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22話 脱落者

 一度の敗北から精神を鍛え迷いを捨て、リベンジに向かった氷川(ひかわ)柩岐(ヒツギ)小竹(こたけ)狐行(コユキ)だったが、早々に窮地に追い込まれた。

 霊に憑依されて妖怪ろくろ首のようになった北参道(きたさんどう)天羽(アゲハ)との勝負には、コユキが特殊能力で九尾の狐に化けて、その能力で分身してアゲハを撹乱し、首を絡ませ頭部を地上へ寄せる作戦で挑む。チャンスが来たらコユキが神通力をアゲハに向けて操るか、ヒツギが持つ照魔鏡で本来の姿を写すかいずれかの手段で彼女の暴走を止めるという、穏便に勝利を掴む算段をつけていた。


 だが開始直後、ヒツギが焦って声を上げたのを心配したコユキが彼の方を向くと、彼は何ともなく、照魔鏡を抱えていた。声の主は彼本人ではなくアゲハの声真似。一度目の勝負の段階で声真似で動揺させてくるのが彼女の武器と気づいており、警戒して臨んだが、あまりにも早いタイミングで仕掛けてきたせいでまんまと引っかかってしまったのだ。


 振り向いてはいけないタイミングでコユキは振り向いた。照魔鏡はコユキの変身をもダメージとともに解除させてしまい、人間の姿になって倒れた。

 どうして初戦より早い段階で苦戦しているのか、コユキは考えて、すぐに分かった。相手のアゲハもこちらの手の内を知ったから、自分を無力化する方法で先手を打ってきた。

 初戦より握っている情報が多いのは相手も同じ。それを考慮せず挑んだのがこの結果だ。初戦で負けた影響は想像以上に大きかったと後悔するも、これが自分の限界だと痛感するコユキは、立ち上がる気力を失う。


 一方ヒツギは諦めていない。想定以上に早いタイミングでコユキがやられたが、むしろここから彼は真価を発揮する。すぐさま特殊能力を使い、コユキのゴーストを召喚した。

 ゴーストは本人のシルエット。顔も色も服もないが、本人の特殊能力をコピーし、召喚したヒツギの意思で動く。コユキの能力で狐に化けて、さらに分身してアゲハを包囲する。これが彼らが当初やりたかった作戦。コユキが脱落したことによってヒツギは彼のゴーストを出せるようになり、彼の役割を引き継いだ。



 アゲハはゴーストを追い払おうと、首を伸ばして頭突きを食らわせ、消した。一体、また一体と攻撃しては、分身だったので本体にダメージはない。次の分身を出して本体の的中率を下げる。

 倒しても湧いてくる分身に苛立ったアゲハは攻撃のペースを上げる。ヒツギの狙い通り、彼女の首が絡まり出した。


 倒れたコユキは勝負を続けるヒツギを見て、諦めている場合ではないと反省した。力を振り絞って立ち上がる。するとゴーストが本体も分身も消えてしまい、ヒツギはもう一度召喚しようとしても何も出なかった。復活したことで脱落者ではなくなったせいだ。


「良かった! 立てて」

「慣れたからかな。さあ、勝つぞ」


 復活はヒツギにとって想定外。彼の作戦は味方のせいで中断されたが気にせず、コユキが立ち上がったことを喜んだ。衝撃に体が馴染んだおかげで回復のペースが上がったと聞いて、これまで彼をその気はなくても攻撃したのは無駄ではなかったと実感する。


 今度はコユキが狐に化けて分身を出す。また現れてうんざりしたアゲハは、巻き髪を回転させる。それはドリルのように破壊力があり、首を伸ばした高い位置からの頭突きは山に穴を作る威力。体に食らえば致命傷だが、これも初戦で見た手口で彼らは臆さない。

 攻撃力が上がろうと分身がやられて本人は無傷な点は変わらない。引き続き分身を生み出して片っ端から狙わせる。待つ瞬間は首が絡まり頭が地上に寄ったとき。そこにコユキの神通力か、ヒツギが持つ照魔鏡を浴びせる。


『助けて!』

「まやかしだろ。ていうか似てないし」


 二人は戦略を確立している。そこに迷いはない。窮地を匂わせる声が聞こえても、それはアゲハが真似た声。彼らの攻撃を凌ぐための時間稼ぎに使う偽物の焦りだ。

 もうコユキに同じ手は通じない。声が聞こえた方を振り向いて確かめたら、ヒツギの照魔鏡を見てしまい変身が解除されて攻撃が途切れてしまう。だから無視する。本物のヒツギは何ともないと信じているのだ。


