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内と外

ゆっくりと階段を上がってくる足音が、静かな部屋に近づいてくる。


男女二人の声が、ひそひそと聞こえた。

聞き取れた言葉は「服が」それだけだった。


扉の前で足音が止まり、

コンコン。

控えめなノックが響いた。


梨花は驚いて身を起こし、急いで声を返す。


「どうぞ……」


「入るねー」


美紀の声だ。どこか安心できる、聞き覚えのある調子。


扉が開くと、美紀の後ろに細身の男性が立っていた。

柔らかそうな癖っ毛は仕事終わりのせいか少し乱れていて、けれど目元は優しい。


男性は梨花のベッドのそばまで歩み寄り、目線の高さを合わせるようにしゃがみ込む。


「はじめまして、梨花さん。妻から話は聞いてるよ。私はこの家の主人──橋本拓海です」


穏やかな声で言いながら、拓海は手を差し出した。


梨花は一瞬だけ迷ったが、そっとその手を取る。


「……梨花です」


「道で倒れていたって聞いたけど、どこか痛むところはない?」

拓海は心配そうに梨花の顔を覗き込む。


「い、痛くはないです。」


「それなら良かったよ。」

拓海は優しい声で言った。


美紀が勢いよく口を開く。


「梨花ちゃん、未成年よね? どうやってここまで来たの? お家はどこ? お父さんとお母さんは?」


美紀は完全にパニックになったらしく、気づけばベッドに膝を乗り上げるほど身を乗り出していた。


「ちょっと美紀ちゃん。落ち着いて。」


拓海が興奮した美紀を静止する。


「わ、私は17歳なので立派な成人ですよ!」


そんなに私は子供に見えたのだろうか?

梨花はいつも年相応に見られるのに…

戸惑いながら答える。


「17歳が成人なわけないでしょ! それにその服……どこから来たのよ!」

美紀は更に声を荒げる。


梨花は美紀の声に驚いた。

下の階まで聞こえたのか子供達が「ママー呼んだー?」と2階に聞こえるように話し掛ける。


美紀は我に返ったのかそのまま部屋へ出て1階に降りてしまう。


「ごめんなさい。多分27歳って言ったんですけど17歳に聞こえちゃったみたいですね…。」


梨花は咄嗟に誰にでも分かる嘘をついた。

だがこの世界では何歳から成人なのか分からない。美紀の興奮状態を見た感じだと自分が未成年だと良くないのだと感じ取った。

梨花は即座に嘘を選ぶしかなかったのだ。


拓海は一瞬言葉を詰まらせたがそのまま話を続ける。


「あ、ああ…若く見えるんだね。とにかく今日は夜遅いから明日車で自宅まで送るよ。」


拓海が梨花の知らないワードを話した。


車、、、、?

馬の事だろうか?


梨花は震えた声で質問する。

「…………車とは馬の事ですか?」


「ん?」

拓海は驚いた顔をする。


2人の間に沈黙が続いた。


しばらくすると

「食べようか」と言い拓海は部屋を出る。


「いただきます」

互いに違和感を覚えつつも橋本家と梨花で食事を囲む。


「あ、そうだ今日は長男がサークルの飲み会だから遅くなるけどもう一人家族がいるんだ。」


拓海は食事を摂りながら話す。


「へ、へぇ?」


サークル?知らないワードに反応してしまう自分に気がつきソワソワしてしまう。


食事中美紀は梨花に目を合わせる事も話しかける事も無かった。


下を向いたままたまに子供達に食事を勧めるのみだ。


梨花は食事がスムーズに喉を通らなかった。

もしかしたら世界が崩れた時自分は別の何かに来てしまったのかもしれない。

トシと呼ばれてた仲間だとしたら身が危険だと感じた。


食事が終わりベッドへ横になるが寝付けない。


このままでは車で何処かへ連れて行かれる。


そうなってしまえばリオと村に帰ることはできない。


今日のうちにこっそり家を出て行こう。

梨花は布団を押しのけ、音を立てないよう床に足を下ろした。


部屋から出て階段をそっと降りる。


暗闇の中何も見えないが壁をつたって玄関まで辿り着くことが出来た。


順調すぎるのが逆に怖い。


あとは玄関の扉を開けて外に出たら走って逃げればいい。


梨花は玄関のドアノブにそっと手をかけると同時に玄関外の明かりが付いた。


梨花はドアノブに引っ張られ前に倒れそうになるが倒れなかった。


逆光の中、誰かの影が伸びる。


「あんた、誰?」

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