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 もう一つの目的である手合わせは、城からの遣いにより延期となった。

「公爵殿、彼女の誕生パーティーのエスコートは当日私に任せてほしい。許可は取ってある」

「大きな規模にするつもりはございませんが宜しいですか?」

「あぁ、構わない。それと、カリオスト、ロイファー」

「はっ!」

「くれぐれも護衛である事を忘れるなよ、ロイファーは次の第一騎士団訓練日に私の部屋まで来てくれ」

「承知しました」

「では、失礼する」


 帰りの馬車で、大きく深呼吸した。

 茶花やお菓子に見惚れるアプリコーゼもなかなかの可愛さだが、本当に会うたびに美しさが増し、冷静さを装う難しさを痛感する。彼女がもう少し大きくなるまで、婚約の打診を控えようと思っていたが……これは考えた方が良さそうだ。それにしても、彼女はきっと私にあまり興味がない。アプローチを受けて鬱陶しく思ってきた自分が、今度はアプローチする側に回るとは、なかなかに手強いな。


「ロイファーに先を越される前に手を打ちたいが……」

 先ほどの茶会でも遠目から護衛の二人が見えた。私の牽制が効いてか側には付かなかったが、アプリコーゼを見るあの視線や時折見せる苦悶の顔は、私と同じ気持ちと言ったところだろう。そして、最大の懸念はあいつが獣人ということだ。獣人のあの態度は、間違いなく番いに対するものだ。演習会のあの強さも影響があったのだろう。だが、幼いとは言え公爵家の令嬢とただの見習い騎士が今すぐどうこうなる訳ではない。恐らく、ロイファー自身も同じ事を考えるはずだ。

 まずは、誕生パーティーで私のエスコート受ければ少なからず来賓の貴族に見せしめは出来る。あとは、好き勝手に噂が広がる。外堀から埋めるとは……いや、なりふり構っていられない。


 王城に着くと、すぐ父上の執務室に呼ばれた。

「待っていたよ、マルメラーデ」

「ただいま戻りました」

「今朝は、エーデルシュタイン家を訪問したんだろう?アプリコーゼ嬢に何か変わった事はなかったか?」

「……?いえ、特には」

「実は、令嬢に癒しの加護の兆候が見られると報告を受けた」

「そ、それはあの、女神に愛されし癒しの加護……ですか?ここ数百年は現れていないはずですよね」

「そうだ。あの癒しの力は、身体の怪我や穢れだけでなく心までも浄化する力を持つ。存在が明らかになれば、王家への嫁入りも確実だ。何せ、どの国も喉から手が出るほど欲しい特別な力だからな」

「どこからの情報ですか!?」

「それは言えん。しかし、兆候とは言えその力が発現すれば我が国の繁栄に繋がる事は間違いない。いいか、思いを寄せる令嬢にそのような可能性があるのならば確実に実を結ばねばならない」

「願ったり叶ったりですよ」


 自室に戻ったマルメラーデは、机に溜まった書類に目を通し始め仕事に取り掛かった。

「殿下、少しお休みになった方が……」

 側近のフェルゼが、紅茶を差し出した。

「フェルゼ、一つ頼まれてくれるか?


 静かに口をつけた紅茶を喉に流して、今後の計画を練り始めた。

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