26
部屋に閉じこもってどれくらい経ったんだろう。少し喉が渇いた。
カツンッ!
窓から音がした気がして近付いた。空は暗くなり、小さな星と三日月が綺麗に瞬く窓をそっと開けてみる。ジュニスかもしれないと空を見上げたけど何も見えない。「はぁ」と溜め息をつき窓枠に肘を乗せると、いつかの光景が目に浮かんだ。窓を開けた下にはロイファーがいて、そこの木を登ったっけ……。そう思って下を見下ろした。
「……ロイファー!!」
「シー!」
口に人差し指を当てるロイファーに気付いて、思わず両手で口を押さえた。あの時と同じ様に、また木を登って窓の側まで来たロイファーは小さな星の灯りに照らされ、こちらの様子を伺っている。
「だいぶ泣きましたね?目が腫れて、」
「な、泣いてない!ちょっと……悔しかっただけ」
「悔しかったのですか?」
「だって、ロイファーは何も悪くないのに……どうしてマルメラーデ様にあそこまで言われなきゃいけないの!って」
「ははっ、ありがとうございますお嬢様。そのお気持ちだけで十分です」
「あっ、ちょっと待ってて!」
部屋の中に入って、小さなワッペンを取り出した。
「これ、ロイファーにあげる。私が刺繍したの、受け取ってくれる?」
「もちろんです、私で宜しいのですか?」
「うん、ロイファーに渡したくて……練習したの。格好いいものじゃなくてごめんね」
「とんでもない!大切に、大切にします。これはまた可愛らしいウサギですね」
そう、ワッペンは本来の私、ウサギのリコをモチーフにデザインした。もっと剣とかイニシャルとかあったんだろうけど……なんでだろう。
「このウサギ……以前出会ったことのあるウサギとよく似ています。確かお嬢様を助けた森で、見習い騎士になるずっと前に野犬に襲われたウサギの家族を助けました。懐かしいな……そういえば、お嬢様もこのワッペンのウサギと同じ髪色ですね」
あっ……。
やっぱり、あの時の顔はロイファーだったんだ……。ロイファーが私やお父さんを野犬から守ってくれたんだ……。お父さんはあの後、死んでしまったけど、確かに守られた。……ポロポロ涙が溢れた。嬉し涙?……ずっとお礼を言いたかった人が目の前にいるのに、私があの時のウサギだと告げられずお礼も言えない事の悔し涙?私はロイファーを見つめたまま涙を流した。
「お、お嬢様!?わ、私が何か、」
「いいえ、違うの……ごめんなさい、じゃなくて……貴方はいつも誰かを守ってるのね。私も守られた一人、ありがとうロイファー」
「お嬢様……。私は貴方様の護衛騎士ですから、いつでもどんな時でもお守りしますとも」
「とっても頼もしい。傍に、いてね?」
「……えぇ、もちろんです。お嬢様、お返しと言っては何ですが私からも受け取って頂けますか?」
そう言って差し出された小箱には、サファイヤのペンダントが入っていた。
「ロイファー、これは?」
「お誕生日プレゼントです」
「こんな素敵な物、本当に貰っていいの?」
「はい、お嬢様のために選びましたから。ぜひ受け取ってください」
ぎゅっと胸に抱きしめ「ずっと大切にする」と伝えた。
傍にいてねって、
……もちろんですって言ったのに、いつでもどんな時でも守るって言ったのに、翌朝ロイファーが屋敷からいなくなった。




