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「これはネネン侯爵令嬢、些か騒がしいようだが何事だ?」
「で、殿下!わたくしはただ、嘘をつくアプリコーゼ様が許せないだけですわ!それにロイファー様だって私と婚約されるはずでしたのに、アプリコーゼ様が無理矢理……」
「殿下、申し訳ございません!娘はすぐ連れて帰りますから」
「いや、良い。誤解は解いておくべきだろう?カメーリエ嬢はなぜアプリコーゼ嬢が嘘をついていると?」
「聞きましたわ!アプリコーゼ様は名ばかりの加護持ちで、力が使えず婚約破棄と国外追放を言い渡されたと!」
「ほう……どうやら情報が古いようだね、無理もない。が、カメーリエ嬢、事の真偽は自分の目で確かめるものだよ」
「……?な、なにを、」
「情報源はキルシュ王女だね?」
「どうして、それを……」
「貴方はキルシュと通じてアプリコーゼ嬢が力を発現していないか監視・報告を依頼されていたね?屋敷や学園を怪しく嗅ぎ回る連中はすでに捕らえている」
「あっ……」
えっ?監視?怪しく嗅ぎ回る……連中?私、もしかして知らないところで探られてたの?そして……また多くの方に護られてたんだわ。
「そして二人の婚約だが、すでに国も認めた。ロイファー、見せてやれ」
再び指を回せば、本来の狼の姿にカメーリア様の顔色が変わり、すぐ王家との関係性に気付いた。それに……
「私と婚約を約束していたと言うのは、どこから出てきた話しか聞かせてもらおう。獣人の番いたる伴侶は生涯で唯一の存在。私の番いはアプリコーゼただ一人だ」
「いや……そんな……だってキルシュ様が約束してくださったのに!」
「もう止めないか!」
ネネン侯爵がカメーリア様を抑えた勢いで、テーブルの上のグラスが床で割れ、運悪くカメーリア様が倒れ込んでしまった。破片が刺さりドレスにまで血が滲んでしまっている。
「い、痛い痛い!いやぁぁぁ~!」
叫び声の響く会場で、私は自分の手のひらに集中し癒しの力を集めた。そっとカメーリエ様の傍に跪き、光を当てる。たちまち傷が塞がり、刺さっていたガラスがポロポロ落ちた。傷に集中していたから、心の痛みに干渉出来たか分からない……それでも目の前で苦しんでいたカメーリエ様の表情が安堵すると私もホッとした。傍観していた参加者たちも改めてその力に魅入られ、歓声を上げた。
「エーデルシュタイン公爵令嬢、本当に何とお礼とお詫びをすれば良いのか……申し訳ありませんでした」
「いえ、ネネン侯爵様、私は私のしたいようにしてるだけですから。それにカメーリエ様も被害者の可能性があります」
「ひ、被害者……」
ロイとベフォーア様が頷き合う。
「ネネン侯爵、我々でカメーリエ嬢に確認したい事がある。少し預からせてもらっても良いかな?」
「もちろんです、何かございましたらすぐ当家へご連絡ください」
「承知した。……連れて行け」
傍に控えていた数名の騎士に囲まれる形で、会場を後にした。せっかくの宴が微妙な雰囲気にはなってしまったけど……
「皆、騒ぎにして悪かった!手土産を用意したから、帰りに受け取ってくれ」
王城ロビーに集められた使用人たちによって、参加者に手土産が配られた。これもベフォーア様に依頼されたものの一つ。私の力は、訓練すれば物にも癒しを込められるってジュニスに教えてもらってたから練習の一環として、精製されたお水を小瓶に入れて渡したのだ。
「説明書も付けてくれたかな?」
「はい、畑には土、花には水へ混ぜてくださいと書き入れています」
「ありがとう、今日来ていた貴族の領地では流行病が終息したとは言え、田畑が壊滅的だからね……効果が見えれば問い合わせがくるだろう」
「効いてくれればいいのですが……」
そんな心配は、いつしか忙しさの悲鳴に変わろうとはまだ知らない。




