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板胸(ぜっぺき)男装の公爵令嬢  作者: 青柳蒼枝(あおやぎそうし)
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第10話 番外編 兄、スピルの婚約 火祭りの夜

リグレットの兄スピルは、婚約者であるサファイア・グラズノフの領地に来ていた。

 鉱山を持つグラズノフ領で冬の1月2日の夜行われる、火の神の加護の祭り、火祭りを見に来ていたのだ。

 深々と降る雪の中、雪の寒さに身を寄せ合いながら2人は神聖な祭りを見つめる。

 雪が深々と降りしきる中、リグレットの兄スピルバーナと、その婚約者サファイアの目に、真っ暗な夜の中を真っ赤に染める程に燃えた白い紙の束で出来た松明の先が、高くそびえる社の廊下を何人もの神主達が持って走り行く姿が映っていた。

 これは1月2日の夜にこの領地で行われる火祭りの神事だった。

 サファイアの住む領地グラズノフ家は、国の所有する鉱山を直轄地として納めている。この地で採掘される金属は金、銀、銅、鉄に及び、国の貨幣の主として使われる重要産業だ。

 ヒステリア王国が建設された時、まず重要な食に関する事として麦の産地であったワーグナー領を直轄地とし、続いて貨幣となるグラズノフ家を直轄地とした。

 この二つの領地は、ヒステリア王国が出来た当初からの最も古い2つの直轄地に当たる。

「この火祭りって言うのはね、この領地の火の神様からの守護を得られる、年に一度の大切なお祭りなの」

 寒さに対して守られるようにスピルに肩を抱かれるサファイアが、白い息を吐きながら言う。真っ赤な髪に白い雪が積もる。

 神聖な火祭りを見に来た沢山の領民達の中に埋もれながら、スピルもサファイアも真っ赤に燃える松明と夜空を見つめていた。

「鉱山で採掘された金属は領地の中で生成されて金貨や銀貨に変わるのだけれども、それを生成する時の炉では大量に高温の火を使うでしょ? それで火の神様を守護神として崇めているの」

 元々、火の守護神に対して信仰の篤い領地ではあるが、特に年末から年始にかけての7日間は炉を休め、領地内にある火の神を祭る社の中の本社に、採掘や生成、その他細工師達等の関係者達が集まり祈りに来る。

 そして特別なのが本社を囲むように作られた竹の柵。その中には、白い特別な衣装を着た男達が神主達が振る竹の棒の先に作られた燃える白い紙の幣紙から降る火の粉を拝みながら浴びている。

「あの中の人達はね、鉱山主は勿論だけど、鉱山で怪我をした人とか新入りの人とかで、ああして守護神様の火の粉を浴びることで新しい年は何ごとも無いようにと加護を頂いてるの」

「火の粉の加護か……。それは凄いな」

 勿論加護といっても、スピルを始めとした領主が得ている加護とは全く異なり、どちらかというと神の守りの力という方が正しいだろう。

 さっきから何度も走る松明を持った神主達。 

 古い岩のような木の1本も生えていない大きな山。その頂きに本殿があり、岩に出来た自然の凹凸を利用して廊下やその他の社が作られている。

 本殿はヒステリア王国が出来る前から建っている古いものだが、足場が殆ど無い場所にどうやって作ったのだか未だ解明されていない。

 その本殿の奥に、火の神が産まれ落ちた時に灯った火というのが祭られ、その分火が山の麓に置かれ、そこから竹の先に幣紙の束に火が移され、それを持った神主達が勢いよく麓から頂にある本殿まで続く階段を駆け上がり、本殿の前の長い廊下の手すりを滑るように回しながら加護となる火の粉を下に集まっている氏子達へと振りまいて行った。

「この火祭りのためにね、社に居る人達は全員、一ヶ月前から食べ物は野菜だけ。毎日朝晩、冷水で禊ぎ。あの松明を持って走る人達は7日前からは白湯しか口にしないの。それだけ、この火祭りが鉱山で働く人達にとって重要な儀式だって事が解るでしょう?」

