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「今日の訪問の目的は二つだ。一つはアプリコーゼ嬢とこちらの庭園で茶会を、もう一つは、そちらの護衛騎士と手合わせをしに来た」

 サロン後方に控えるカリオスト様とロイファーは顔を見合わせ息を呑んだ。まさか訪問の目的が自分達にもあったとは想像もつかなかった上に、手合わせ以外の目論見を探ってしまう。

「左様でしたか。では、庭園での茶会に少々お時間を頂きますので、その間アプリコーゼと庭園を散策されてはいかがですかな」

「アプリコーゼ嬢の許しを頂けるならば」


(断れないって分かってるくせに……)


「え、えぇ喜んで」

「それは良かった。それと、そちらの護衛は必要ない。私付きの者だけで充分だろう」

「……!」

 思わず二人を見るために振り返ってしまった。こういう時は感情を表に出さず凛としていなければいけない。でも、必要ないという言葉選びが引っ掛かった。


 差し出された手を数秒置いてから取った。今日は、私一人じゃないから動物たちも寄って来ない。空をジュニスが飛んでいるけど、やっぱり降りて来ない。

「いつもここを散歩しているそうだね」

「はい……朝の日課なのです。食後からすぐお勉強の時間になりますから」

「聞き及んでいる。相当努力家らしいな、ここに来る教師とは顔見知りでね、話を聞いたよ。飲み込みが早く、頭の回転も良い。物事を様々な視点から見れる者は貴重だ。君の学園入学が今から楽しみだよ」

「学園の入学が何か関係あるのですか?」

「成績上位に入れば生徒会や、参加出来る行事、王家からの視察も入る。将来有望な人材を確保できるかどうかで国の命運も変わるからね」

「そ、そうですか」

「あまり楽しい会話ではないかな?」

「い、いえ、そのような事はございません。高望みだな……と思ったものですから」

「自分では見えない部分だな。それにしても」


 向き合う様に並んだ殿下は膝をついて私と目線と合わせた。

「今日も一段と可憐だな。少し見ない間にこんなにも成長してしまうものなんだね。そばで見れるロイファー達が羨ましいよ」

「も、勿体無いお言葉です、マルメラーデ様……」


 ユリーの姿が見え準備ができた事を知らせてくれた。準備されたテーブルには花が飾られ、美味しそうなお菓子が並べられている。色とりどりの可愛らしい花はリボンで包まれたまま花瓶に生けてある。

「花もお茶もお菓子も全て私が選んで持参したんだ。気に入ってもらえると嬉しい」

「お花もお菓子も……?」

「どんな土産なら喜んでもらえるかと思案したんだ。城で美味しそうにお菓子を食べる姿が印象的だったから、今日はシェフの得意なものを多く持参したし、花は君の部屋に飾って欲しいと装飾した。気に入ってもらえたかい?」

「はい!こんなに素敵なお土産ありがとうございます」

 会っても嬉しくないって言ったのは本当だけど、こうして私の事を考えて用意してもらった気持ちはとても嬉しい。大好きなお菓子もとても美味しそう。お礼と共に笑顔を見せれば、マルメラーデ様のお顔も満足げに微笑んでいる。席に着くと、目の前に置かれた透明のポットに目を奪われた。


「お花が……お花が咲いてます!」

「あははは、良い反応だ。それが見れただけで満足だよ、これは他国のお茶で茶花と言うんだ。蕾に湯をかけると花が咲く様に開くんだ」

「うわぁ〜なんて綺麗……」

 まじまじ見つめ、色も香りも十分なところで自ら注いでくれた。少しの砂糖を足して、フワッと優しい花の香りに甘味が口いっぱいに広がって心地良い幸せに浸る。


(これは……!クセになりそう)


 用意されたお菓子も取り分けてもらい、美味しさに舌鼓していると視線を感じ正面を向いた。

「大人っぽさがあるとは言え、まだ子どもだな」

 アプリコーゼの口横についたクリームを拭い目を細めた。

「こんな君をずっと見ていたい。可愛い君にもう一つ贈り物をしても良いかな?」

 目線で誰かに合図すると割と大きめの箱が運ばれてきた。開けてほしいと促されリボンを解くと、美しい装飾が施されたドレスと靴が入っていた。

「あ、あの……これは?」

「君の誕生パーティーでぜひ身につけ、私にエスコートをさせてほしい」

「え、あの……子どもの私が言うのも何ですが、たかが誕生パーティーにエスコートなど必要なのですか?」

 結構冷静な自分と、少しパニックの自分が脳内で走り回る。大きなパーティーではないのに。


「誰かが君の手を取って入場するくらいなら、その役は私が買おう。アプリコーゼ、私は君に夢中なんだ」


(ぜひお願いします……とは言えない)


「……美しいドレスやテーブルに並べられた、それらのお礼と言うことでも良いですか?」

 

 ……きっと本当は違う。

 殿下が望む様な答えは別にあって、好意を受け取って欲しかったはず。さすがの私でも分かる。でも、私はまだ知らない。好きとか愛おしいとか、そういう感情を知らないから応え方も分からない。

「今はそれで十分だ。当日を楽しみにしてるよ、アプリコーゼ」

「はい……よろしくお願いします、マルメラーデ様」

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