男衆
「そこのお前、村の奴だろ。早く帰れ。」
見た事もない女はそう言ったが帰る気はない。
姉の梨花を見つけるまでは。
「お前は誰だよ。村の人間じゃないな。」
大人達の言っていた施設付近に現れた不審者はこの女の事なのか?とリオは思った。
「私の心配じゃなくて自分の心配すれば?」
そう言い女が指を指す先には施設から何人もの男達がゾロゾロと出てきていた。男達は皆同じ服装をしており見た事もない重そうな服を着ている。
「村の方に向かってるわ。あんた村に戻らないとまずいんじゃない?」
「は?どういう事だ?」
そう振り返ると女は消えており代わりに梨花が倒れていた。リオは心臓が高鳴るのを感じた。目の前に倒れているのは、間違いなく姉、梨花だった。彼女の顔は青白く、息をしているのかどうかもわからない。リオは恐怖と焦りに駆られ、梨花の元へ駆け寄った。
「梨花!しっかりしろ!」
リオは姉の名前を叫びながら、彼女の肩を揺さぶった。しかし、梨花は反応しなかった。リオは周囲を見回し、先ほどの女と男たちの姿を探したが、彼らはすでに消えていた。まるで、この場所に存在したことすらなかったかのように。
「どうしてこんなところに…」
リオは自問自答しながら、梨花の顔を覗き込んだ。彼女の額には冷たい汗が浮かび、何かに苦しんでいるようだった。リオは急いで周囲を見渡し、誰か助けを呼べる村人がいないか探したが、森は静まり返っていた。
「頼む、目を覚ましてくれ」 リオは涙を流しながら、梨花の手を握りしめた。彼女の手は冷たく、リオの心は不安でいっぱいになった。何が起こったのか、どうして梨花がここにいるのか、全く理解できなかった。
その時、背後から足音が近づいてくるのを感じた。リオは振り返り、男たちが再び現れたことに気づいた。彼らは無表情で、リオの方をじっと見つめていた。リオは恐怖に駆られ、梨花を守るように彼女の体を覆い隠した。
「お前、何をしている?」一人の男が低い声で尋ねた。リオは言葉を失い、ただ震えるばかりだった。男たちは近づいてきて、リオの周りを囲むように立ち並んだ。
「お前達は誰なんだよ」
男たちは互いに顔を見合わせ、やがて一人が前に出てきた。「お前のような小僧には関係ない。だが、ここにいること自体が問題だ。ついて来い村に戻って説明してやる。」
男はそう言うと梨花を触ろうとした。
「なにをする!」
リオはそう言い男の手を振り払う。
「お前の、村の子供だろ?村へ送り返してやる。」
「梨花は俺が運ぶ。」
「その足でか?」
男は滑り落ちた時に痛めた足を指差して言った。男の言う通り自分で歩くので精一杯の状態だった。男は梨花を担ぎ上げ村へと歩き出した。男は皆にトシと呼ばれており、30代後半な見た目でとにかく身体が横にも縦にも大きく皆に慕われているようだった。この男衆の1人であり、リーダーとかそういった感じではなさそうだ。
「おい、小僧大丈夫か?」
怪しい集団ではあるが意外にもリオを心配する言葉を掛けてくる。調子が狂う。
男衆の1人多分リーダー的な奴が言う。
「村長を呼べ」
と村中に聞こえる大きな声で呼ぶ。すると、村の大人達は慌てた様子で村長を呼びに行く。リオはこの男衆を見て警戒心ではなく偉い人が来た時の慌てぶりになるのか不思議に思った。しばらくすると怯えた様子で村長が現れた。50代後半ぐらいの男でとても温厚で優しいおじさんだ。小さい頃はよくお菓子を貰っていたなと思い出す。どんな時でも笑顔を絶やさない村長がこんなに怯えてるのだ何かがあるに違いないとリオは思った。
「施設付近に子供が2人。お前達は掟を破った。分かってるよな?」
村長は何も言わない。代わりに男衆のリーダーが続けて言う。
「そろそろ言おうと思ってたんだが、実験は終わった。掟を破ったのもキッカケだがこれでこの世界は終わりしろと上からの命令が出た。」
リオは何を言ってるのか分からなかった。大人達は怯えるばかりで世界の終わりというよく分からない単語に反論する者は誰1人としていなかった。