「この雪が降る寒さの中、冷水で禊ぎ? 7日前からは白湯だけ?」

 その話しを聞き、スピルは全身が冷えると同時に倒れそうになる。それだけ火の守護神に対しての信仰の強さを感じさせられた。

「普通の領地内にあるお社ならいいけど、この本山のお社は女人禁制なの。それと鉱山で働く人も炉で生成する人も女性はダメ。でも、それにはちゃんとした理由があるのよ」

 女人禁制の山や土地があるのは珍しい事ではない。ワーグナー領には無いが、特に直轄地のような領地では一つ二つはある。

「火の神様が産まれた時、その火でお母様を焼き殺してしまってね、神様はそれを悲しんで子供を育て産む女性を近づけさせないようにしたの。守護の神の中で最強と言われている神様だけど、本当は凄く優しいのよ」

 そして火の神は誇り高く、この土地を納める豪族は代々、時折女性しか子供が産まれない事がある。その時にはその領地より力を持つ領地に戦を仕掛け婿を奪い取る習慣があった。火の神は女性を守る変わりに権力も欲したという事だ。

 グラズノフ家でも時折女性しか産まれない時があり、今の代でも女性しか産まれず、領主はサファイアの妹に婿をと、王家に願い出ていた。

「この火祭りをスピルに見せたかったの……」

 赤い炎の明かりで顔を照らされながら、サファイアはうっとりしたように呟いた。

 自分が産まれ育った領地。そこで行われる最大の神事を婚約者であるスピルに見て貰いたかったのだ。ワーグナー家のような自然の豊かさはないが、鉱山と火、その絶対的に解けない絆と目に見える圧倒的な神の力を見せたかった。

「4日になれば炉も動きだすし、職人さん達も働きだすわ。そうしたらお義母様とリグレットに何かお土産を買っていかない? 宝石の鉱脈はないのだけれども、時折、珍しい石が採れたりするのよ」

 そういえば、サファイアと妹は小さい頃から父に手を引かれ、鉱山の視察に連れて行かれていた。その度に、サファイアと妹は足下に落ちていた小さいが綺麗に光る石を拾うのが好きだったのだ。

「母さんはダイヤとかの高価な宝石に興味が無くてね。持っているのは王都に出た時に父さんが必死に選んだ数点だけなんだよ。リグレットに至ってはオレには何が似合うやらさっぱりだし……」

 スピルの言葉に、サファイアは一瞬クスリと笑った。

「そうね。ここの鉱山から採れる価値はないかもしれないけど、珍しい石で作った装飾品にしましょうか?」

「そうだな。そういう珍しい物のほうが母さんは喜ぶ」

「そしたらリグレットには髪を結う紐の先に付けられる何か綺麗な石はどうかしら? それなら悩まないでいいでしょう?」

「ありがとう。サファイアには助かるよ。オレは父さん以上に装飾品の価値とかセンスとか解らなくてね。あ、でも結婚したらきっと君を困らせてしまうかも?」

 父のブラッドも、装飾品ではないにしろ、毎回、妻のシエラに送り王都からの土産で悩んでいる。贈る物が無いのではなく、何を贈ったら喜ぶだろう? どんな装飾品が似合うだろう? と。

 元々下級貴族出身だったシエラだが、公爵家に嫁いだからと言って物欲に走る事無く、逆に普通の貴族の婦人としては少ない程、欲がない。何か欲したとしても実務的な物や屋敷で働く者達へのプレゼント、領地改革のための必要品が殆どだ。

 ネックレスなど、公爵家に代々伝わる物一つで十分だとすら言っている程だ。

「そんな事ないわ。私は鉱山に囲まれた領地で育っているから、ワーグナー領みたいに緑豊かな領地に嫁げるだけ幸せよ。婚約式の時、領地の子供に貰った麦の冠、あれが一番の宝物ですもの!」

 そう言ってサファイアは満面の幸せの笑みを浮かべた。

 直轄地で育って来たからだろうか。サファイアも表には出ないものの身の程をわきまえている。王家から支給される給金が、他の上位貴族に比べ遙かに少ないことを理解していし、政治に関与は出来ないが貴族として最大の権力を持つ公爵であり王家の親族、そして国を動かすための重要な直轄地を任されている。それだけ公爵家の地位は膨大な物であるのだが、権力を傘にしたり、黒い取引などしようものなら他の貴族からの尊敬も信用もがた落ちだ。その前に一家全員斬首にされる事になるが……。

