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 王家から届いた手紙にはこう書いてあった。


『アプリコーゼ・エーデルシュタイン嬢

 貴殿は速やかに国王陛下へ謁見を

 ロイファー・アインツェルゲンガー

 貴殿は速やかに国境警備団へ合流を命ずる』


「どうして、ロイファーは私の護衛ではなくなったのですか、お父様!」

「リコ……お前の力になってやれず本当にすまない。リコの力を黙っていた咎めを甘んじて受けると、ロイファーが言い残し出ていってしまったんだ。まさか国境とは」

「地図、地図はどこですか!」

 慌ててユリーが本棚から地図を持ってくると、テーブルに広げ場所を確認した。自分のいる王都から派遣された国境警備団のいる街まで、何日も掛かるような場所だった。行けるわけない……、追いかけることもできない。その場に崩れ呆然としてしまう。静かに流れた涙は絨毯に落ち、手に握られたサファイヤのネックレスが僅かに光った。

「リコ、それはどうしたの?」

 私の前にしゃがんだクライゼルお兄様が、私の手を覗き込んだ。

「ロイファーから……誕生日プレゼントって」

「あいつもよく見つけたな〜、とても綺麗に加工されてるところを見ると探すのに苦労したんじゃないかな?」

「……絶対高価でしたよね」

「そうだね、決して安いものではないよ。でも、きっと値段より大切なものがあったんだろうね」

「大切なもの……」

 手のひらに乗せ陽の光に当たれば、美しい青の煌めきがあった。


 (異性からの贈り物で、しかも愛する方へ身に付けるものを贈るときは、自分の色を選ぶのです)


 いつかユリーが言ってた言葉が頭の中に蘇る。この煌めきは……ロイファーの瞳そのもの。

 失いたくない、初めて強く望んだかもしれない。神様に『お母さんと弟妹たちだけは守って。私の願いはそれだけ』と願った時の思いと同じくらいロイファーを失いたくないと心から思った。



 翌日、ドレスに着替えお父様と登城すると、謁見の間にはすでに国王陛下やマルメラーデ様、宰相など数名の方が同席されていた。

「よくぞ参られた、アプリコーゼ嬢。あれから体調はいかがかな?」

「はい、特に変わりございません」

「そうか、実は息子から貴殿の誕生パーティーでの出来事を聞いてね。事が事実ならば、私も把握せねばと思いこうして時間を設けた。公爵からでもアプリコーゼ嬢からでも良い、女神に愛されし癒しの加護が発現したのは誠か?」

「……はい、私が傷を癒しました」

「今、その力を見る事はできるのかい?」

「わかりません、まだ制御もコントロールも出来ません」

「そうか。しかし、めでたい!我が国でこの様な加護を持つ者に出会えるとは、我が国の繁栄が確かなものになるではないか。どうかなアプリコーゼ嬢、歴代の加護を賜った令嬢たちは皆、王家に嫁ぎ共に民を助けてきたのだ。其方にはマルメラーデの婚約者となってもらう、いいね?」

「アプリコーゼ、君が成人を迎えた暁には、盛大な結婚式をあげよう」


 壇上から降りて、私の目の前に跪き求婚の意思を示した。

「私ならば、貴方の望むままに何でも叶えよう。演習会で会ったあの日から私は貴方に夢中なんだ、生涯貴方だけを愛すると誓う」

 お父様を見るけど、お父様は私を見ない。真っ直ぐ前を向いて何かを見つめていた。この場で、拒否すればマルメラーデ様は恥をかく事になる。というか、毎回思うけど……こんな大勢の前で求婚するとか、断れないと分かってて言ってるのがなんか嫌。


「私は、」

「いやーめでたい!早速、婚約誓約書を準備させよう。公爵も娘の嫁ぎ先が決まって一安心だろう」

 私もお父様も何も発言することなく謁見が終わった。首を縦に振ってないって言うのに、強引に婚約と言われ……目の前に誓約書が出された。通された応接間には、笑顔一つない政務官が四〜五人いて紙にサインするのを待っている。

「お、お父様……」

「リコ、今は黙って従おう。ただし、」

 お父様の内緒話のような小声が耳に届くと私は目を丸くした。でも、お父様の言う通りなら……今は従った方がいいのかもしれない。

 見えない様に隠した首元のネックレスを握りしめ、誓約書にサインをして……城を後にした。

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