51 マルメラーデの心
「本当にアプリコーゼの披露目なのか!?」
「間違いありません、詳細は伏せられていましたがここの政務官の一人から聞き出しました。恐らく流行病を消した功績が伝えられるのではないかと……」
ティアーズからカトレアに届いた招待状をキルシュから受け取り、急ぎ出立した。アプリコーゼを見つけたら即座にカトレアへ連れて帰り、父上と母上を説得してやる。
各国の招待客が集う席で静かにしている訳にもいかず、薄い交流と仮面を被った愛想笑いでその場を凌ぐ。ティアーズの国王にも挨拶したところで、会場を彩る音色が雰囲気を変えた。
「本日列席の皆様へ、国王陛下より挨拶申し上げます」
「国内のみならず、諸外国からの列席に感謝する。長らくわが国を苦しめてきた流行病が、ある者の素晴らしい力によって消滅し、病気や気に負われていた者たちも救ってくれた。皆も昔から語り継がれた話を存じていると思うが、これは“女神に愛されし癒しの加護”による救い……加護を賜った者が、我らの国に幸福をもたらしたのだ。多くの希望もあり本日披露目の機会を設けた、短い時間ではあるが堪能してくれ。扉を開けよ」
国王陛下の合図で後方の扉が大きく開かれる。
「…………!!」
美しく洗練されたブルーのドレスを纏い、女神のような微笑みで前を見据えるアプリコーゼに目を見張った。カトレアにいる頃のような作られた笑顔ではなく、誰の目から見ても幸せであるようなその笑みに吸い込まれてしまった。……しかし隣にいるのは、よりにもよって獣人の姿をしたロイファーじゃないか!くそっ……よくもアプリコーゼを……!
「なんて素敵なのかしら……」
「美しい……、まるで女神のようだ」
「隣の方は……どなたかしら、とても美しい狼族の方ね……それにベフォーア様と似てない?」
「そうね、王家の方かしら?」
なんだ、この国の者たちはロイファーだと知らないのか!?こっちでも人の姿でいたのか、何が狙いだ!?耳に入ってくる様々な反応を拾い、考察を広げる。
会場中央をゆっくり進むロイファーとアプリコーゼを敬慕の眼差しで見つめ拍手が送られる。そんな様子に沸々と怒りを覚え、今にも飛び出したい気分だが必死に堪え、目の前をアプリコーゼが通り過ぎた。
「皆の目にも留めてくれ。我らを救った“女神に愛されし癒しの加護”を持つ、アプリコーゼ・エーデルシュタイン嬢だ」
ワーーーー!!
大きな歓声と拍手が送られて照れた様子でロイファーと目を合わせ、手を振る麗しいアプリコーゼ……そこは俺の場所だ!足を一本踏み出し感情のまま動き出そうとした瞬間、眩い光が壇上から照らされた。
一瞬で、曇っていた心の霧が晴れていく。