 それが解っている殆どの貴族は爵位とは関係なく公爵家に敬意を払うが、中には王都に住む貴族の中には、爵位はかりの田舎貴族、と揶揄されてもいる。

 だが、反対に金では得られない豊かさや幸せを持っている事も十分解っていた。

「そうそう。ここに来る前に珍しくリグレットから要望があってね、剣を作って貰いたいそうだ。オレは王都の方が職人はいるんじゃないか? って言ったんだけど、何やらこだわりがあるみたいでね、鉱石が出るここで作ってもらいたいらしいんだ」

「まあ! わざわざ、ここの領地で剣を? 雪が解けたら何時でも来て欲しいわ。今ですら自慢なのに、将来の妹ですものね。私が案内します。それに妹が会いたいって言ってるから丁度良かったわ」



 次の日は昼からサファイアの妹と共にリグレットに贈るという石選びに興じていた。

「このリグレットの瞳と同じ色の紫色は外せないわね」

 サファイアは長年かけて集めたという自慢の石(鉱山で拾った)を宝箱から取り出してテーブルの上に広げていた。その中でリグレットの瞳と同じ紫水晶の色の石の中から同じ程度の大きさの石を選び出していた。

「それに合うとしたら、透明な石の方が良いかしら? それともこの金色とかは?」

 やはり同じように鉱山で拾った石を宝箱に集めていたサファイアの妹が、姉の選んだ石に似合いそうな色の石を並べて行く。

「ちょっと待って。その金色の石、まさか金じゃないよね? 透明な方も水晶だとか?」

 宝石には全く知識のないスピルは、サファイア達が取り出す綺麗に光る石に慌てる。特に金色の石は、ここが鉱山で金が採掘されるのを知っているため尚更焦った。

「大丈夫ですよ、お義兄様。ちゃんと拾った後に鑑定してもらったら、どっちも普通の石でしたから」

 2人とも父親に言われ、拾った石は必ず鑑定師の所で鑑定して貰っている。万が一、金や銀の欠片だった場合は差し出さなければならないからだ。

「妹は私よりずっと鑑定に熱心で、鑑定士の元で宝石を見る目の勉強もしているんです。実力はまだまだ

ですけれども、偽物か本物かくらいは簡単な物なら解るんですよ」

「へえ……。でも、こんなに綺麗なのにただの石なんだ」

 スピルは金に光る石を摘まむと、蝋燭の光に当てて見る。よく見ると金の塊ではなく、光に当たると金色に光るだけの石だと解る。

「本物の金でしたら、もっと重いですし柔らかいんです。それは軽いし硬いでしょう?」

 サファイアの妹はニッコリと笑った。

「でも大きさが近い物の方がいいわよね? バランスも大事だし」

 その後は女の子2人、楽しそうに話しが盛り上がる。

「髪を束ねるのはやっぱり絹の紐よね? 絹だとなかなか解けないって聞くし」

「そうしたら、お義母様の瞳とスピルの瞳に合わせて若草色の糸がいいわ。金の石なら、ご両親の髪の色とも同じだから」

「ならば、ウィンガー領地産の糸ではどうかしら? あそこなら伝手もあるし出荷出来る程の物でなければ糸は融通してくれると思うの」

「そうね! あそこは普通の白い絹が特産だけど、少しだけ若草色の絹もあるわね。確かウィンガー領に住む山魔蚕から採れるって聞いたわ」

 流石女の子だ。自分達が装うことは無いにしても、お洒落に直結する他の領地の産物をよく知っている。

「そんな立派な糸、融通してもらえるって簡単に言うけど、大丈夫なのかい?」

 スピルは聞いている内に何だか不安になる。山魔蚕の糸となると貴重で高い。ワーグナー領でもサファイアが金の糸を作る山魔蚕を見つけ、この年の春から本格的に蚕を増やす計画を立てている。

