現実
俺は、状況を理解するのに時間がかかった。当たり前だ。突然、異世界へワープなんて信じられるわけがない。
この世界は、2つの生き物がいる。人間と魔物。
昔、魔物は容姿が醜いと理由で人間に迫害されていたらしい。その差別に納得いかない魔物たちは、人間の街を襲い、多くの人間を殺した。もちろん、人間もやり返す。
魔物を見つけたら手当たり次第に殺す。懸賞金まで出す始末。そんなこんなで続いた戦いも、一度は終わったみたいなんだが、最近また再開したとのこと。そこで、より強い人材を求めて、勇者召喚装置を開発したらしい。で、何故か俺がこんなとこにくる羽目になった。信じられない。
だが、これが現実。受け入れないといけない。俺が、最も苦手なことだけど。
「早速だけどお手並み拝見といこうかしら」
姫と呼ばれる彼女は、おもむろに包丁を取り出し、俺に手渡す。
まさか、これが、武器なのか?
やけに現実的だな。剣とかだろ普通。なんて、考えていると、奥の部屋からスライムが飛び出てきた。
そう。あのスライム。ドラクエでお馴染みの。フラスコのような形をして、身体は青く、表情は笑っている。
だけど、スライムはその表情とは裏腹に、「ぁぎやよやあいあっっ!!!」と怒り狂ったような声を出し、俺に襲いかかってきた。
「うぉっ!?」
思わず包丁を前に出す。グチャリ。
不快な音がして、スライムは自ら包丁に突き刺さる形になった。
スライムは、アイスが溶ける時のようにドロドロに溶けていった。
俺は…
何もリアルを感じなかった。これが、生き物を殺すことだとも思わなかった。ただ、ゲームをしている気分。仮想空間。何の感情も嘘。喜びも何もない。
ゲームの中の主人公がいくら攻撃を受けても、現実の俺は痛くない。いくら攻撃をしても罪悪感を感じることもない。
だから、この世界では傷つかない。全ての感情は、もう一人の自分なのだ。本当の自分が傷つくことはない。
この世界でなら、俺は無敵な気がした。