 ただその信用がなくても、今の声をヒツギ本人とは疑わない。この山頂には他に誰もいないし、彼の声と似ていないならそれはアゲハのフェイクだと丸わかりだ。真似もお粗末な程追い詰められていると捉えたコユキは、いよいよ大詰めだと推測する。


『食べないで!』

「……え」


 だがその悲鳴にコユキは動揺し、人間の姿に戻った。この声はヒツギのではない。きっと妖怪人魚の本心だ。人間の言葉を話せる妖怪は少ない。最期の言葉が分からないまま別れてしまったことを悲しむ人間が、霊媒師に会いに行き、口寄せで降霊しその言葉を聞くことがある。

 今アゲハが話しているのは、かつて人間に食べられた人魚の声だ。その肉に宿る不老不死の力を欲し、パートナーだった人間に裏切られた妖怪の、最期の言葉だ。

 アゲハに憑依したのは千年前を生きた人魚だけではない。最近あの世へ行った妖怪もいる。


『帰りたい、あの子の家に』

『襲いかかってごめん』

「やめて……やめてっ」


 以前人間を襲い、人間が野生に帰した妖怪が、その人の家に戻ろうとして門番に返り討ちにされた。そんな妖怪の霊がアゲハの体を使って話す。それらの言葉がコユキの心を絞めつける。妖怪が人間を襲ったのは、彼がそう仕向けたが故。あの世へ行ってしまった元凶は彼という現実が、勝負の意思をへし折った。


「ごめんなさい……ごめんなさい!」


 ヒツギは頭を抱えて蹲る。憑依した霊に責められ、必死に謝る。彼はただ、人間に良いようにされる妖怪を解放してあげたかった。妖怪は怖い生き物だと思い知らせれば、人間は妖怪に依存しなくなり、妖怪が適任だからといって人間の労働をさせられることは無くせる。

 だが結果は違った。妖怪は人間といることを選び、けれども不信感を抱いた人間に拒まれた。そうして奪われた命が、元凶のコユキを責める。

 自分がいたから他の霊が押し寄せてきた。だからアゲハは暴走した。そう考えたコユキは、自身の行動を恨み、ヒツギにも申し訳なくなった。


「後は任せろ」


 心が折られたコユキは脱落者となり、再びヒツギは彼のゴーストを召喚できるようになった。一人が頑張ったら交代でもう一人が頑張る。そうやって勝負を続行しアゲハを助けるのだと決意を固めたヒツギは、ゴーストの分身で彼女を撹乱する。

 コユキを苦しめる言葉は、無関係なヒツギには響かない。彼は迷わず分身を操り続けて、アゲハの首が絡まって頭が下がったこの瞬間を待っていた。正面へ駆けて手持ちの照魔鏡で彼女に写った顔を見せつける。以前ヒビが入ってしまったがまだ使える。そして本来の姿を写し、驚いた彼女は首が縮み、置き去りになっていた胴体が倒れた。


 これにて決着。リベンジを果たしたヒツギは、自分が役に立てたことを実感し、自信を持った。そもそも再戦になったのは自分のせいではあるが、コユキが言うには、仮に順調に勝てていても力業での解決となり、妖怪王の怒りを買っていたかもしれない。そうなっていたらアゲハの暴走止めても、最終目的である妖怪王に妖怪の襲撃を止めてもらう頼みを聞いてもらえない可能性が出て、本末転倒という。

 今回の決着は、そういう力業ではない。照魔鏡はかつて西の京で人力車引きから借りた、れっきとしたこの怪世界の道具。妖怪の正体を暴く正式な手段だから、アゲハや彼女に憑依した妖怪を過剰に苦しめていない。そんな担保が取れているから、ヒツギはこの形での決着に不安はない。


「やったぞ。元に戻った」


 そして本題はここからだ。アゲハに憑依した霊から、妖怪王の情報を聞き出す。むしろ彼女の襲撃は想定外の寄り道だった。ヒツギはコユキに状況を伝え、一緒に話しにいくよう呼びかける。


「……勝ったのか」

「ああ、これから幽霊と話を」


 そう聞いたときコユキはフラッシュバックした。彼のせいで他界した数々の霊に、苦しみや恨みの声を浴びせられる光景を。

 思い出して取り乱すコユキにヒツギは戸惑う。離れていて聞こえなかったせいで事情を知らないから、今度は彼が憑依されたのかと勘違いした。アゲハに憑いた霊が出ていったのなら、他の人に潜り込むのは十分考えられる。

