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(な、なんと!)
「ご、ご挨拶申し上げます。隣国カトレアより参りましたアプリコーゼ・エーデルシュタイと申します」
「話はロイファーから聞いているよ、堅苦しい挨拶はここまでにして早く中は入ろう。急ぎの理由があるんだろ?」
手元の籠に目線を向けたベフォーア王子の言葉に頷き、応接間へ案内してもらった。それにしても、まさか他国の王子にまで出会うなんて。よくよく見たら、図鑑でしか見た事ないけど王子の容姿はまさに威厳を纏う狼の姿。ロイファーが獣人で、しかも狼族……王子と何か関係あるのかしら……。
応接間に入るなり「お嬢様この度は、」とんでもない勢いで土下座された。でも、今は謝罪の時間も惜しい。
「ロイファー、お願い……ジュニスを、ジュニスを助けて」
「お嬢様の癒しの力はどうしたのですか?」
「あれから一度も使えないの。苦しむジュニスが最後に喋った言葉が、ロイファーのところに連れてって……って」
「私のところに……」
「アプリコーゼ嬢、ちょっと良いかな?君の手を貸して?」
ベフォーア王子に促されるまま手を出すと、強引にロイファーの手も取り私と握手するように繋がれた。
不思議な感覚に襲われ籠を持つ手に温かさを感じて、ふと懐かしさを覚えた。あれ?……この感じ知ってる。ロイファーとジュニスを助けた時と同じだ。そう思って、手のひらをそっとジュニスに近付けた。ふわぁー……と広がった優しい光は、いつか見た光景と同じでずっと待ち望んだ力。ジュニスを包んだ光がしばらくして消えると、力無く横たわったジュニスが少しずつ動き始め目を開いた。
『……リ、リコ……』
「ジュニス!!!!私よ、リコよ!!」
『やっと、会えた……ごめん、ね』
「少し回復するに時間が掛かるだろう。もう籠から出せるし、ちゃんと効いてるから少し預かって様子をみよう」
「お願いします、良かった……」
ベフォーア王子の合図で使用人と思われる獣人がそっとジュニスを抱え部屋を出た。ベフォーア王子も、ロイファーの肩をポンっと叩いてそのままサイアス様とユリーと共に部屋を出てしまった。どんな気の回され方なのか、部屋に二人きりで気まずい。
「あ、ありがとう、ロイファー。でも、どうして力が使えたんだろう。この四年間何も出来なくて、名ばかりの力だと揶揄されてきたのに……」
「そんな事を言われていたのですか!?」
「マルメラーデ様の婚約者としてお城にいても、肩身の狭い思いばかりだったわ」
「…………。」
聞いて良いのかな……。
「ロイファー、どうして獣人であることを隠してたの?」
「……!?ど、どうしてそれを、」
「ティアーズ王国に来る道中、サイアス様から教えてもらったの。お家がこちらの国にあることも、筆頭公爵家の嫡男であることも……。私では信用を得るに足らなかった?」
「違います!!そのような事はありません!私はお嬢様の護衛騎士でしたので、私用な事はお話ししなかっただけです」
「獣人の姿を……見せて?」
「……わかりました」
指を宙で回せば、美しい濃淡グレーの毛を靡かせた狼が姿を現した。騎士服もまた違った雰囲気に見える。綺麗……ううん、格好いい。思わず見惚れてしまったアプリコーゼの前に屈んだロイファーが優しく笑って「これが私の本来の姿です、お嬢様」と。
「あっ……名前、名前で呼んで?」
「アプリコーゼ様」
前よりも背も高くなって男性らしくなった上に、凛と佇む狼の姿に心臓の音がうるさくなった。
「アプリコーゼ様、あの……」




