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『リコー!久しぶりー!』
朝からジュニスが部屋を訪れ目覚めのいい朝になった。ウサギは基本的に群れで行動する。生まれた時からお父さん、お母さん、それに少し経って弟妹が生まれにぎやかだったし、人間のリコになってからも自分の部屋以外に一人だった事はない。だからあの日、初めて一人になってとても怖かった……。
◇◇◇◇
「公爵が手続きする間だけ、ティータイムの席を設けたよ。どうぞこちらへ」
案内されたのは、王城の温室で見たこともない花が咲き誇っている場所。気になった花の傍へ近付くと
「この花はダリアだよ、大きな見事な花を咲かすんだ。気に入った?」
……と、教えてくれるのは嬉しいけど正直帰りたい。身内がいない不安がこんなに大きいなんて知らなかった。
「あ、あの王太子殿下、私……」
「アプリコーゼ嬢、私はもっと貴方を知りたい。貴方からはとても不思議な雰囲気を感じるんだ。その可憐さ、まさか……獣人?」
「えっ?獣人?」
「高位の獣人は人型にも獣人にもなれる、貴方もそうなのかなと」
「い……いえ、私は人間です」
「そうか、それは良かった。獣人ならば番いしか娶れないからね」
「あの……」
そこへ紅茶とお菓子が運ばれテーブルの彩りに目を奪われた。お、美味しそう……
「さぁ召し上がれ、うちのシェフが作る物はどれも絶品なんだ」
「あ……、いただきます」
口に運んだクッキーやチョコレートの美味しさに思わず顔を綻ばせて「美味しい……」と声に出してしまった。
「も、申し訳ありません!自宅、っ自宅と同じようにしてしまって」
慌てて紅茶を含み深呼吸して殿下をそっと見上げる。
「こんな美味しそうに食べてくれるんだな、とても可愛らしいよ。シェフも喜ぶ。ところで、その『殿下』は堅苦しいからお菓子を食べてリラックス出来たなら私にも少し心を許してほしいんだ。貴方さえ良ければマルメラーデと」
「……マルメラーデ殿下?」
「いや、敬称は必要ないよ」
「マルメラーデ様……?」
「あぁ、それでいい。私もアプリコーゼと呼んでも?」
頷いて、そっと美味しかったチョコレートに手を伸ばした。やっぱり美味しい。顔がクシャッとすれば美味しさを物語る。そろそろお父様戻ってくるかしら、お菓子は美味しいけどやっぱり一人はあんまり居心地が良くないな。
「もうすぐ公爵も来るからそんなに警戒しないで。少しだけ私の自己紹介をしても良いかな?」
「はい、私も聞きたいです」
「私は、このカトレア王国の第一王子で王太子の地位にいるんだ。学園を卒業したばかりで、まだ執務は慣れないけど側近のフェルゼと共に仕事をしている。フェルゼ、ロイファー、サイアスは皆幼い頃から一緒で共に学園で生徒会を務めた同志なんだ。気の利く者ばかりだから、何か分からない事があれば聞くといい」
温室の隅に控える方の方を見ると頭を下げられた。
「あれが、フェルゼだよ。ちなみに私はまだ婚約者を選んでいない。王族だからと政略的な結婚ではなく、自分で見て自分で選びたいと思っていたが……アプリコーゼ、君のことが今とても気になる。出来れば君のことも教えて欲しい」
「わ、私は普通の、」
コンコン!
ノックの音を侍女の方が確認しお父様が戻ってきた。
「お父様!!」思わず駆け寄り抱きつくと優しく私を抱えて「殿下、ありがとうございました」「こちらこそ、話の続きは次の楽しみに取っておくよ」と挨拶を交わし部屋を後にした。
◇◇◇◇
『……コ、リコ!!』
ハッと我に返り、思い出から抜け出すとジュニスの不安な顔が視界いっぱいに広がっている。「ごめん、大丈夫」ジュニスを優しく撫でて今まであった出来事を少しずつ話した。お城へ行ったこと、戦う騎士様を見たこと、その中に気になる騎士様がいたこと、王太子殿下とお茶をしたこと。
『リコ、人間って…‥大変なのね。大丈夫?戻りたいとか思わないの?』
「あはは……戻り、たいよ。今でも思う、私はやっぱりウサギのリコの方が合ってるもん」
『リコ……』
「でもね、人間になって知ったこと無駄じゃないって思ってるの。もっと知りたい、もっと学びたいって思いもある!それに、戻れないって分かってるから、割り切るしかないんだよ」
そうだよ、もう元に戻れないってちゃんと分かってる。お勉強もとても楽しいし、たくさん褒めてくれる。それに……やっぱりあの騎士様が気になる。あの表情にどんな意味があるのか知りたい。なんか見覚えがあるような、あるから見ちゃうのかな?
『リコが幸せならそれでいいんだよ、君のお母さんもそう言ってたもん!機会があれば森に会いにきてねって言ってたよ』
「行きたい!お母さんに会いたい!でも……今は一人じゃ行け……あっ、護衛の騎士様がいれば行けるかもしれない!」
『護衛?騎士?』
「そう、私を守ってくれる騎士様がもうすぐ来るの」
『……なんだかリコが雲の上の人に見えてきたわ……』
そうだよ、身体だって結構力ついてきたし、お勉強だって頑張ってるんだからお願いしたら行けるかもしれない!騎士様が来たらお願いしてみよう。それから毎日勉強の合間に図書室で地図と睨めっこしたり、自分なりに言い訳を考えて計画を立て始めた。お庭に出ればたくさんの動物たちと触れ合ってお話ししているし、そんな様子を屋敷の人たちも知っているから『もっと動物や植物図鑑に載る植物の観察に行きたい』って言えば大丈夫なはず!




