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「さて、授業を始める前にいくつか連絡します。まずは、来週末に王城で開催される夜会に参加される生徒が多いと思いますので、最高学年Aクラスとして恥ずかしくない様に本日から礼儀作法の特別授業を行います。日によって持ち物が異なりますから気をつけてください。それと、再来週のテストですが、成績上位者にはカフェテリアの特別席が解放される事になりました。こちらも詳細は後日掲示板に掲示されますからね。では、本日の授業を行いましょう」
学ぶ内容はカトレア学園と大きな差はない。お昼休憩を挟んで授業の終了の合図を知らせる鐘が鳴ると、数名の生徒が私の机へやってきた。
「アプリコーゼ・エーデルシュタイン様、初日はいかがでしたか?」
「お気遣いありがとうございます、とても楽しく学ばせて頂いてますわ。どうぞアプリコーゼとお呼びくださいませ。失礼ですがお名前を伺っても?」
「私は、ネネン侯爵家カメーリエと申します。この学園の成績上位者としてアプリコーゼ様に忠告しに参りました。他国からの留学生ということですが、実力主義のティアーズ学園ですから再来週のテストで融通は効きませんわよ。それに、今回のテストが学園最後のテストになりますからポッと出の方に不正などされてはたまりませんもの」
ネネン侯爵家、昨日ロイの話に出て来たわ。同じクラスだったのね。
「もちろんです、カメーリア様の仰る通りだわ。私も正々堂々とテストに臨むまでです」
「それと少し小耳に挟んだのですけど……カトレア王国のマルメラーデ殿下とご婚約されていらしたんですって?でも破棄されたとか、」
「カメーリエ嬢、失礼ですよ!?」
思わずミミが間に入ってくれたけど、大方クラスの皆様の耳に入れたかったって所かしら。私の評判を落とすのは構わないけど、後からロイの評価を下げるような事はしたくないな……。
「良いのよ、ミミ。本当の事ですから」
「リコ……」
「カメーリエ様、確かに私は婚約破棄を言い渡されました。ですが、私とマルメラーデ様の間に愛はございませんでしたから、どうぞお気遣いなく」
「そ、そう」
「カメーリエ様、行きましょう?カメーリエ様とロイファー様のように愛を育まれていなかっただけですもの、婚約破棄されては今後の婚約も難しいでしょうし」
「ロイファー様のような方を射止めるカメーリエ様が心配された方が気の毒ですわ」
「え、えぇ……参りましょう」
カトレア学園では、名ばかりの加護持ちと言われ、マルメラーデに相応しくないと遠巻きにされていた。友人と呼べるお友達もいなかったから……こちらでお友達が出来たら……と思っていたけど難しいかもしれないわ。でも、私にはミミがいるもの!
それにしても……なぜロイの名前が?
「ミミ、さっきはありがとう。とても心強かったわ!一緒にいてくれて良かった」
「力なら負けないのに!獣人族で多く構成される貴族の中で、人間の侯爵家だからって割と我儘に暮らしてて。それにロイファー騎士団長の話も、詳しくは知らないけどティアーズに戻ってから騒いでいるみたい」
「そう……、気にしないでエデン先生のところに行きましょう」
学園の校舎以外にも建物がいくつも並び、ホールを備えた講堂、図書館、研究棟、教会もある。
今後エデン先生との特別授業は、教会にある祈りの部屋で行われる。エデン先生曰く、癒しの力が集まりやすいのだとか。歩いて見えてきたのは、白いレンガと空色の屋根が特徴のとても美しい教会だ。正面に見えるステンドグラスの嵌まる扉が少し開き、エデン先生の姿が見えた。
「待っていましたよ、授業お疲れ様でした。ミミ、変わりはなかったかな?」
「変わり……なくはないけど、リコはまるで気にしてないから複雑」
「そうか、中で話を聞こう。二人とも入っておいで」
招かれた教会の中は、天井の採光窓から降り注ぐ陽の光でとても明るく美しい。身廊の先には祈りを捧げる女神像が見える。祈りの部屋に入り、開口一番にミミの話しを聞いたエデン先生から「ネネン侯爵か……」と意味深なため息が漏れた。
「私は本当に気にしていませんから、」
「いや、ネネン侯爵はカトレアと交易が多いから情報も早いんだろう。こちらの情報がそこから漏れないとも限らない、今のアプリコーゼ様の状況がカトレアに筒抜けになってしまう可能性があるという事です。それにカメーリエ嬢には少々誤解があるようだから少し心配でね」
おっと……そんな事は知りませんでした。でも、筒抜けだとしても私はもう逃げない。今私が出来ることをするだけ、だから授業をお願いしますと改めてお願いした。
早くロイの力に……私のために力をつけたい。




