表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

旅立ち編Ⅲ 魔獣

 魔獣の群れに向かって走る少女。

 極力気づかれないように足音や殺気を抑えつつ状況を確認する。

(6、7・・・8匹か。)


 大きさは2メートル程。広がる荒野で比較対象が無かったからか少女の予想より大きい。

 位置関係は、

 立ち往生している馬車、

 馬車の様子を警戒しながら、少し広がりながら近づく魔獣達、

 そして、その右後方から駆け寄る少女。

 魔獣はまだ少女に気づいていない。


 無詠唱で自身で最大火力の光球を作り出し、群れの中央にいる魔獣に目標を定める。

 光球はその場にとどまり、少女は群れの後方に位置どれるように左側に向きを変え、更に速度を上げる。

 光球の傍から少女が消えたと同時に、貯めていた加速力が開放されたかのように魔獣の群れに光球が放たれる。


 魔獣の側面に光球が着弾。破裂したように広がる爆炎と被弾した魔獣は衝撃で群れの中心に吹き飛ぶ。


 襲撃を認識した群れは奇襲を受けた方向を一斉に見るが、見えるのは荒野だけ。

 一瞬の混乱。

 直後、最後尾の魔獣が2つに切り裂かれる。

 裂け目から見えたのは、長剣を振り下ろした人間の少女。

 敵を視認し、戦闘態勢をとる魔獣の群れ。


 最後尾の一体に振り下ろした剣の勢いをそのままに、近くの魔獣を仕留めにかかる。

 空中で小柄な体を回転させ回転力も剣に加え、魔獣ごと地面に叩きつけるように剣をふるう。

 一瞬遅れて衝撃音。

 叩きつけられ2つに裂かれた肉の塊が宙に舞う。


 停止した少女の横から間髪入れず飛び掛かり切り裂こうと前足に力を籠める一体の魔獣。

 思ったよりも深く地面に刺さってしまい抜けずにまごつく。


「あぁ、もうっ!」


 抜くのを諦め後ろに回避するが、魔獣の爪が腹部をかすめ取る。


「くぅっ。っそがっ!」


 着地した足に体重を乗せ、その反動を利用して向かってきた魔獣をカウンター気味に殴り飛ばす。

 飛ばした先にいた魔獣にぶつかり二体は態勢を崩す。


 群れの半数があっという間に削られた残りの魔獣達は少女から距離を取り警戒を強くする。


グルルウウウゥ


 低いうなり声をあげながら、他より一回り大きい魔獣が1歩前に出る。


「お前がボスか。」


 地面に刺さった剣を抜き構えなおす少女。

 一呼吸おき、地面を蹴りあげ距離を詰めて、一閃。

 ボスと思われる魔獣が崩れ落ちる。


「まだ、やるか?」


 剣についた返り血を振り払いながら、残りの魔獣をにらみつける。

 たまらず逃げ出す残りの魔獣。


 危なげなく戦闘を終えた少女は止まったままの馬車に駆け寄った。



「誰かいる?魔獣は追い払ったよ。」


 声をかけながら馬車に近寄る少女。

 警戒しながら馬車の裏にまわると丸く身を潜めている人影を見つける。


 周囲の安全を確認し、片足を庇いながらゆっくりと少女の前に姿を現したのは40代ぐらいの細身の男性だった。


「いやぁ。危ない所を助けてくれてありがとう。

 足をくじいてしまってね。もう駄目かと思っていたよ。

 その歳で強いんだね。君は。」


「それほどでもない。足は大丈夫なのか?」


 行商の男性は大丈夫と頷くと、改めて少女に目を向ける。

 口では謙遜しているものの褒められたことに気をよくしているのか、年相応に胸を張っているあどけなさの残る少女。

 腹部の出血から先程まで戦闘を行っていた人物だと改めて実感する。


「って、出血しているじゃないか。積み荷に、薬草と包帯がある。使ってくれ。」


「かすり傷だっ。けど、ありがとう。」


 積み荷から、薬草と包帯探し少女に差し出す行商人。

 受け取り、処置をしている最中、連れの男も合流した。


「怪我をしたのか。判断がまだ甘いな。」


「煩いなっ!かすっただけだっ・・・って痛ぁ」


 突然、腕ごとを持ち上げられ切り傷があらわになる。


「いきなり薬草を塗り付けるな。消毒位しろ。」


「しみるの嫌いなんだよっ!ひいぃっ。」


 男が強引に処置を始め、処置が終わるまで少女は文句を言い続けていた。



 処置が終わると隅で丸くなりながらぶつぶつと、不貞腐れている少女。

「はぁ、殺す。あぁ、染みるっ。絶対殺してやるぅ」

 物騒な言葉が聞こえてくるのを無視し男たちは会話を始める。


「お二人は、どういった?」


「二人で旅をしています。この先の街に立ち寄ろうと進んでいる中、

 貴方の馬車を見かけてね。」


「そうでしたか。しかし歩きとなるとまだ2日はかかるのでは?」


「えぇ。身体を鍛えるのも目的の一つなので、のんびりと行こうかと。」


「どおりで勇敢なわけだ。

 であれば、どうでしょう?

 目的の街は登録された冒険者であれば依頼をこなせば路銀も稼げます。

 ただ鍛錬するよりも良いのではないでしょうか?」


「確かに何かと必要になるしなぁ。ふむ、冒険者か。

 登録しておいて何かと損はないか。」


「おぉ。であれば是非そこまで送らせては頂けないですか?

 馬車はすぐ直りそうなので、明日には到着できるかと。

 命を助けて頂いたご縁もありますし、そちらさえよければ。ですが。」


 男は少し考える。今の世界の状況を少女に体感してもらうことは出来た。

 猪の魔獣の時とは違い、多少怪我を負いはしたが立ち向かう事も出来た。

 行商人は、正直に礼を返したいと思っているんだろう。

 まぁ、道中で何かあったときに護衛を頼めたら位は思っているだろうがそれはそれで良い経験だ。

 目的はほぼ達成できているし、早く着くのはこちらにとってもメリットだろう。

 後は、もうひとつ。


「それは、ありがたい。長い道のりではないだろうが、

 もしまた魔獣がいたらなんとかしよう。

 それから。一つ仕入れたいものがあるんだが。」


「そういう事でしたら是非。それなりに繋がりは持っている方だと自負しております。」


 こうして二人は行商の馬車に乗って、次の街まで向かうことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