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「誰か他に温室に入った者はいないのか!?」
「い、いえ……王妃様のお茶会のため、使用人も側に控えておりましたが誰も見ていません」
「チッ、あの鳥はマズイ。すぐ見つけ出せ、アプリコーゼに知られる前に片付けろ」
「はっ!しかし、かなり衰弱した様子でした。長くは持たないでしょう」
「それなら良いが。とにかく持ち出した者の特定と、すぐ籠を回収しろ」
あの鳥を捕らえ、特殊な魔具を使って欲しい情報を全て吐かせた後、始末しようとしたのになぜか出来なかった。仕方なくあの籠を使って閉じ込めはしたものの、普段人の出入りの少ない温室にしたのに。くそ……。アプリコーゼを手に入れるためなら何だってしてやるさ。ロイファーになど渡してなるものか。ふと、胸ポケットに仕舞われた贈り物をアプリコーゼに渡すのを忘れたことに気付いた。
どうしてもアプリコーゼの心が手に入らない。そのもどかしさは増すばかり。癒しの力なんて使えずとも、可哀想なアプリコーゼを慰めるのは私の役目だと、頻繁に会う機会を設けていたのに……いつも作られた笑いを向け、本心を曝け出さないアプリコーゼに怒りを覚えたこともあった。しかし、あの可憐な容姿が今以上に大輪の花を咲かせるのは容易に想像がつく。一歩引いた奥ゆかしさと知性で、王太子妃教育もとっくに終了している。早く結婚して他の男の入る隙間など無くしてしまいたい。しかし……よりにもよって、母上が勝手に隣国から姫君を婚約者候補として迎え入れ、挙げ句の果て、共に茶会を開き紹介するなど……。
窓の外を見ると青服の騎士に誘導されるアプリコーゼを見つけた。あれは陛下の騎士だ、なぜアプリコーゼが囲まれている!?妙な胸騒ぎがして、急ぎフェルゼに調べさせた。そこへ、政務官の一人が息を切らして私の元へ走ってきて
「殿下、急ぎ報告致します。現在広間にて陛下並びに王妃様がアプリコーゼ様をお呼びして……婚約破棄にすると宣告されております」
「なんだと!?確かか!?」
「はい、我々に婚約誓約書と破棄用のハサミを用意するよう連絡が、」
「ダメだ!急ごう!」
慌てて走って行った広間を、勢いよく叩き中に入るが……一番いてほしかったアプリコーゼの姿が見当たらない。
「父上、これは……」
机に残された半分に切られた誓約書を持ち上げて呆然とした。
「なっ!何故ですか?以前から申し上げていたではありませんか、私にはアプリコーゼだけだと」
「あの子は、力も発揮できないただの令嬢だ。この国のことを考えれば、利になる娘を得たんだ方がいいとお前も分かっているだろう?」
「私は……愛する者と添い遂げたい。アプリコーゼ以外にそう思える令嬢はいません!」
グッと拳に力を入れて訴えるが、目の前の誓約書は最早修復はできない。癒しの力……あの力さえ使いこなせていれば!
「話は以上だ、これ以上私を失望させるなマルメラーデ」
「……くそっ」
広間に残された私は、悔しさと怒りで心が染められた。
「マルメラーデ様、フェルゼです」
「どうした」
「鳥籠を持ち出したのは……アプリコーゼ様のようです」
「!?」
「彼女の侍女が馬車に積み込む姿が目撃されていました、申し訳ございません」
「次から次へと……」




