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 もし俺がお嬢様の隣に立てていたら……。

 胸の苦しみを抑えて気丈に振る舞い、後方からお嬢様を守る。わかっている、わかっているのに……可愛くも美しく着飾った俺の番いは、違う男の隣で笑っている。あの甘い香りを感じ取れるのが自分だけなのか、それともマルメラーデも……。本当は今すぐにでもお嬢様をこの腕に抱えたいのに。拳を握りしめる力が強くなる。



 落ちた先に待っていたのは、神様だった。


 

「すまない!私のミスで行き先を間違えてしまったんだ……今からでも遅くはない、どうか、」

「……、えっ、なに?ここ、どこ?間違えたって何!?」


 私、確か森の中で仲間と過ごしてたはず。木の実を抱えて、お母さんと弟妹のためにお家に帰ろうと思ってたのに途中で大きな穴に落ちて……。大きな穴に落ちて、私死んじゃったの……?

「ひぃ!!なにこれ!私の手と足じゃない!」

「君はね、元々人間の予定だったんだよ~間違えてウサギになっちゃって」

「私、ウサギのリコのままで良い!お母さん達のもとに返して!人間なんて私を追いかけ回して好き勝手して……そんなのになんてなりたくないもの!」

「そこを何とか……!君はリコという名前だったのか、君が元の道に戻ってくれないと彼の運命が変わってしまうんだよ」

「なにそれ……彼って誰よ!私の運命だって変わってるじゃない……お母さん達を守れるのは私だけなの。私が守ってたのに、」

「そこは心配しなくていい、君のお母さんや子ども達には少しだけ私から守りの加護を与えよう。だからこの通りだ……君にも私から神的な加護をあげよう」

「加護?……加護って何?」

「特別な力とでも言っておこう。今は色々詰め込みすぎても良くないだろうから落ち着いたら説明しに行ってあげるよ。今から君は公爵令嬢として目覚めるんだ」

「分かんない単語ばっかり……」

「目が覚めれば、記憶が融合するから大丈夫!」

「待って!ちょっと待って……」


“訳わかんない……何なのよ……記憶が融合って……誰と!?”


「もう、どうしようもないの……?」

「本当にすまない、君の未来を変えてしまったことは心から謝る。これからの未来は私が必ず導いて、」

「それは嫌。未来は私が決める。誰かに決められるなんてもう懲り懲り。……受け入れて……あげるからお母さんと弟妹たちだけは守って……。私の願いはそれだけよ……」

「約束しよう」

「っていうか、貴方の名前聞いてないんですけど!」

「人々は私のことをカイロスと呼ぶ」

「カイロス……様……」

「いいか覚えておけ、其方を守る加護があることを、そして待ち人がいることを」


 パチンっ!


 指笛と共に目の前が真っ暗になり、フっと意識が途切れた。ゆっくり目を開けると見たこともない天井が広がる。

「お嬢様!!!!すぐに旦那様と奥様に知らせて!」

「はいっ!」


 声のする方を見ると、ぼんやりと視界が霞んでいる。割と頭の中はハッキリしてるから、さっきの神様とのやりとりも覚えてる。それにしても……身体が思うように動かない!布団から長い腕を出して曲げたり伸ばしたりしてみる。


“人間って、手も指もこんなに長い”


「アプリコーゼ!!」

 顔を見れば瞬時に誰か分かる。記憶があるのは有り難い。以前はお母さんしかいなかったけど、この子にはお父さんがいるんだ。

「良かった……!もう大丈夫、意識が戻ったのだから必ず回復するはずだ。すぐ医者が来るからね」

「リコ……、お母さんよ、分かる?」

コクンと頷いて微笑んだ。

 記憶が正しければ、この身体の持ち主は病気だったはず……、しかも割と見込みのない様子で薬を飲んだまま目が覚めていなかった。さっき私を「お嬢様」と叫んで涙目になってたのは、侍女のユリー。とっても可愛らしい女の子だけど、所詮ここにいるのは皆人間……。

 

 でも……私はここでも“リコ”なんだ。

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