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わけあって私とあーちゃんは転生をすることになったわけですが、どういう国に来たのかというと何とも説明がしにくい世界でした。ジュエリースト国と言って宝石にちなんだ名前の人が多い国ということがわかりました。記憶を持ったまま生まれた私はこっちの世界でお世話になる両親に不思議に思われないように必死に子供らしく生活しました。
転生先での私の名前はイアナ・ガーネットです。元の名前がいちごだったこともあって私だけなぜか髪色がピンク色に近い色をしています。お父さんは濃い赤、お母さんは金髪ということも関係しているかもしれません。お母さんは元々育ちがいい所に住んでいたのにお父さんと恋をして半ば駆け落ちみたいな形で家を出たと言っていました。どこの世界にも恋愛を取るということもあるんですね。
私の家はジュエリースト国の南のはずれにある小さな飲み屋さんです。ご飯も食べれて結構街の人には人気があります。私も10歳を超えた辺りから一緒にお店に出てお手伝いをするようになりました。その生活をしてもう4年が経ちこっちに来てもう14年の月日が経とうとしていました。
「イアナー、暇ならと野菜買って来てくれない?」
「何がいるの?」
「紙に書くわ。ちょっと待って」
『イアナちゃん戻ってきたら何か歌ってよ』
「歌?」
『こないだ歌ってただろ?また聞きてえんだよね』
『そうそう。澄んだ声で良い声だったよ』
「お遣い終わったらね!」
お母さんに持たされた紙を持って買い物へ行きました。こっちの世界も野菜は野菜のままです。日本と同じだから助かりました。さすがにお金は円ではなくカラットになるみたいです。さすが宝石に関係する国だと思いました。未だにお金の価値は難しく覚えられていませんがお店の方が親切にやってくださいます。
『イアナちゃんいつも偉いね。お遣いかい?』
「はい。これ欲しい物です。ありますか?」
『ちょっと待ってな。今日もたくさんあるね。一人で持てるかい?』
「大丈夫です!」
『女の子が無理しちゃダメだよ。息子呼ぶから待ってな』
「今日剣術の練習行ってませんか?」
『さっき帰ってきたと思う。おーい、トール!出て来な』
お野菜を売っているお店屋と私の家はすぐ近くにあり、トール・ジェイドと私は幼馴染みたいなものです。トールの方が2歳ほど上ですがため口で話せる仲なんです。10歳超えた頃からは騎士になるために剣術を学んだりしていると言ってました。女の子はすぐに結婚させられることが多いので学ぶのは大半男だけのようです。
「なんだ、イアナか。」
「何だとは何よ。お稽古は終わったの?」
「あぁ、さっきな。母ちゃん何の用?」
『イアナちゃんの家までこれ運んであげな。女の子に持たせるには重たすぎる』
「また?」
「これくらい私でも持てるわ。」
『ダメダメ。ほら、トール』
「分かったよ。行けばいいんだろ?」
毎回おまけも付けてくれるのですごい量になっていました。口では持てると言いましたが、確かに一人で持つには少し多い気がします。軽々と持ち上げられるトールは男の子なんだなぁというのを実感しますね。
「お母さん、ただいま!」
「おかえりイアナ。今日はトールも一緒なのね」
「こんにちは」
「運んで貰っちゃって悪いわね」
「いえ、大丈夫です」
「トールお腹空いてる?」
「腹?空いてるけど」
「ちょうどよかった。うちで食べていきなさいな、イアナの分作ろうと思ってたからトールのも作ってあげる」
「そんな……悪いですよ」
「大丈夫大丈夫。食べてきなって」
お母さんの料理は本当に美味しいです。お肉でもお魚でもなんでも作れちゃいます。こっちの世界に来た時ご飯の味が自分の好みと合うのか心配していましたが、そんなことすぐに気にならなくなるくらいお母さんは料理上手でした。元お嬢様だとは分からないくらい家事が上手。
「あ、イアナ。先に歌ってきなさい。みんな待ってるよ」
「分かった!」
「歌?歌なんて歌ってんのか?」
「うん。これでもね、結構評判良いんだよ」
「へー」
『なんだ、トール聞いたことねえのか?』
『イアナちゃんの歌声聞いたらビックリするぜ』
すごい広いお店ってわけじゃないのに私が初めて歌った時にちゃんとした舞台がないとダメだろと言い出してお父さんがお店の端にステージを作りました。私じゃない人もたまに歌うから楽器なども置いてあったりします。日本でいうジャズバーみたいな雰囲気なのかな?そこまではオシャレじゃないですけどね。
さすがにこの世界にマイクはないので何も使わずに歌います。伴奏とかも特にせずに、本当に歌だけです。この世界の人は誰も知らない歌だけれど、自分のことを忘れないために歌い始めたら意外とみんなが喜んでくれて嬉しかったです。それからというものお客さんにお願いされるようになりました。
「この曲……」
『いい曲だよな。歌ってる内容は全然わかんないんだけど何だか胸に染みるんだよ』
『女将さん教えたのか?』
「いや、私でも旦那でもないんだよ。小さい時からイアナは歌えていてね。いつ覚えたの?って聞いてもずっと頭に浮かんでたって言うから私も不思議でね」
『渋い顔して、どうした。トール』
「いや、別に……」
『聞き惚れただけじゃねえの?』
「聞き惚れてねえよ」
歌い終わるとみんなが拍手をしてくれました。お小遣いくれる人だったり、甘いお菓子をくれたりします。もう14歳ですがみんなからしたら私はまだ子供なのでしょう。トールの方を向けば何とも言い難い表情をしていました。知っている曲だったのでしょうか?いや、そんなことはあるはずないですよねきっと。私とあーちゃんくらいしか知らないはずです。
もしも私とあーちゃんと同じように転生した人が居るなら歌を知っていてもおかしくはないですがまだあーちゃんですら再会できていないのでわかりません。この14年間密かに探しては居るんですが全然見つからないんです。あーちゃんの身分はとてつもなく高いのかもしれません。住んでいる場所が違えば会うこともないはずだから。
転生してからも私はあーちゃんを忘れたことなんてないのに運命とは残酷なもので告白も出来ずに引き離されました。ジュエリースト国の中には居るんでしょうけど生きている間に会えるのか不安になってます。
「じゃあ俺帰るわ」
「うん。今日はありがとう」
「おう。あ、イアナ」
「何?」
「いや、やっぱいいわ。またな」
「ちょっ、トール?」
ご飯を食べ終わった後トールは私の頭をぐしゃぐしゃに撫でてお店を出ていきました。何だったのでしょう。何か言いかけて止めるから余計モヤモヤします。今更隠し事する間柄でもないのに。トールが帰った後も私は歌をお願いされたのでお店が閉まる時間まで歌いました。トールがなぜあんな表情をしていたのか私が知るのはもう少し後のことでした。