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旅立ち編Ⅴ 兄妹

 3人が調査を始めてから数日。

 街の郊外を回り担当地域の動植物の状況を観察し魔獣の痕跡を調べる。

 街から近い事もあり、危険というと数回大型の獣と出会った程度だった。

 調べた内容を街へ戻り報告し調査本部がその報告をまとめ、担当者達は徐々に調査する地域を郊外へと広げていった。



青年の家――


 その日は本部の打ち合わせが長引くようで調査の仕事が無かったが、青年から妹を紹介したいと家に招かれていた。


 リビングに通されると、そこには14,5歳だろうか。痩せた女の子が車椅子に座って二人を見ていた。


「いらっしゃい。いつも兄様がお世話になっております。

 今日は来てくれて嬉しいわ。

 同じくらいの子と話すのは本当に久しぶりなの。」


 そう話す青年の妹は、とても嬉しそうにしていた。

 人数分の茶を用意していた青年が戻ると、話しを続ける。


「だいぶ前の話になるが、街の外に出掛けていた時に魔獣に襲われてね。

 逃げ遅れたこの子は、足を魔獣に・・・。」


 お茶を出しながら小声で二人だけに聞こえるように、呟く。

 悔しさからだろうか。後半はどこか震えていたようにも聞こえた。


「今は妹と二人、ここで幸せに暮らしているんだ。

 ここから見える庭の景色も良いだろ?」


「兄様が用意してくれたのよ」


 リビングから見える景色はまるで森のように緑に溢れる整備された空間だった。

 その景色を見ながら青年は話を続ける。


「私はね。この街を安全な街にしたいんだ。

 そしてこの街に住む人たちを幸せにしたい。

 不自由なく、優しい街を作る責任が我々大人にはあると思っているんだ。

 だからね。君みたいな年端もいかない子供が危ない事をする必要なんてないんだ。

 大人に任せてくれたらいい。」


 まっすぐに二人を見て、真剣に話す青年。


「君たちは年も近いし、境遇も似たような辛い思いもしている。

 良い友達になってあげてくれないか?」


「あたしは、仲良くなりたくてここにきてるからな。もちろんだぞっ」


 そういって、少女は青年の妹に笑顔を向ける。

 青年の妹も穏やかに微笑みを返していた。


 その後、日が沈む頃まで遊び二人は宿屋に戻っていった。



酒場――


 翌日、酒場に集まる調査隊の面々。

 告げられた内容は、4体分の魔獣らしき痕跡が見つかり縄張りを作り広がる前に討伐したいといった内容だった。

 ざわめく場内に討伐隊の編成の話になり、張り詰めた空気に代わる。

 基本的には志願者20人ほどで編成を組んでいくという話になったところで、少女が立候補しようとするが、これを青年が止める。


「君が出る必要はない。強い大人に任せて、

 私たちは、私たちが出来ることをしよう。」


 3人は討伐隊の近くで状況を確認しながら、サポートや他の危険が無いか索敵などを行う後衛部隊となった。

 あからさまに不服そうな態度を見せる少女だったが、騒ぐような雰囲気でもなかったためおとなしく会議が終わるのを待っていた。



街の郊外――


 討伐隊の準備が整ったところで、作戦が開始された。

 サポートの部隊は、その後ろから周囲の状態を確かめつつ慎重に進んでいく。

 土地勘のある青年が先頭でその後ろに少女、男と続いていた。


 討伐隊が向かっていった方へと進んでいくと青年は倒れている人影を発見する。


「だ、大丈夫ですか?!」


「あ、あぁ。だが、このままだと、やばい・・・応援を。」


 負傷した冒険者に近寄り、後ろにいる少女に声をかける。


「リュックから薬草を取ってもらえますか?」


「もう用意してある。これをっ!」


 返事とほぼ一緒に、少女はすぐに使える状態で薬草を差し出していた。

 それを受け取り、冒険者の手当てを始める。


「応援を呼びに、一度街まで戻ってください!」


 青年が指示を出すが、その奥では悲痛な声が微かに聞こえてくる。


「だが、そんな事をしているうちに被害が拡がるぞっ」


「彼らは、覚悟してここにいるんですっ!早く、応援を!」


「っ!!」


 少女が反論するが、青年には届かない。

 そんな少女を見かねて、男が後ろから、少女の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「我慢しなくていいぞ。行ってこい。」


 男は優しくそういうと、少女は返事もせずに駆け出していた。


「なっ!なぜあの子を一人で行かせたのですかっ!!

