白い世界の果て
世界の崩れが収まる。
しんと静まり返った白い世界の中に、リオは立っていた。
――ここは、どこだろう。
彼らが言っていた“本当の世界”という場所なのか?
白がゆっくりと揺れ、やがて霧のように流れ始める。
それがすべて晴れた瞬間、目の前に――見たこともない景色が広がった。
金属のように光る塊が轟音を立てて駆け抜けていく。
丸いものが四つ付いていて、信じられない速さだ。
「な、なんだこれは……」
リオが呟くと、その鉄の塊から中年の男が飛び出してきた。
「おい小僧! そんなとこ突っ立ってたら危ねぇだろ!!」
怒鳴り声にリオは思わず身を引く。
「い、いや……おっちゃんが避ければいいだけじゃないか!」
男の顔がさらに赤くなる。
「おめぇ、この年で道路も分かんねえのか!!!」
“ドウロ”? なんだ、それは?
リオが首を傾げると、男は呆れたように鉄の中へ戻り、また走り去っていった。
「ふむ……あの鉄は、線に沿って走ってるらしいな。離れた方がよさそうだ。」
リオは“ドウロ”と呼ばれた白い線から離れ、あたりを見回す。
奇抜な服を着た人々、空を横切る鉄の箱。畑など一つも見当たらない。
「畑もねぇのに、どうやって食べてるんだ……?」
呟いた瞬間、リオははっと気づいた。
「あれ? 梨花がいない……!」
さっきまで手をつないでいたはずの姉の姿が消えている。
姉弟で手をつなぐなんて、正直気味が悪いが――あの時は仕方なかった。
世界が本当に崩れたのか、それとも夢なのか。
リオは固い石のような道を走り出す。
「梨花ー! おーい! どこにいるんだー!」
叫んでも、返事はない。
通りすがりの女の人に声をかけた。
「すみません。俺の姉貴を探してるんです。梨花って言って、気が強そうな吊り目の女の人なんですけど、見ませんでしたか?」
女性は髪をまとめながら、少し考えるように言った。
「それだけでは分かりませんね。スマホで写真を見せていただければ、探しやすいんですけど。」
(スマホ? シャシン? また知らない言葉だ……)
「えっと……スマホでシャシンって、どういう意味ですか?」
女性は目を瞬かせてから、丁寧に微笑んだ。
「写真は、目の前の風景や人をそのまま写すもの。スマホは、それを撮ったり、いろんなことができる道具ですよ。――見せた方が早いですね。」
そう言って、女性は薄い鉄の板のようなものを取り出した。
指を滑らせると、カシャリと音が鳴り、眩い光が瞬いた。
「うわっ!」
リオが身を引くと、彼女はその鉄を見せてくる。
そこには、今まさにリオの隣にある風景が映し出されていた。
「ど、どうなってんだ……? 君、魔法使いなのか?」
「ふふっ、違いますよ。これが“写真”。そして、これが“スマホ”。写真を撮るだけじゃなくて、遠くの人ともお話できるんです。」
リオは口を開けたまま見つめた。
鉄が光り、声を運び、姿を映す――まるで魔法そのものだ。
(この世界……魔法が、鉄の中に宿ってるのか?)
驚きと好奇心が、胸の奥で同時に弾けた。
女性は少し照れたように笑った。
「でも、この時代にスマホを知らない人がいるなんて珍しいですね。……もしよかったら、お姉さん探し、手伝いますよ。近くに交番があるので、行ってみましょうか?」
「お、お願いします。」
(コウバン……また知らない言葉だ。でも、梨花がいるかもしれないなら行くしかない。)
リオは“魔法使い”のような女性の後を追った。
胸の奥には、見知らぬ世界へのワクワクと、姉を探さねばならない焦りが、静かに同居していた。




