君と僕
近くにある村は、俺達がいたアルナタ王国よりずっと小さく寂れていた。いわゆる田舎みたいだ。
村の入り口には、案内役らしき女性が立っていて、他にも何人かの村人が意味もなく歩いている。
何軒かの住居と商店が見える。どことなく、田舎の爺ちゃん家を思い出せる。俺は、親戚の集まりが嫌いだ。人見知りだし、特に接点もないよく知らないジジババの顔色を伺わなければいけないから。同じ年頃の子もいるんだけど、俺とは違ってしっかりしているので、引いてしまう。
アヤちゃんは、この村に何度も来ているらしい。通りすがる人に、一々話し掛けられている。
「ありゃ、お姫様。今日は彼氏と一緒かい?盛んだねえ。」
「やだーっ!オジサン、セクハラで独房に閉じこめますよー。」
「こりゃ参ったな!ははは!」
アヤちゃんは、本当に馴染んでいた。よく来るのだろうか?俺は、ただアヤちゃんと村人が話しているのを見ているだけだった。
どこかで見たような光景だ。仮想の世界でも俺はこうなのかな?なんだか、気分が落ちてきた。
町を出る時は、とても希望に満ち溢れていて、気分も良かったのに。
俺は―――
期待するのを止めた。
アヤちゃんは、一通り挨拶し終えると、一軒の家を訪ねた。
「ここはね、村長さんの家なの。物知りでね、なんかアドバイスしてくれると思うの。」
「へえー、そうなんだ。」
また、アヤちゃんと誰かの会話を聞かなければならないのか。しかも、さっきは立ち話だったからすぐ終わったけど、今回は家だから長そうだし。
苦痛だ。苦痛。
「お邪魔しまーす。」
アヤちゃんは、俺の気持ちなどお構いなしにドアを開け、入っていく。
続けて俺も入る。
「なんだ!アヤちゃんじゃないか!」
村長という立場のせいもあるのか、村長さんはお姫様とは呼んでいなかった。
「村長さん、聞いてー――」
アヤちゃんは、手短に今までの経緯を話す。相変わらずの饒舌。話しが分かりやすい。
本当に楽しく、仲良そうに話すアヤちゃんを見て、俺はまたしても劣等感を感じた。俺は、こんな風に上手く喋る事ができない。いつも、話しの途中で分かりにくくなる。
友達に、どういうこと?と言われる事も、しょっちゅうだ。
村長さんは、時折面白くもないギャグをはさんでくる。アヤちゃんは、それも上手く笑ってかわす。と、思ったけど、アヤちゃんは苦笑いをしていた。会話の途中に興味なさそうな顔をする時もあった。
驚いた。世渡りが上手い奴は、完璧に演じきるものなんだけど、アヤちゃんは違うらしかった。
その、時折見せる表情は誰かに似ていた。気がした。