「慎重に繭から糸を紡いでいるそうだけど、どうしても途中で切れてしまって中途半端な糸が出るの。それらを丁寧に紡ぐと洋服を作れるレベルでなないにしても、組紐を作ったり刺繍糸に出来たりする程度の糸になるから、それを少し貰えるか頼んでみようかと思って。そこの領地のご令嬢とは手紙のやりとりが殆どだけど仲がいいのよ」

「そうそう。私達の集めているクズ石や色の綺麗な石にも興味を持ってくれてね。それで何か出来ないかしら? って色々相談しているの」

 流石直轄地の令嬢だけある。ほんの少しの事でも何か産業にならないかと思考を巡らせているようだ。王家に認められる程の一大産業にならなくても、領地を訪れた人への土産になるような、ちょっとした品なら、炭鉱夫の妻や娘、面積はそれ程無いが農家の冬の小遣い稼ぎにはなるだろう。

「じゃあデュトワ家のご令嬢に手紙を出して、髪を纏める程度の長さの絹の組紐を送ってもらいましょう。それで明日はこの石を組紐の先に付けられるように細工を頼んで……」

「あの、あんまり無理しなくても……」

「大丈夫よ、スピル! リグレットのお土産ですもの、私達力を入れちゃいます!」

 サファイアと妹の可愛らしい笑顔に、流石のスピルも止めることは出来なかった。それだけ、あの妹を想ってくれるのだ、ありがたく頂こう。


 そしてその年初めて炉に炎の入った日。スピルはサファイアと共に鉱山の手前にある女性が立ち入れるギリギリの場所にある小屋に足を運んだ。

「親方。あけましておめでとうございます。今年も怪我や事故には気をつけて頑張ってくださいね」

 サファイアが鉱山を取り仕切る親方に挨拶をする。

 さすがに鉱山で働く男は体躯がいい。身長も体の筋肉もスピルとは桁違いだ。

「お嬢様! わざわざ足をお運びくださりありがとうございます。事故やけが人を出さないよう気をつけて頑張らせていただきます」

 サファイアは自ら作った塩を多めにベーコンや野菜を入れた、甘みの少ない男向きのパウンドケーキを差し入れた。

「この優男、お嬢様の何ですか? あっ! まさかこいつがお嬢様を嫁にするっていう泥棒野郎!」

「親方! この方は私の大事な婚約者様です!」

 鉱山で働く親方は声が大きい。その声はびりびりと耳に響く。 

「あはは! 失礼失礼。解ってますよ、お嬢様。ワーグナー領の次期領主様でしょう?」

「は、初めまして。スピルバーナ・ワーグナーです……」

 鉱山領主の勢いにスピルはタジタジだ。

「ここで働く野郎達と比較すりゃあ確かにひょろっちいけど、あのワーグナー家の坊ちゃんです。オレ達はワーグナー領には世話になってます。泥棒なんて言って失礼いたしました」

 聞く所によると、グラズノフ領は鉱山のある山が多いため農地が非常に少ない。収穫出来る作物だけではとても領地住民を養うことは出来ない。そのため王家から、地理的に近いワーグナー領で採れる麦を優先してグラズノフ領に配給しているそうだ。

 そんな特例が出来るのも、グラズノフ領は直轄地で、しかも金、銀等が採れる主要な領地だからだ。

「お嬢様は、今日は挨拶回りかい?」

「ええ。新年のご挨拶にと鉱山や細工師のギルドを回る予定です」

「そうだなあ、お嬢様がこの領地に居られるのもあと数年だしな……」

 頭領は少し寂しそうに言った。

「では、また……」

 サファイアは軽く頭を下げると次の鉱山へと向かった。

 

 夕方近くになり、ようやく目的の細工師のギルドに到着した。

 新年の挨拶を済ませると、さっそくサファイアはスピルの母へのお土産にする珍しい石の相談を持ちかけた。

「ほお、婚約者のお母様へのお土産ですか。で、どのような石をご希望ですか?」

 普通の貴族なら、宝石商を屋敷に招いて買うのが普通なのだが、サファイアが買うのは宝石ではない。変わったただの石だ。そうなるとギルドに直接赴いて相談した方が早い。

「スピル様のお母様は宝石にあまりご興味がないようで。どちらかというと変わった石の方が喜ばれるみたいなんです」

「社交界に出ても周りはのご婦人はみんなバカ高い宝石を付けてて、それの何が楽しいんだろう? 言ってるような変わった母なんです。値段なんてあっても無くてもいい。それより変わった石を使って、その石に似合った職人手作りの細工物を好みます」

