72
いよいよ、結婚式当日。
朝から屋敷中忙しく準備が進み、その時を迎えた。
厳かに佇む洗練された教会には、馬車が引っ切りなしに駆け抜け、教会内は参列者で満たされた。その中には、国王夫妻をはじめベフォーア様もいる。
神父の合図と共にパイプオルガンの音が響き、扉がゆっくり開かれた。
伏せ目がちに微笑みを崩さず前に進む。少し目線を上げれば、ベールで少し霞む先に洗練されたスーツに身を包むロイの笑みを見つけた。少し緊張が解けてみれば周りから祝福の嵐が耳に届いた。お父様からロイへ紡がれた私は、お父様へ軽く膝を折り、ロイの腕をしっかり掴んだ。
「病める時も健やかなる時も……」
神父様の言葉を聞きながら、これからの未来に思いを馳せた。どんな事があっても私はロイのそばにいる。絶対に。
静かにベールが上げられ、見つめ合い、ちょっと長めの誓いのキスをした。
盛大な拍手とどこからともなく光のシャワーが降り注いだ。
“おめでとう、私はこれからも見守るよ〜”
聞き覚えのある声は、きっとカイロス様ね。綺麗……。
「リコ、世界で一番幸せにすると誓う……」
「私も約束するわ、ずっとロイが大好きっ」
とびっきりの笑顔を向けて、持ってたブーケにキスをしてから思いっきり投げた。
教会から移動した公爵邸の大広間で、披露宴が行われ、宴も中盤に差し掛かった時。
「お嬢様、お色直しの時間でございます」
ユリーが高砂席に迎えに来てくれた。ロイに声を掛け、少し広間を後にする。
さて、ここからサプライズの時間だわ!
衣装を早めに整え、ベフォーア様と合流すると、待ってましたと言わんばかりに手を振って見せた。なんてお茶目な王子様だろうと心の中で思いつつ、よろしくお願いしますと伝えた。
「よし!実はケーキはすでに中にあるんだ。衝立で見えないようにしているから安心して?」
「私はどうすれば……?」
「ここにロイを連れてくるから、一緒に入場してスポットライトお当たる場所まで来て」
急がなきゃ、と広間に戻りロイを連れてきてくださった。どうやらロイにはお色直しが終わったからエスコートしてって伝えたみたい。
「リコ……これは、これで……美しすぎるな、」
お色直しのドレスに見惚れたロイをクイッと引いて、開かれた扉に入った。あっ、あれだわ!高砂席に近い所、広間の前方に照らされた場所を見つけて各席を回りながら、ゆっくり近づき立ち止まった。
急に立ち止まった私に、ロイは少し戸惑い小声で「リコ、どうし、」
「我が親友よ!!結婚おめでとうーーーー!!」
衝立がサッと引かれると、何段にも重ねられたそれはそれは大きなケーキが現れ、広間中に歓声が巻き起こった。
「すごい……こんな大きいなんて!」
思わずニヤけた口元を手で覆ってしまった。多くの花で装飾され、砂糖菓子で美しく飾られた見事なウェディングケーキだ。ベフォーア様が、キラリと光るリボンの巻かれたナイフを持ってきて説明してくださった。
「この巨大なケーキに最初にナイフを入れるのは、新郎新婦の二人だ。最初の夫婦共同作業を我々が見守ろうではないか」
差し出されたナイフを不思議そうに見つめるロイが、なんだか可愛く見えて、私も手助けする形で受け取った。
「ケーキ、入刀!!」
ベフォーア様の合図でケーキにナイフを入れると、一際盛大な歓声に包まれた。
「リコ、これは、ちょっと恥ずかしいな」
「だから良いのよ!絶対忘れないわ」
準備のいいベフォーア様は「せっかくだから味見をしてもらおうじゃないか!」と、私にスプーンを差し出した。
で、でかい!こ、このスプーン……ちょっとデカすぎませんか?そう突っ込みたいけど、ベフォーア様がウィンクして楽しんでいる。
「ロイファーちゃんと食べろよー」
「あのスプーンじゃ絶対口に入らないよね、笑いすぎてお腹痛い」
「この披露宴面白いな」
色々な声を聞きながら、ロイが生唾を飲み込んだ。
「リ、リコ、程々で……」
なんだか楽しくなってしまった私は盛大に掬ってロイの口に運んだのだった。




