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約束のダンスレッスンの日、ミミと息子さんは後からお屋敷に来るからと、先に先生と二人座学からスタートした。
「アプリコーゼ様、成人は何歳で迎えるか覚えていますか?」
「16歳ですよね」
「正解です、それでは“番い”という言葉をご存知ですか?」
「……?番い、ですか?」
「はい、人間と獣人の大きな違いです。人間は、成人前後で婚約者を成しますよね?政略的なものもあれば思い合う同士で結婚する事もありますが、獣人は定められた相手が決まっています。運命と呼ぶ者もおります」
「運命……」
「はい、獣人には番いが一目で分かると言われています。お恥ずかしながら私も番いとなる妻を娶りました。我々は生まれつきその様な能力があるのです。獣人同士の番いが大半を占めますが、稀に人間が番いとなる獣人もおります。いずれにしろ獣人の男性は、番いを得ると能力が上がるのです。自分の伴侶を守る能力とも言えるでしょう」
「獣人族の方々は、素敵な恋愛をされるのですね」
「政略的結婚がないので、素敵と思われますが……人間が番いの場合、少々厄介なこともございます」
「なぜですか?」
「すでに政略結婚やお互い思い合う同士の結婚または婚約をされている相手が番いだった場合どうなると思いますか?」
「あっ……!」
「そうです、人間は番いを感じ取れないので獣人が見つける前に結婚や婚約している場合、手遅れになることもあります」
「そんな……、生涯で唯一となる番いの方にすでに相手がいたら諦めざるを得ないと?それは……辛いですよね」
「事件にもなりかねません。ですので伴侶を得られなかった際は、他国にある獣人族の神殿に入ることもあります。あまり一般的には知られていませんが、そのような立場になった獣人への配慮もあるということです」
「なるほど、番いを得られるか否かでだいぶ左右されるのですね」
獣人族の方とは、あまり会ってお話しする機会がなくて知らないことばかり。先生のお話だと、獣人族が多く暮らす国があって、人間で成人する者は王都の神殿に集まるけど、獣人族の方々は獣人族の神殿で成人の儀を行う。多くの獣人は同じ生まれ年で結ばれることが多いけど、例外もあるんだそう。
「なぜ、本日の授業でこのような話をしたか察していただけますか?」
「……、先生のご子息が本日いらっしゃるからですよね?」
「理解が早くて何よりです。先日、成人の儀を終えましたが、まだ番いを見つけておりませんので習性のお話をさせて頂きました」
(ウサギのリコの時は番いなんて教わらなかったし、動物全般に言える話でもないのね)
他にも獣人族の方の習性や習わし、人間との違いについて学んだあとダンスホールへ向かった。