第3話 生まれて初めて稼ぐ金
「お、お前らはこんなことをしてただで済むと思っているのか?!」
豪勢な部屋でぶくぶくと太った悪党の親玉は震えながら怒鳴った。
「それはこっちのセリフだ、悪党!てめえがどうしてそんな豪華に太り散らかしているか考えやがれ!ジャスティス・ウィング!!!!!」
俺が放った魔力が風を固め無数の刃となり、敵の身体を引き裂く。
悪には死を。俺たちは正義の鉄槌を下した。
部屋を探すと大量の宝石や金貨が出てきた。
力の強いマーティが運び、ロイドは一か所に集めて調べている。
「ほら、ヘルメス、お前の分だ」
ロイドがそこから一握りの金貨を渡してくる。
「え、でもこれは、奪われた人に返すんじゃ?」
「妙なことを言う奴だな、いらないのか?」
「いや、そんなんじゃ…!もらうよ。そうだよな、正義の活動資金が必要だ。もっと悪を倒すためには!」
そこで気づく。もしかして俺ははじめて金を稼いだ?
いや、「ヘルメス」ではない。
転生前の俺は、高校のときに引きこもりになってから何からも逃げて、自分で金を稼いだことなんかなかった。
自分なんか何もできないだめな奴だと思っていた。
そんな俺が、悪を倒す英雄になってその対価として金を稼いだのだ!
じわりと目頭が熱くなる。
「やった、やったよ、エルク」
思わずエルクに声をかける。
「あ?なんだ急に気持ち悪い…」
エルクが引くのも仕方ない。
だって、「ヘルメス」もエルクもずっとこうしてきたんだろうから。
でも、気持ち悪がられようと、俺は誇らしさと嬉しさでにやにやが止まらなかった。
ロイドがエルク、フランツ、マーティに順に金貨を渡していく。
「じゃ、マーティ残り運んでくれや」
随分と重そうだが、幸い身体の大きいマーティであれば運べるだろう。
しかし、マーティは何やら不服そうにしている。
「ロイド、俺の分だけ、少ない」
なんだって?確かに俺が活躍しすぎてマーティの戦闘の出番を奪ってしまったかもしれない。
なんだか申し訳なくない気持ちを感じたとき、ロイドが言った。
「おいおい、今から運んでもらうんだから、後で渡すに決まってんだろ。ほら、一緒のが持ちやすいだろ」
「ああ、でも、前の分も、俺の…」
「もちろんだって!ちゃんと覚えてるよ!後でやるからさ。まず運ぶのたむぜ」
そういうことだったのか。よかった。
確かにまとまっていた方が運びやすいもんな!
ロイドは細かい気づかいも怠らない、やっぱり最高のリーダーだぜ!
俺は初めての給料を握りしめて、仲間たちに囲まれて正義の仕事をできる幸福感をかみしめた。