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旅立ち編Ⅱ 外の景色

「一緒にぃ?」


 あからさまに不服だという表情で男を見る少女。


「道中、魔獣に急に襲われる可能性もあるから片手は開けておいた方が良いぞ?

 荷物持ちならしてやる。

 それに、俺の事を放っておける位信用してくれているのか?」


「・・・。」


 男は、少女の弱い所を臆面もなくついてくる。

 何も言い返せなくなっている少女に男は話を続ける。


「俺を連れて行けば、飯も美味いもの食えるぞ~?」


「~~っ!!分かったよ。ついてきたらいいだろっ!」


 食に釣られたわけじゃない。

 目を離せないし、近くにいた方が都合が良いからだ。

 少女は自分に言い聞かせ、男はからかうように笑っていたが、少しして、まじめな顔になる。


「それから、大事な話だが

 「勇者」としてではなく、

 「冒険者」として旅をして貰いたい。」


「なっ!あたしは勇者だっ!

 隠す必要無いだろ?」


「ひよっ子で隻腕の勇者に、人が自身の命運を預けられると思うか?」


 少女は、黙って先程の戦闘を思い出していた。

 あんな醜態を見せてしまっては、ひよっ子といわれても言い返せない。

 心も体も強くならなければと。


「まだお前には足りないもの、知らない事が多すぎる。

 勇者なら、自分から勇者と言わず勇者だと思われるぐらいになれ。」


「・・・。判った。」


「俺は、そんな冒険者の保護者かな。」


「またそれか。心底嫌なんだが。」


「いやなら必要無いくらいに成長するんだな。」


「はぁぁ。」


 何を言っても男は意見を変えないであろう事を知っている少女は、深く息を吐き返事をするのをやめていたが、旅立てるという事実に高揚を抑えるのに精一杯だった。



村郊外――


 準備を整え、翌日の早朝。

 目的地は少し大きな隣の街。

 隣と言っても、僻地にあるこの村からはそれなりに距離があるらしい。

 近くの森を抜けたら、残りは道なりに進む。

 徒歩だと4日程の日程。

 5年前に気づいたらこの村にいて、村の外に出ることは今までなかった少女にとっては、隣町に行くだけでも大冒険のように感じていた。



 軽かった足取りに少し気怠さを感じ始めた頃。

 2人であれば、十分に雨風を凌げそうな岩場の暗闇を指さしながら男が話始める。


「後もう少しで森を抜けるが、

 今日はこの辺りで眠るか。」


「そうなのか?まだあたしは行けるぞ。」


「明日からが大変だからな。しっかりと休んでおけ。

 さっき仕留めた兎で飯の用意をするぞ。」


「!分かった。火をおこせそうなもの集めてくる!」


 会話が終わるとお互い作業に入る。

 少女は、先ほどまでの気怠そうな歩みから一転して、口元を緩ませながら、小枝等燃えそうなものを集めていた。

 男は、そんな少女を横目にテキパキと食事の準備を進め、二人は夕食にありついた。


 食事の時は先程採取した山草の使用方法や、動物や魔獣の対処法等、この先必要であろう知識を男が話し、それを少女が真剣に聞いている。


 明日は早めに出発するという事で、食事を済ませた後早めに就寝する。

 そして翌日。

 まだ、日が出てないうちに出発した二人は森の出口に差し掛かり、程なくして朝日が差し込んだ光景を見て少女は思わず声を上げる。


「なんだこれは・・・。」


 色鮮やかな冒険の景色を期待していた少女の目に映ったのは、荒廃した一面砂埃舞うような枯れた大地の色だった。


「明日からが大変だ。と言っただろ。」


 普段通りに話している男だったが、目元はわずかに細くなっていた。


「こんな光景が世界中に広がっている。

 これが今のこの世界の現状だ。

 所々に大地の加護が多く残っているスポットが点在していて、

 そこで人間が集落を形成しているんだ。

 だから片道4日もかかる。」


「そう、なのか・・・。」


 男の説明に相槌しか返せず息をのむばかりだった。

 所々に、緑が点在しているが確かに周辺で暮らせる程の環境じゃない事は少女の目から見ても明らかだった。


「あたしが魔王を殺せばこの景色は良くなるのか?」


「・・・すぐには無理だな。自然とはそういうものだ。

 だが大地に加護が満たされ、それを糧に自然は増える。

 大地の加護というのは、言わば生き物の栄養だ。

 命ある限り分け隔てなく皆必要になる。

 まぁ、先日も話した通り、勇者はその栄養が他よりも大量に必要なわけだが。」


 勇者のしるしが授けられた時から魔王を討たなければならないと聞かされていた少女だったが、世界の現状を改めて魔王討伐の必要性を再認識していた。


「さて進み方だが、所々大地の加護が残ってて植物があるのが見えるか?」


「あぁ見える。あれを伝いながら進んでいくんだな?」


 自信満々に答える少女に対し、


「逆だ。あれを避けて通る。踏み固められた道をよく見てみろ。」


「なんでだっ?食料だって取れるだろ?」


「だからだよ。魔獣も同じように考えているから縄張りになってるんだよ。」


「あっ。」


 わざとらしく肩をあげる男。

 普段の少女であれば、悪口の一つでも言いそうな態度だが、目の前に広がる光景や自身の思慮の浅さでそんな余裕がなかった。


「道を辿っていけば、そう問題にはならないだろ――」


 と道を目で追いながら話していた男が一点を見つめ言葉が一瞬止まった。


「と、ありゃ行商人か?魔獣に襲われそうだな。」


 男が見つめる先には止まったままの馬車と、その馬車に向かってゆっくり近づいている犬のような魔獣の群れがいた。

 男の視線を追って少女も魔獣の群れを確認する。


「この距離ならっ。あたしは助けに行くぞっ!」


 そういって、返事も聞かず少女は駆け出していた。


「さて、お手並み拝見といこうかね。」


 男は、ひとり呟くと少女が向かっていった方向にゆっくりと歩き出した。


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