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25 ロイファーの決心

 お嬢様が部屋にこもってしばらくして、旦那様に呼ばれた。内容は言わずもがな……。


「ロイファー、頼む。正直に事の真相を教えてくれ、誰も責めない。最初に森へ行きたいとリコの願いを聞いてやれなかった私がいけないのだ」

 部屋の中には、奥様とクライゼル様も同席されていた。俺は隠さず全てを伝えた。

「お嬢様の仰る通り、部屋にいらっしゃらない事を心配しユリーと共に探しました。森へ向かったかもしれないと言う言葉を聞いて一人向かい、森で野犬に襲われそうなお嬢様を発見しお護りしたのです。不覚にも腕に傷を負った私の傷を心配したお嬢様の手から、突然光が現れました」

「なんと言う事だ……」

「すぐに報告するべきだと、頭では分かっていたのですが……身体が回復したばかりのお嬢様が動揺されるのを見て、落ち着いてからご報告しようかと。勝手な判断でした。申し訳ありません」

 頭を下げる俺をクライゼル様が起こし、労いの笑顔を見せた。それだけで少し救われる。

「僕もきっと同じ事をしたと思うよ、ロイファーの判断は僕には納得できる。まぁ父さんの苦悩も分かるよ。ただ、今回の件を王家が預かるにしてもロイファーの処遇まで持ち帰る事はないんじゃない?」

「そうよ、あなた……リコの命を救ってくれたロイファーが何かしらの咎めを受けなければならないなんて」

「私もそう思う、今は我が家の護衛騎士だ。本来なら我が家で対処すべき案件だろう。リコが関わっているからなのか、」



 ロイファーは告げねばならぬ事実を明かすしかないと悟った。もうお嬢様を護る事も出来ないかもしれない。それならば……


「いえ旦那様、そうではありません。私は、殿下の側近騎士になるために第一騎士団に見習いとして所属していた獣人なのです」

「ロイファー、君は獣人だったのか。……待て!人をこんなに長く維持できるほどの獣人で、アインツェルゲンガー家……いや、あそこは獣人族ではないだろう?」

「祖父は先代王弟でした。命の危険から病死という名の下に保護されたのです」

「狼族という事か?そんなことが……」

「隠していた事は獣人ということだけではありません。初めて演習会でお嬢様を見た時……私の番いだと気付きました」


「…………!」


「獣人は一眼で番いがわかります。そして番いに出会えた時、己の番いを護るべく力が強化されるのです。あの演習会で勝ち上がれたのも、森で野犬に一人で立ち向かうことができたのも、全て……全てお嬢様のおかげなのです」

 もう後戻りはできない。

「番い……、その事をリコは」

「本人には伝えていません。ここに護衛騎士として勤務する前に、マルメラーデ殿下から『護衛騎士の立場を忘れるなよ』と釘を刺されました。公になればここに居られないと、そう思い黙っていました。恐らく殿下は私の番いがお嬢様だと勘付いておられます。癒しの加護が発覚した事も踏まえ王家に嫁がせるには、私は邪魔ですから」


 …………。

 部屋に沈黙が流れた。マルメラーデは俺をお嬢様から離れさせたいはずだ。エーデルシュタイン家としても娘が王家に嫁ぐ事は大変な名誉であり、この先を考えても何不自由なく暮らしていけるだろう。俺の望みなどちっぽけだ、そう思っていたのに。


「ロイファー、時期が来たらお前がリコを迎えに来なさい」

「……旦那様!?」

「私は、リコの望む道を応援する。少なくとも、今リコは王家など、ましてやマルメラーデ殿下など何とも思っておらん。成人したリコがロイファーを望むのなら私はそっと背中を押してやるまでだ。狼族は強さ、気高さ、そして番いに対する誠実さ、それは我々人間にも広く知られている。父親としてはこれほど頼もしい嫁ぎ先はないよ」

「……お嬢様が振り向いてくだされば、の話ですね」

「この家の護衛騎士になる事を、強くなるお前を見たいと望んだのはリコだ。選ばれる自信がないのか?」

「それは、」

「私からの頼みだ。どうかリコを守ってやってほしい……あの子の持つ力も、あの子自身も」

「私からもお願いするわ、ロイファー」

「可愛い妹が望む殿方と結ばれるのが一番だ、だろ?もし君を望むのなら全力で応援するよ」


 獣人としての誇りは持っているが……自信がなかった。受け入れてもらう自信がなかったから、人の姿で騎士団に所属し生活してきた。でも、今初めて獣人として何かを求められた気がする。もしもチャンスを貰えるのなら!


 人差し指で宙に円を描けば、人の姿から狼の姿へ変化する。膝を折り、制服姿のまま服から伸びる手足も尻尾も顔も狼そのものだ。

「これが私の本来の姿です」

 奥様が傍へ寄り、そっとしゃがんで「とても素敵よロイファー、リコをお願いね」と微笑んだ。

「怖く……ありませんか?」

「全然、人の姿も獣人の姿も真っ直ぐな瞳は変わらないもの」

「奥様、ありがとうございます。今まで黙っていて申し訳ありませんでした」


 

 翌日早朝、城からの早馬で王家から手紙が届けられ、内容を確認した俺はそのまま屋敷を後にした。

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