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しばらく沈黙の続いた部屋。
私が、ロイファーの番い?番いって、もっとこう……熱烈に求婚とか愛を伝えるイメージだった。でもロイファーは私の護衛をするだけで、しかもマルメラーデ様の婚約者だった。いつかの授業を思い出す。
「……この部屋専用の庭園があるのです。バルコニーから階段を降りればすぐに行けるので……良かったら」
照れながらもロイファーに導かれるままバルコニーの階段を降りた。バラの生垣に囲まれた可愛いお庭に思わず笑みがこぼれると「ゴホンッ」隣から咳払いが聞こえ振り返り、赤い顔をしたロイファーが私の手を取った。
「貴方が笑うと、俺を惑わせるこの香りが強くなるのです……。初めてあった日からずっと、ずっとこうして貴方に触れたかった。獣人は生涯たった一人を愛し抜く、俺には貴方以外この目には映らないのです。マルメラーデを選ぶのなら、留学期間が終わり次第安全にカトレアへお送りします」
じっと見つめ合いながら握られた手の温かさと、感情の籠った強さを感じる……。こうして向き合って見つめられると、心臓の音がうるさくてロイファーの声がちゃんと聞こえない。
「それでも……もし、俺を選んでくださるのなら……この身が滅びるまで私の命に懸けても護り抜くと誓います」
(あぁ……そっか……この気持ちが……)
「この気持ちが、愛というのかしら……」
「えっ?」
「ロイファー、今まで気付かなくてごめんなさい。私の心は……もうずっと前から貴方のものみたいよ?」
ふふっと微笑んで、一歩前に出た。すぐ真上にはロイファーの顔がこちらを見ている。愛しいっていう気持ちがとめどなく溢れ出て、胸が苦しくなってきた。
「恥ずかしくて俯いたり、夜中の窓越しのやりとりも、今も……私はロイファーだから嬉しかったんだわ。番いって、もっと早く教えて欲しかった、」
ぎゅーっと、抱きしめられた私はそっと背中に手を回した。そのままロイファーの香りに包まれて「リコって呼んで?」と囁けば、今にも風に掻き消されてしまいそうな小さな声で「……リコ、愛してる」と愛の囁きが返ってきた。なんて、幸せな気持ちになれるんだろう……。
離された腕に寂しさを覚えるのも束の間、私の前に膝を折って胸に手を当てたロイファーは
「私、ロイファー・アインツェルゲンガーは、アプリコーゼ・エーデルシュタイン嬢を心から愛しています。どうか、私の妻となって頂けないでしょうか?」
「はい……喜んで。私も貴方をお慕いしております」
そう伝えてロイファーの手を取った瞬間、私の中の何かが弾けた。
「リコ!!!!」
叫ぶロイファーの声がするけど、フッと意識が一瞬遠のいたと思ったら、王城を包み込むほどの光が私から放たれたのが分かった。眩しい……でも温かい……これは、癒しの力……!どうか、どうかロイファーとティアーズ王国に加護を……。
意識を手放したリコを抱えたままロイファーの叫ぶ声が城中に響き渡った。




