13 ロイファー②
翌日、約束の時間にマルメラーデと合流してから演習場へ向かった。さすが、逞しい騎士ばかり数十名が競い合って熱気を帯びていた。事前に組み合わせ表が掲示されており、次々と鍛錬の成果を披露していたが…鼻を刺激する甘い香りに「ゔっ」と口を押さえた。香りのする方向に目線を上げ、見えたのはベンチに座る少女だった。目の前の少女から目が離せず……胸を “ドクンっ” と大きな鼓動が走り、高まる鼓動に思わず膝をついてしまった。
「おい、ロイファー大丈夫か!?」
見兼ねた団長が駆け寄り様子を伺うが、団長が思いもよらない台詞を口にした。
「彼女がお前の番いだったのか……」
「つ、番い……それじゃ、この胸の高鳴りも香りも……」
「そうだ、獣人特有のそれだ。お前の場合、人型でしか人前に出ていないから周りは体調不良としか思わないだろう」
「はぁ、ゔ……」
「少し時間を置けば落ち着く。ここだと落ち着くまでに時間が掛かるから一旦医務室へ行こう」
医務室に連れられて水を口にすると呼吸が楽になった。もしあの場に団長がいなかったらと思うと冷や汗が出る。
「団長、ありがとうございました」
「落ち着いてきたな。俺も今まで獣人騎士を何人も見てきたから把握してるだけさ、それにしても結構強烈そうだったな」
「……甘い香りが彼女の方向から。初めての衝撃でした。彼女が何者かご存知ですか?」
「あぁ、彼女はエーデルシュタイ公爵家の令嬢でアプリコーゼ様だ。幼少から病に伏され表に出てきていなかったが、今はほぼ回復されているらしい。ちなみに……今のお前にこんな話をするのは憚られるが、公爵殿と陛下は旧知の中でね。今日は護衛騎士の選抜に見えたそうだが、マルメラーデ殿下との顔合わせも兼ねているそうだ」
「なっ……!」
「あれだけの美貌の持ち主だ、ましてや番いの習性を持たない人間だ。どう転ぶか分からないぞ」
つい昨日まで、番いなんかより鍛錬だと第一騎士団しか見ていなかったのに、今、目の前に現れた番い……彼女を思うだけで胸が張り裂けそうになる。「一体どうしたら……」正解のない問いに表情が曇る。
「よく考えろ、彼女が探しに来てるのは自分の傍に常に置く護衛騎士だ。第一騎士団と護衛騎士は兼任できない……運命の分かれ道だな」
運命の分かれ道。
そういえば父がよく口にしてたっけ……「自分の道は自分で切り開け」と。
一つの欲が脳裏をよぎる。この願いが届くかどうか……受け入れられなかった時は諦めよう。そう決意して、まずは団長に相談した。そして、いざ演習会場へ戻ると人だかりの先にマルメラーデと彼女の姿が見えた。狼の耳の良さは群を抜いているが故、傍に行かずとも会話が聞こえる。
どうやら彼女の護衛になるには勝ち進まなければならないようだ。すぐ副士団長の元へ赴き参加の意向を伝え準備するが、どうしてもこの香りと彼女の存在が気になり目で追ってしまう。
(あっ……彼女もこっちを見ている?)
目が合いぶつかる視線は先ほどまでのように鼓動を動かし胸を押さえつけた。収まれ……収まれ……自分に言い聞かせて対戦を勝ち進むが、嫌でも拾ってしまう彼女の会話に『アプリコーゼ嬢、もし貴方の許しを頂けるならぜひ私のティータイムに付き合ってくれないか?』マルメラーデからの誘いが聞こえた。込み上げるもどかしさが怒りとなって相手の剣を凪飛ばし、私と先輩騎士のカリオストが選ばれた。彼女の目の前へ向かい、収まらない鼓動を仕方なく携え跪いた。
「掛け持ちさせては頂けませんでしょうか?」
彼女を守るためにもっと強くなりたい、そのためには最も強い場所での鍛錬が必要だった。見習いとしてこのまま第一騎士団に所属することも、彼女の護衛も両立させてみせる……それが自分の切り開き道の第一歩だと思ったから。そして、彼女から得られた
『掛け持ちを許可します、ロイファー様……私は強くなる貴方をもっと見たいです』
この言葉が私の何かを変えた気がした。でも、喜んだのも束の間……マルメラーデの私に向ける目は今までとどこか違う……。




