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『そろそろかしらね』
上空から王城の中へ飛び入り、見つからない陰に隠れて様子を伺う。私はいつから探偵になったのかしら、そう思いながら声のする方へ少しずつ移動した。案の定、キルシュとマルメラーデのやりとりだ。
マルメラーデに掛かっていた不調和の加護は、リコの力で消え去っている。さすがリコ!憎悪と恋慕で心の不調を生み、自分の欲望のまま動いていたマルメラーデが平常心を取り戻せるほど癒しの力が強まっている。あれなら、再びキルシュの闇に堕ちることはない。連れて行かれる部屋を確認して、外からコンタクトを取れるか試みた。
コンコンコン!
口ばしで小窓を叩き、マルメラーデと目が合った。
「お前、ジュニスか」
マルメラーデの言葉は分かる。でも私の言葉は聞こえない。通信用の魔具に合図を送れば、ものの数秒でベフォーアと繋がった。
「こちらベフォーアだ、ジュニスどうした?」
『目の前にマルメラーデがいるの。状況を説明して』
目を丸くして声のする魔具を見つめるマルメラーデに、ベフォーアが応じた。
「マルメラーデ殿、先日ぶりだね。カトレアの状況を知ったのはいつだ?」
「……昨日だ」
「そうか。今から話すことは事実だ。そして、これからの事もどうか信じて欲しい」
「……わかった。説明してくれ」
キルシュの狙いが、最初からカトレア王国を属国にしようと企てていたこと。調和の加護ではなく、同一系統の不調和の加護を巧みに使い国民の心にダメージを与えていること。戦闘不能状態で攻め入りたいから、邪魔なアプリコーゼを国外追放にしたことを告げられた。
「思い出した……、私がティアーズに行く前にキルシュを地下に案内したんだ……」
「地下?」
「カトレアを建国した当時、国のどの民にも同じように声と希望が行き届くようにと巨大な魔具で通信機が作られた。それを利用されたんだ……」
「なるほどね、不調和音を流して心を壊していったんだろう」
「なんてことだ……俺の責任だ……」
「マルメラーデ、後悔している時間はない。我々の兵力で各都市の住人たちを徐々に避難させている。それにもうすぐアプリコーゼ嬢がそちらに向かうはずだ。マルメラーデ、一つ頼みがある」




