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その後、医者っていう年配の女性が来て身体をチェックしたり「これが分かる?」とか「アレは覚えてる?」と色々聞かれて部屋を出て行った。ユリーが持ってきてくれた服に着替え、部屋を見渡す。「立ち上がれますか?」と尋ねられ、ベッドの下を見つめた。脚も長い!!床に付けて立ち上がろうとするが、ガクンっと崩れ落ちてしまった。
「おっと!」
身体が床に着く前に宙ぶらりん状態になった所で、誰かに支えられてることに気付き顔を上げた。
(か、髪の毛が邪魔で何も見えない……。苦しいから早く下ろして!)
「クライゼル様!そろそろお嬢様を下ろして差し上げてくださいませ」
「随分軽いね……」
ソファーにゆっくり下されて、髪の毛をかき分け“お兄様”を見上げた。「あ、あ……り……、」ありがとうと伝えたいのに上手く声が出せない。しかも、なにこの脚…細長くて力の入れ方が分からない!!記憶があっても身体が動かなきゃ意味ないじゃん……。
「リコが本当に目覚めているなんて……!しばらく寝たきりだったから脚も筋肉が落ちて動かしにくいだろうし、声も出しずらいだろう。まずはゆっくり身体を慣らそうね」
コクンと頷いて、まじまじと見つめると「そんなに見つめたら部屋から出にくいよ」そう呟いて頭を優しく撫でてくれた。
(懐かしいな……お母さんよく頭撫でてくれたな……)
そんな事を考えていたらポロっと涙が溢れた。「リコ……。今、温かい飲み物を用意するね」と二人が部屋を出た。一人になった部屋で涙を拭って、先ほどよろけてしまった自分の脚を動かしてみた。膝を曲げてみたり、足指をギュッとしてみたり……せーの!
(立った!立てた!でも……なかなか一歩が踏み出せない)
立ってどこに行きたいかって、鏡に行きたいのよ!自分の顔も知らないなんてマズイじゃない?でも目の前にある鏡が遠い。あっ、そっか!歩けないなら飛べば良いんだわ、手も脚も床に付けて、つい半日前まで走り回ってたあの格好で行けば良いんじゃないとピョコピョコうさぎ跳びで鏡の前に辿り着くと、もう一度脚に力を入れて立ち上がった。
(……これが私!?)
病み上がりで血色も良くないし痩せてるけど、柔らかいリンクスカラーのふわふわした髪に、優しいダークブラウンの瞳をした女の子がいた。すごい……髪の色と瞳の色、ウサギのリコだった私と同じだ。ウサギの私が人間になると、こうなるってこと?それにしても、私は何歳だろう?病気で寝たきりだったせいか年齢が曖昧だ。そこへ、タオルを濡らしたユリーが帰ってきた。
「お嬢様、少し動けたんですね!良かったらこちらのタオルで目を冷やしてくださいね」
鏡の前にある椅子に座り、受け取ったタオルはひんやりしてとっても気持ちいい。人間になって初めて口にした飲み物は、フワッと花の香りがする茶色の飲み物。紅茶って言うんだ。……しまった……そういえば動けると思われてしまった!跳んだなんて言えない……と、この後の展開に悩む羽目になってしまった。