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「マルメラーデ様!!こ、これは一体……」
マルメラーデがティアーズからカトレアに帰る道中、それは突然に知らされた。
「兵が……トルシアン王国の兵が攻め入り、王都近くまで侵攻しているそうです」
「なぜだ!そんな知らせ全く来ていなかったではないか!」
「こちらに情報が全く回ってきていません!侵攻されていない街から王都に入れないか急ぎ調べます!」
何が起こっているんだ……?
窓の外を見れば、座り込む国民の姿が多く見え、要である騎士が全く見当たらない。それに、父上が兵を動かさない訳がない……トルシアン……キルシュの国がなぜ。
一日かけて南に回り王都に入った。
絶望的な状況に息を呑む。侵攻されていると分かっているのに、ため息をつきながら畑仕事をする者や、店先で傷んだ野菜を見つめる店主、王都内を警備するはずの護衛官は屯所に座り込む始末。
「すぐ城に向かえ!」
城の門をくぐりエントランスに入るが、異様な空気はここにも漂う。やはりいつもの活気が全くない。
「まぁ~、マルメラーデ様お戻りでしたのね。……あら?私の加護が抜けてる?」
階段上から降りてきたキルシュ王女が何か言っている。
「何があった!父上と母上は!?」
「お二人でしたら、仲良く執務室におりますわ」
「……この状況で?」
他国に攻められた今のような状況であれば、各大臣や騎士団を集め情報収集、部隊編成、国民への支給を始めているはず。それなのに、母上と執務室だと?……そういえば、私がアプリコーゼの所へ行く前の記憶が曖昧で色々な事が思い出せない。何か予兆はあったのか?
「フェルゼはどうした!」
ティアーズに行くと決めた時、フェルゼ自身から「留守はお任せください」と残る意思を示された。それなのに、この有様だ。
「フェルゼなら、」
キルシュ王女の目線の先には、座り込み壁にもたれ掛かるフェルゼの姿があった。叫びながら駆け足で近付くと、虚な目に気力の抜けた身体でまるで動こうとしない。
「……一体、フェルゼに何をしたんだ……答えろキルシュ!」
「まぁ、負け犬の遠吠えのようですわね」
「なんだと……?」
「ですから、負け犬と申し上げたのですわ。折角わたくしがティアーズの招待状を手に入れて差し上げましたのに、アプリコーゼ様を連れ帰れない腰抜けではありませんか」
「あれは、父上から預かった招待状だろ!それに、アプリコーゼの幸せを考えた上での判断だ。貴様に腰抜けなどと言われる筋合いはない!」
「あっそ。別に私の知った事ではないわ、連れてって」
周囲を見知らぬ兵に囲まれ、抵抗もできずに最上階の個室に押し込まれた。僅かな小窓とベッドだけ。よく、考えろ……何か忘れていることを思い出さなければ!