 貴方という人は!」


「何故って、こっちにも1体来てるからな。」


 青年の怒鳴り声を遮るように淡々と喋る男。

 その目線は、青年より上を見ていて青年とは目が合わない。

 青年は、その視線の先を振り返りながら追うと、青年に飛び掛かる魔獣が目の前にいた。


「っ?!」


 突然の出来事に硬直する青年だったが、次の瞬間視界から魔獣が消え遅れて風が横から吹き荒れた。


「なぁ、青年。

 君は一体何を見て生きているんだ?」


「大層立派な言葉を並べてはいるが。

 ひどく、独善的だ。まるで相手を見ていない。」


 男は吹き飛んだ魔獣の方を向き、そのままの態勢で青年に話しかける。


「自分より弱者だと思ったものに、施しを与えるのは

 さぞ気持ちが良かっただろう?」


「私は、そんなつもりはっ!」


 男を睨みつける青年。その瞬間鈍い衝撃とともに青年は吹き飛ぶ。

 先程吹き飛んだ魔獣とは別の魔獣による攻撃だった。


「ふむ。数え間違えていたか。」


 男は白々しくそうつぶやくと、青年に見えないよう魔獣の足元に拘束の呪文をかけ足止めをする。

 負傷した冒険者を抱えたかと思うと、次の瞬間には吹き飛んだ青年の後ろで負傷者を降ろしていた。


「さて、青年。どうする?

 『俺の言う事を良い子に聞くなら、間違えない俺が君を護ろうか?』」


「ぐっ。ふざけるなっ。私は、私は戦えるっ!

 戦闘の訓練だってしているんだ。この程度の負傷っ。

 子供扱いをするんじゃな――――っ!!」


 その言葉を聞いて、男は青年の後ろから鞘に納まった剣を手無造作に投げる。


「戦う舞台は人それぞれだろうが、誰もが戦えるし、

 それが生きるという事じゃないか?

 手助けをしたいのであれば、この程度で十分だろ。」


「――くそっ!!」


 男の言葉を聞いた後、投げ捨てるように言葉を吐き青年は剣を手に取り魔獣に向かっていった。


 なんとか魔獣を撃退した青年は疲労から、その場に座り込む。

 少女の心配をし立ち上がろうとするが身体は限界だった。

 焦る青年の耳に遠くから声が聞こえる。


「おおぉ~~~ぃ。こっちは終わったぞっ」


 声のする方を見る青年。

 そこには返り血で多少汚れてはいるものの、元気に手を振る少女と一緒に戦っていたであろう討伐隊の人達がこちらに歩いてきている姿が映っていた。

 その姿を確認すると、安心か疲れからか青年は眠るように倒れていた。



後日――


 その後も調査は続けられていた。

 暫くの調査の後、領土争いでの魔獣との関係性は低いという結論が出た。

 むしろ状況としてはそれよりも酷く、調査結果は徐々に失われる大地の加護不足による生息地域の変動。

 その影響で、魔獣の生息地域も人の居住区域に近くなっているという事が判明した。

 すぐに影響の出る事ではないが、街として出来る事は警備の強化や加護が少なくても生活が出来るよう工夫する事位だった。



宿屋――


 二人は次の街へ向かう為、宿屋にて旅支度を整えていた。


コンコン


「どうぞ。空いているよ。」


 手を止めず声だけかけると扉が開く


「お二人とも、今日出発の日でしたよね?」


 後ろから青年が声をかけてきた。

 振り返ると、青年の横には妹が足を震わせながら立っていた。


「お二人とも、こんにちはっ。私、兄様に手伝ってもらって、最近は歩く練習を――」


 そこまで言ってバランスを崩してしまう妹。

 慌てて駆け寄る少女。


「だ、大丈夫かっ?」


 二人座り込んだまま話を続ける。


「兄様がね。もう一度歩けるようにって

 一緒にこの困難と闘っていこうって言ってくれて。

 それで、2人を驚かせたくてっ。まだ少しの距離だけど一杯練習したのよ?」


 そう懸命に喋る妹には汗が流れていた。

 すぐ後ろには妹が載っていた車椅子があり、確かにまだ少しの距離だが嬉しそうに彼女は話す。


「本当は、皆で買い物とか行きたかったのだけど。

 残念だわ。」


「なぁに、またこの街に寄るから、その時にしたらいい。」


「あぁっ。あたしも楽しみにしてるぞっ」


 そう話すと、再び笑いが零れる。


 その後旅支度を整えた二人は次の目的地に向け街を出る。

 魔王を倒し、人々が安心して暮らせるように。

 この街に戻ってきたとき、彼女と買い物を楽しむ為に。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

旅立ち編はここで一区切りとなります。

新しい場所へと旅立ったルーとレグナを引き続きよろしくお願いいたします。

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