66 マスコット
準備を終えた私は、ゆっくり車椅子に乗って談話室に運ばれた。
なぜかお義父様の計らいで、私が目覚めた事をロイには敢えて報告していないと言われ首を傾げると、サプライズにしようとなんだか楽しそうに笑うお義父様とお義母様の姿があった。
今日の式典は、王都内の広い広場に会場を設けて行われると聞いている。そこへ王家の方々も参加されるとあって、ロイ率いる騎士団も配置され街は一層賑やかに彩られているそうだ。ロイ本人は、騎士団長という立場と王位継承者の肩書きから、最前列に席を設けられているらしいけど……。どうやってサプライズするのかしら?
ちなみに密かにミミだけが屋敷に招集され、私を見るなり大粒の涙を流した。車椅子の状態ではあるけれど、お互い抱きしめ合って「おかえり」「ただいま」と言葉を交わし、何度も頬を撫でられ生きている実感を共に味わった。
私を抱えられる女性は今の所、ミミしかいない。たぶんそういう理由から先に呼ばれたんだろうと思いを巡らせ、全員の準備が整ったところで馬車が出発した。
「アプリコーゼ嬢、目覚めたばかりの身体に無理を強いて申し訳ない」
「私は大丈夫です。あっ、そうだわ!自分に力を使えば良いのですから」
こんな簡単な事にも頭が回らないなんて!と、自分の手に翳した力をそっと胸に押し当てた。スーっと身体が軽くなる感覚と、心がほんわか温かくなる感覚で自分の調子を取り戻した私を見て馬車に同乗するご両親やミミが安堵の笑みを浮かべた。
「ありがとう、本来なら式典の最後にアプリコーゼ嬢から挨拶をしてもらう予定だったんだ。今はそのスケジュールも白紙にしてあるが……、陛下を始めロイファーも国民も一丸となってこの式典の準備をしたんだ。君の姿を見せて安心させてやりたい」
「もちろんです、どうすればいいですか?」
「実はな……」
会場に向かうための馬車道は迂回路が用意され、少し遠回りをしながら会場の裏手に到着した。事前に馬車の中で貰ったお面を被り、車椅子に乗って街に出てみると……!
花に溢れ、子どもたちが様々な動物を可愛く模したお面を頭に付け走り回る様子が目に飛び込んできた。ウサギにシカ、タヌキにネズミ……なんて可愛らしいのかしら!それに、あちこちの露店に見えるのは……。ミミに押してもらい近くの露店に行くと、この式典のマスコットだというウサギの飾りを手に取った。
「これ……どうして……」
そこには、ロイファーに昔プレゼントしたのとそっくりな、リンクスカラーの毛並みにダークブラウンの瞳をした可愛いウサギが描かれていた。刺繍された小物やタペストリー、ぬいぐるみやドアリースまで同じマスコットの商品がいくつも並べられていた。
「このマスコット可愛いですよね!!この式典が決まった直後、どなたかが提案して式典の公式キャラクターになったんですって!私も何点か購入しましたよ。ほらっ、子供だけじゃなくて大人も身につけているでしょ?」
どういう経緯か分からないけど……これってロイ……だよね?
「リコも何か買ったら?どれか気にいる物ある?」
「そうね……それなら、これにしようかな?」
選んだのは、花束を抱えたぬいぐるみ。
「こうして抱えて並ぶと、このキャラクター……リコそっくりね!」
ミミのコメントに微笑みつつ、膝の上に置いてそのまま街を散策しながらステージを目指した。町中に飾られた花々の香りに、心から癒される。もうすぐロイに会える……。会ったらなんて言おう。聞きたいことが山ほどある。
すでにステージ上では司会者によって、式典が進みステージの向かい側には多くの国民が集まって話に耳を傾けていた。
「この式典が毎年開催され、生きていることの素晴らしさ、豊かな恵みに感謝していこうではないか」
陛下の言葉に大きな歓声が生まれ、その熱量に圧倒されたその時、陛下の横に立つベフォーア様とお面越しに目が合った気がした。側から見れば誰も私だと分かるはずないけど、明らかにベフォーア様の目が見開かれ口元が緩んでいる。
「しまった、ベフォーア殿下にはお見通しだったか」
お義父様の声が後ろから聞こえ、そっと耳打ちされた。「こっちから回ろう、おいで」と。
後をついて行くにも、多くの人手で思うように前に進めない。ミミも通行人にぶつからないように必死について行った。
「これこれ、特注品なんだ。これを着てくれるかい?」
渡されたのは、等身大の着ぐるみだ。
「この式典のマスコットなんだが、すでに人形を買われてたか。この着ぐるみを着てステージに立ってはどうかな」




