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「ジュニス!前に言ってた騎士様が今日から来てるから、あとで森へ行く相談をしてみるの」
『許可が降りたら良いね!』
「うん、ここに来てるみんなの事も紹介したいんだけど……動物達とお喋りできる人って少ないんですって。お喋りできる事、内緒にしてってこないだお父様にも言われちゃった」
『確かにリコ以外話してるの見た事ないかも!あっ、あれがリコが言ってた騎士?』
羽の指す方向には少し離れた位置からこちらを見てる二人を見つけた。
「そうよ、左がカリオスト様、右がロイファー様」
『…………。』
「ジュニス?」
『……、右の方はちょっと特殊だね。まぁでもリコを守るって意味では適任かもしれない』
「ジュニスには何が見えてるの?特殊って……」
歩いてくる二人の騎士様が見えてジュニスが飛び去ってしまった。他の動物たちは警戒しつつ、私の傍から離れず寄り添ってくれてる。お話し出来なくはないけど、ジュニスみたいな会話量はあんまりない。
「アプリコーゼ様は、動物がお好きなんですね」
「カリオスト様は苦手ですか?私は大好きですよ、お庭を散歩してると集まってきてくれるんです」
「私も好きですが、この様に囲まれたことはありませんので少しばかり緊張しています」
ふふっと微笑んで、膝の上で気持ちよさそうに眠るリスをそっと撫でた。
「私、森へ行きたいのです。まだお父様には相談できていませんが……騎士様が付いてくださるなら可能ですか?」
「森……というと、ライゼの森ですか?」
「はい、動植物の図鑑で見たものを実際見にいきたいのです。ですが距離もありますし、私だけで行くことは出来ませんから……きっと騎士様が一緒なら大丈夫と思いまして」
「もし旦那様の許可が下りましたら、ぜひ参りましょう。そのための我々ですから、な、ロイファー」
「え、えぇ。私もあの森はよく足を運んだことがありますので、案内も出来ると思います」
「それは嬉しい!では夕食の席で聞いてきますね」
でも、結果は意外にも希望通りにはならなかった。
「お父様、なぜですか?騎士様だって傍にいてくれるじゃない」
「リコ、もう少し体調や騎士たちの様子を見てからでも遅くはないだろう?焦らずとも、いつか行けるよ」
俯いて「はい」と言うしかなかった。せっかくお母さんに会えると思って一生懸命調べたのに……。
そして、私は家を抜け出した。
納得出来なくて、誰にも言わずに森へ向かう準備をして翌日ジュニスに案内をお願いした。もちろん止められたけど……行くと決めた気持ちは簡単には変えられない。すぐ戻れば大丈夫、と。
『本当に大丈夫?』
「お母さん達に会ったらすぐ帰るから心配しないで」
ジュニスに付いて歩いてから30分程歩くと、街外れから少し先に森が見える。もう少し距離がある……でも諦めない。確かに一歩ずつ前に進み森の入り口へ着くと、ジュニスが肩に乗って真剣な瞳で伝えた。
『木に印を付けながら進むから危険だと思ったら必ず走ってこの森を抜けるの、約束して!』
「わかった」
持って来た短いロープを何箇所かの木に括り付けながら進み、見覚えのある大木に辿り着くと足早にドアへ駆け寄った。
間違いない……私の家だ。
ドアは小さく、とてもじゃないけど今の私では入れない。大木の下に作られた小さなドアをそっとノックする。「はーい」懐かしい声が向こう側から聞こえると涙を堪えられず、出てきたお母さんの不審な顔も見れず号泣して座り込んだ。
「あの……」
「……お母さん……ただいま、」
「……リコ、リコなの!?」
うん、と頷いて返事すると小さな前足で座り込んだ私の手を取り「会いたかったわ」涙をこぼした。しばらく泣いた後、落ち着いて今までの事をやっとの思いで伝える。神様に会った事、人間になって体験した事、会いたくてここまで一人で来た事。でも……お母さんの反応は意外なものだった。
「リコ、今すぐ帰りなさい。貴方に会えて本当に本当に嬉しいわ、でも誰かを悲しませるような事は決してしてはダメよ……。貴方を失った私の悲しみのように、誰かが今のリコを失う辛さを考えなきゃ」
「……ごめんなさい」
「こんなに素敵な女の子、私は絶対忘れないわ!遠くからでも貴方だって分かるから……今度は一人じゃなくて信頼できる誰かと森へいらっしゃい。いつでも待ってるから」
「うん。お母さんが元気に過ごしてるって知れただけで来た甲斐があった。心配かけてごめんなさい、また必ず来るからね!」
「えぇ、気をつけて!ジュニスに付いてすぐ森を出るのよ」
見送るお母さんに手を振って、ほんの一瞬の再会が終了し、付けてきた目印に沿ってジュニスと元の道を辿った。
でも、見つかってしまった……野犬に。




