのない言葉に慌てる。これはアゲハの仕業だ。彼女もコユキ同様ラクアが本音を隠していると読み、こうだったら面白いと思ったことを、特殊能力で真似た彼の声を発してみた。

 

「勝手なことを言うな!」


 ラクアは怒り、アゲハは知らんぷりをする。ともあれ全員の行き先が西の京に決まった。これから二台の人力車に乗って順番に出発だ。


 

「じゃあ先に行って探してくる」


 先に出発するのはヒツギたち。アゲハが先に行かないと、もし夕雅に会えても口寄せする霊媒師がいないため、到着まで待たせてしまう。ラクアとアイリは彼らを見送り、次の三人乗り人力車が来るのを待つ。


「はあ……ようやくやかましい奴らが行った」


 ラクアは人力車を見送り、アイリと二人きりになったところで独り言を呟く。形は予定と大きく変わったが、結果として彼女とペアでの肝試しが実質実現したような状況だ。順番が来て移動も済み向こうへ着いたら、今度はいつ彼女と二人になれるか分からない。だから今を有意義に過ごそうとする。


「……ありがとね、ラクア」


 アイリもまた、ラクアと二人で話せる機会を窺っていて、今をチャンス思いお礼を言う。心当たりがない彼は、何に対してなのか考えながら固まる。



「雪女になった私が皆を攻撃してたとき……ラクアに気づかなかったらあのまま皆をやっつけちゃったかも」

「ああ、あれね」


 言い出しっぺのアイリが詳細を語った。北の海での出来事で、当時妖怪雪女の能力を得ていたアイリはヒツギたち侵入者を冷気で氷漬けにし、脆くなった体を破壊するつもりだった。だがラクアに気づき、攻撃を止めた。そのおかげで彼らは無事だった。過ちを犯さずに済んだのは彼が来てくれたおかげで、けれども皆の前で言うのも恥ずかしかったら、このタイミングで伝えたのだ。


「いや、そっちが気づいてくれて良かった。俺なんか呼ばれるまで分からなかったし」


 ラクアは雪女の姿を見てアイリだとは思わず、彼女が自分の名前を呼んで初めて正体が分かった。だから彼の方からも、気づいてくれてありがとうとお礼を伝える。

 ただ彼は内心後悔していた。気づかれたせいで攻撃が止まった。だからしがみついて過労させるという当初の作戦は未遂に終わり、堂々と抱きしめるチャンスがあったのに気づかず見送ってしまったのだから。


「俺が取り憑かれたら、顔を見せてくれ。思い出すから」


 代わりにアイリに約束する。逆の立場でラクアが妖怪の力で暴走したときは、彼女の顔を見て仲間と気づき、暴走を抑えてみせると。現に今から向かう降霊の場面では、アゲハを助けるために彼が身代わりになるかもしれない。アイリは頷き、彼を助けると返した。

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