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「今、サイアスを呼んだ。リコも支度をしなさい。そして、ジュニスを連れてティアーズ王国へ行っておいで」
「ティアーズ王国……」
「リコ、よく聞きなさい。おそらく四年前ジュニスに起こった事件もロイファーが国境に行ってしまったのも、誰かが仕向けた罠の可能性が高い。ロイファーが調べてくれていたんだ。密かに調べ、私に手紙を寄越してくれていた」
「……罠……?」
「ロイファーに会えたら、色々聞くと良い。今なら全てを話してくれるだろう」
「お父様、私先ほど陛下に呼ばれて婚約を解消しました。それに国外追放だと……」
「少し前にこちらにも書簡が届いたよ。同時という事は何かしら計画されたものだろう。私としても婚約が解消されてホッとした。癒しの力が使えない事は少し残念だが、こうして解放される結末になったのなら何か意味があったんだろう。未練があるかい?」
「……全くありませんわ、むしろ宴を開きたい気分です。四年間を返して欲しいくらいだわ」
「私たちも同じ思いだよ。ひとまずティアーズに行くんだ。事の真相が明るみに出れば国外追放などと馬鹿げた話も無効になるだろう。ティアーズに行く前に家族に顔を見せておいで」
「はい、お母様とお兄様にもお話ししたい事がたくさんありますもの。でも国外追放という事は学園は退学ですか?」
「安心しなさい。そこは私が手を打っておこう、向こうで何か変わった事があればすぐ知らせるんだよ?」
「お父様、ありがとうございます」
ジュニスの入った籠は、開きはしたものの中からジュニスを出す事ができなくてそのまま抱えている。お母様とお兄様に久しぶりの対面を果たし、学園での話や王城での出来事を話すと……感情がこもってしまい涙が流れた。
「リコ、よく頑張りましたね。もう大丈夫よ、私たちがついているわ。それにロイファーに会えたらたくさん助けてもらいなさい」
「そうだよ、私もちょうど家にいる時でよかった。リコに良いものをあげるよ」
そう言って手渡されたのは、綺麗なエメラルドのブレスレット。……あれ?さっきお父様がジュニスの籠を開けたものに似てる?
「これはね、魔鉱石という石を加工して作られたんだ」
「魔鉱石?」
確か、学園の授業でも魔鉱石の話を聞いた事がある。昔この世界に多く存在した魔物たちの体内にあった貴重な鉱物で、討伐して取り出していたが今は魔物がいない。でも、破滅した時に地中に返った魔物達の体内に残った鉱物だけは地中に残されたままなんだとか。貴重だから目にする機会はほとんどないし、加工されたものがあるなんて……!
「今まで話す機会もなかったけど、我がエーデルシュタイン公爵家の家業の一つが宝石商だ。……ずっと昔、私たちの領地は魔物の住処でね……多くの被害が出たが今では魔石の宝庫なんだよ。だから裏家業として魔石の採掘と加工をしているんだ」
「そ、それは知りませんでしたわ……」
「これもその一つ。 魔鉱石の種類や加工の仕方で付与できる効果が違うけど、これには“安全の祈り”が込められているんだ。道中気をつけてね」
「ありがとうお兄様」
罠、密かに調べた手紙、ティアーズ王国……私の知らない事がどんどん増えていく。学園や王太子妃教育に忙しかったとは言え、なんだか心の在りどころがわからない。ロイファーは、どうして話してくれなかったんだろう。そんな思いだけが膨らんでいく。
ユリーの手を借り、トランク二つ分の荷物とその隣に見た事ないトランクが並べられた。
「私がお嬢様から離れるとお思いですか?これは、私のトランクですよ」
「付いてきてくれるの……?」
「当たり前です、身の回りのお世話は私の役目でございますから。旦那様からも許可は頂いております」
「ありがとう……ありがとう、ユリー」
私は籠を抱えたまま馬車に乗りこんだ。