 しかし首が伸びたり変化が体に現れないので、気のせいと考えた。


「妖怪王の場所、聞こうぜ」

「……あ、ああ。そうだね」


 だからヒツギはコユキを取り憑かれたと考えず、本人に接するつもりで話しかけた。本来の目的を聞いて我に返った。



 アゲハを暴走させていた霊は去った。降ろしたい霊以外にもコユキへの恨みで寄ってきた霊により、いくつもの人格がせめぎ合って暴走を生み出していた。ヒツギが照魔鏡で写してそれらの霊を天へ帰し、ようやく相手と会話できる。


「妖怪王がどこにいるか、知っているか?」

「北の海……氷の中」


 太陽から離れた地域ほど寒くなる。コユキは妖怪王が凍った海の中にいると推測した。そして永久凍土からきれいな状態で大昔の動物が発見されたという事例が彼らのいる世界にもある。

 そこから彼が推測したのは、妖怪王は自力で長生きできる存在ではなくて、自ら氷漬けになることでいつか復活する存在である可能性だ。


「雪女に殺されたのか?」


 一方でヒツギは妖怪の仕業と考え、真っ先に思いついたのは雪女だ。吐息で人や物を氷漬けにすると物語で知った。彼は海の氷の中ではなく、地上で氷に閉じ込められたと想像した。


「いや、妖怪王だよ? ないない」

「そう。好きになって、凍らされた」


 雪女は白い顔に人間の女性の姿をした美しい妖怪だ。だが妖怪王が一種の妖怪好意を抱き、拒まれてやられたはずはないとコユキは笑って否定する。しかしかつての妖怪王を知る人魚の霊は、ヒツギの読み通りだと答えた。言い寄って拒絶され、身動きを封じたというのが真相だ。的中させたヒツギ本人も、まさかその通りとは思わず、けれども知る人がそうと認めるなら事実なのだろうと信じ、お礼を告げる。


「ありがとう。それじゃあ」

「あっ、ちょっと」


 電話を一方的に切る感覚でヒツギは霊に別れを告げた。すると去っていき、アゲハは自我を取り戻す。もう少し丁寧に情報収集したかったコユキは、無計画な彼の独断に文句を言いたい。けれどもここまで聞けたのは彼のおかげなので我慢した。


「続きは現地で聞けるでしょ」

「確かにな。それにこの子も負担かかるし」


 しかし丁寧に聞こうとして降霊したアゲハが苦しむのも良くない。ヒツギのぶつ切りも彼女の身を案じての判断だろうから、これが正解だったのだと考える。また、彼の言う通り続きは現地、すなわち北の海に移動して現地の人に尋ねれば分かる。雪女にアプローチして氷漬けにされた妖怪王なんて、そこら中で噂になっているにちがいない。


「……痛いっ」

「ああ、おかえり。話はできたぜ」


 口寄せを終えたアゲハは自分の意思で喋ったり動けたりするようになり、首の痛みに困惑した。憑依が去って元の彼女が戻ってきたのでおかえりと出迎え、目的は達成できたと伝える。


「その首って伸びるんだね」

「……伸びないけど」


 コユキはアゲハが憑依中に首が伸びたのを、彼女が隠してた特殊能力かと疑ったが、そんな力は持っていないし、今力んでも伸びないアゲハは否定した。だが首への違和感から、実は意識が飛んでいる間に伸びていたと言われても信じてしまう。


「妖怪王は北の海だそうだ。人魚の霊が教えてくれた」

「北の海……そうなの」


 アゲハには心当たりがない。だがヒツギたちの次の行動は決まっている。早速そこを目指して移動だ。そこでコユキは考えた。彼女も彼らと同じ、怪世界に飛ばされてきた仲間だ。そして今回は一緒に目的を達成するために協力し合い、達成した。これからも一緒にいるのも悪くないと思い、誘ってみた。


「どうかな? ボクらと」

「これで霊媒師になれたな。おめでとう」


 霊媒師として、これから霊と会話しにくる人を迎える立場として、ヒツギはアゲハをここへ残らせようとする。確かに彼女は随一の霊媒師候補で今回ついに降霊を成功させたが、彼女の居場所はこの世界ではない。


「いやいや、一緒に来てもらおうよ」

「賛成。もう修行はうんざりよ」


 なれたとて修行の日々は続く。アゲハは趣味や特殊能力、よその世界から来た点から適性があると評価されているものの、厳しい日々から逃げ出したい。だからコユキたちと怪世界から脱出するために同行するのは最適な言い訳だ。断る理由はないし、彼らには誘うのを諦めてもらいたくない。


「じゃあそうしよう」


 二人の意見でヒツギはあっさり取り下げ、アゲハも一緒に北の海へ向かうことになった。人力車は三人乗りのがあるので支障は来さない。

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