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香りが……香りがどんどん強くなる。本来の姿になれば嗅覚も感覚全てが鋭敏になるからなのか、目の前にいる頬を染めたアプリコーゼ様に酔いそうだ。しかし、お嬢様は未だマルメラーデの婚約者としての立場がある。無碍に困らせるような事はしたくない。
「ま、窓を開けても良いでしょうか?」
「窓?良いけど?」
少しでもこの香りが和らげば落ち着けるはず、そう思ったのに。
お嬢様の胸元からスッと取り出されたペンダントは、あの時渡した物だ。
「このネックレスを身に付けなかった日はないの……王太子妃教育で辛い日も、そばで護られている気がして手放せなかった。これ、ロイファーの瞳の色でしょ?」
「そうです。貴方の傍にいれない代わりに…厚かましくも自分の色を贈りました。心の支えとなったなら本望です。それに私も御守りを貰いましたから」
ウサギの刺繍を施したワッペンは自分で少し加工してブローチにした。国境地帯での任務も、ティアーズの騎士団入団の時にも肌身離さず持ち歩いたブローチは今も胸ポケットに入っている。
「持っててくれたんだ……こんな下手くそなのに。今ならもう少し上手に出来るよ」
「これがいいのです、初めて頂いた贈り物ですから」
「わたしね、」
コンコン!「サイアスです」
「入れ」
「話中にすまないね、二点ご報告。ジュニスが目を覚ましアプリコーゼ様を探してるよ。それと少々厄介だけど、カトレア王国から遣いが来てる」
「内容は?」
「即時、アプリコーゼ様をカトレアへ連れ戻すための遣いだそうだ。現在、ベフォーア王子が対応して下さってる」
「ふぅ、随分早いお出ましだな。まずは、ここにジュニスを連れてきてくれ。そしたら私と共にサイアスも王子のところへ行こう。エーデルシュタイン公爵から書簡を預かってる、その内容を知らなさそうだからな」
「では、少々お待ちください」
「あの……ロイファー、私カトレアで国外追放を言い渡されたわ。連れ戻すなどあり得ないのよ」
「国外追放!?……あの、先ほどサイアスが来る前に言いかけたのは何ですか?」
「えっ……あ、陛下に婚約破棄を宣言されたと言いかけたの」
「……!婚約……破棄……」
「だから私を連れ戻すなんて事ないと思うわ」
「わ、わかりました。それを踏まえて話を聞いてきましょう」
再びドアをノックする音と、扉を開く音が聞こえ顔を向けた。サイアス様の肩に乗ったジュニスと目が合い、一瞬フリーズしたあと私めがけて飛び込んできた!
「ジュニスー!!ごめんね、辛かったよね、本当にごめんね……」
『違うよ、リコ。リコは何にも悪くないから!会いたかったよー!!!!』
床で抱き合って泣いてる間に、ロイファーとサイアス様は部屋からいなくなっていた。ジュニスとソファーへ移動して、これまでの話を聞いた。
「……そ、そんな……」
『本当よ、誕生パーティーの傷も温室で閉じ込めたのも全部マルメラーデとその傍にいた男よ』
「でも、どうして?ジュニスを傷付ける理由なんてないじゃない……」
『あの男は、リコを手に入れるためなら何だってするタイプね』
ジュニスの話によると、パーティーの日背後から来た何者かに捉えられて本音薬を嗅がされた後、あの籠に入れられリコが今までに癒しの力を使ったか聞かれた時に森のことを話してしまったそう。その後、傷付けられた自分をリコがみんなの前で癒せば王家に嫁ぐ口実を作れる魂胆だったと。ついでに、私の護衛騎士に乗り換えたロイファーを私から引き離すために森での出来事を公にして罰を与えたと。
「許せない……。よくも、よくも私の大切な人たちを……。私の進む道は、私が決めるわ!勝手に都合よく作り上げられてたまるもんですか」




