闘い
こうして、俺達は町を出て旅立った。
俺達は勇者御一行だ。それは勇ましく勇敢で高尚であるべきなのだ。
俺は、現実世界の辛い思い出を忘れるかの如く、気持ちをリフレッシュさせ、気合いを入れる。
隣には、アヤちゃんという可愛らしい女の子までいる。
充実している。俺はこれからはじまるんだ。自分に言い聞かせる。
だが、しかし……
俺達は立ちすくんでいた。何故ならば、どこへ行けばいいのか分からなかったからだ。
魔王の居場所は分からないらしい。というより、みんな魔王を見たことがないらしい。
そもそも、魔王は存在するのか?いや、するのだ。アヤちゃんの父親である王様が、殺されたのだから。
「どこへ行けばいいんだい?」アヤちゃんに聞いてみる
「知らなーい」
「………」なんだそりゃ。
「ま、まあ!でもとりあえず近くに村があるから、そこ行こ!」
アヤちゃんは、俺が怒っているのかと思ったのか、慌てて言い直す。「そっか、じゃあ早く行こ!」
「うんっ!」
俺達は、近くの村を目指して歩き出す。
景色は、RPGでお馴染みのだだっ広い草原だ。さらに、ご丁寧に村までの道を舗装してくれてる。助かるなあ。
近くの村までは、歩いて15分くらいらしい。
なんだか、散歩みたいだな。悪くないけど。
アヤちゃんは、さり気なく俺の手を握ってくる。もちろん、俺も握り返す。
普通だろ?あぁ、普通さ。
しばらく歩いていると、向こうから獣が走ってくる。
思わず立ちすくんでいると、獣は俺達の3メートル手前あたりで止まる。獣は、みた感じ狼にしか見えない。
「魔物よっ!第一種戦闘配置!」
勢いよく大きな声を張り上げ、俺の後ろに隠れるアヤちゃん。
「ちょ、おま!」
「いいっ!?あたしは魔法使い兼僧侶なの!だから、あなたは前衛で物理攻撃担当なの!」
「はあ」
なるほど、確かに女の子を傷つける訳にはいかないよね。うん、俺が守ってあげなきゃ。
俺は、先ほど貰った包丁を構える。
「カップルか。ムカムカするぜ。」
「!!!」喋った!
魔物のが喋った。魔物って喋るんだっけ?どうだったけ?
「魔物も人間の言葉を理解できるよ、煽りもちょちょいのちょいなんだから。」
なるほど。俺のブログを荒らしたのも、魔物の仕業か。違うか。
「俺様はカップルが大嫌いなんだ!シネ!」
狼みたいな魔物が、飛びかかってくる。
鋭く伸ばされた前足の爪。あれで、引っ掻かれたら痛そうだ。
俺は、こういう時こそ冷静になるべきと、そっと目を閉じた。
そして、念じた。俺は助かる。ここでは、死なない。勝つのは俺だ。
俺は、包丁を握り直し、パッと目を開く。
おかしい。
先ほどまで目の前にいた魔物はいなくなり、なにやら黒い塊が、焦げ臭い臭いを発してあるだけだ。
状況から判断すると、狼のような魔物は、丸焦げになっていたらしかった。
「なんてことだ…。やり過ぎたか。」
目を瞑っている間に、もう一人の俺が、倒してしまったのだろう。
「ありがとう、もう一人の俺。また次も――」
ボカっ。
後頭部に痛みが走る。
振り向くと、半ば呆れたような顔をしたアヤちゃんがいた。
「あなたねぇ、なにをぼーっと突っ立ってんの?あたしがいなかったら、あなた死んでたよ!」
やはり、そうか。魔物が、丸焦げになったのは、もう一人の俺が倒したのでなければ、プラズマの仕業でもない。
アヤちゃんのファイヤーの魔法のおかげだったのだ。
「申し訳ない…」
「ちょっと、もうーしっかりしてよーっ!」
アヤちゃんの顔に少しだけ笑みが浮かぶ。
ああ、アヤ。