 サファイアは最初にスピルがワーグナー家の次期領主である事は告げており、職人ギルドのギルド長も納得している。

「では、少々お待ちを」

 そう言うとギルド長は部屋を後にする。

「ねえサファイア。君達は普段からこうしてギルドとかにも来てるの?」

「ええ。子供の頃からギルドの鑑定士さんに拾った石を見てもらったり、変わった石が出ると見せてもらったりしていたの。だからギルド長とも顔見知りよ」

 自由奔放な所が、どこかリグレットを思い出させる。そのせいなのか、やけにリグレットとサファイアは仲が良い。

 ニコニコと微笑みながら、公爵家ではとても出されないような安い紅茶を嬉しそうに飲んでいる。

「お待たせいたしました」

 暫くするとギルド長が姿を現し、赤いビロードの布が広げられた木製のトレーを持って来る。

「以前、こんな石が持ち込まれたんですが、宝石としては売れないし、粒も大きくて割って細工に回すことも出来ないしで少々困っていたんですよ。ですが、これなら変わり種の石ですから如何でしょうか?」

 そう言って見せてくれたのは、漆黒の闇のように黒い石の中に、よく見ると小さな金色や銀色、青や紫といった様々粒が見える。それが動く度にキラキラと光る。

「これはどんな石なんでしょうか?」

 サファイアがギルド長に尋ねた。

「変わり種、とは正にこの石の事ですね。どうして出来たのかは解りませんが、金や銀の鉱石の欠片や、色々な宝石になるはずだった結晶が閉じ込められてるんですよ」

「珍しいというか、本当にどうやって出来たのかしら?」

「鉱夫も鑑定士も首を傾げるばかりです。とにかく、この形のままゴロリと出てきましてね、色々な結晶が詰まってますからうかつに割って中の金や銀を採る訳にもいかず、ギルドの倉庫で塩漬けになってたんですよ」

 石を手に取って眺めながらサファイアはスピルの顔を見た。

「どうかしら、スピル様?」

「あの、これを細工するとしたら、どんな感じになるんでしょうか?」

「そうですね。一番なのは、何の細工も宝石も入れる事なく、この石のまま一粒ペンダントにするのが一番かと。ですが、黒い石は闇の色と言われて忌み嫌われてますが……」

 貴族の間では宝石といえばやはり華やかな色、光を放つ物が好まれ、黒い石はギルド長が言った通り闇の色と言われ人気がない。

「それなら大丈夫です。妹のリグレットは家族の誰にも似ない黒髪ですが、神の眷属である魔獣も従えてます。両親にとってもオレにとっても、リグレットは大切な家族です。黒い石だからと言って忌み嫌うような事はありませんよ」

「それならば良かった。では明日、まだ若手ですが、私が一番今目を掛けている細工師のところにご案内しましょう」


 そうして次の日、ギルド長が案内してくれた若手の細工師と共に、その変わった石のデザインをサファイアとスピルの3人で色々と考え、それが纏まると細工師の工房を後にした。

 3月の末近くには、ワーグナー領で春を祝う祭りがある。その準備のために3月にはスピルも領地に戻らなければならないが、それまではゆっくりとグラズノフ領に居る予定だ。

 深い雪と、それに反するように燃える炉の炎。スピルはサファイアが入れない場所まで案内してもらい、十分に領地を視察堪能出来た。

 本当なら農地の方も見てみたかったのだが、冬の雪の下では作物は見られず残念な想いだった。


 サファイア姉妹の話によると、デュトワ家の令嬢とは直ぐに連絡が付いたようで、手紙と共に若草色の絹の組み糸が直ぐに送られて来た。その紐と、自分達で選んだ紫と金の石を持って細工師の元を訪れ、紐の先にその二つの石を付けてもらうよう頼んでいた。

 そして母シエラへの土産の細工も、どうやらスピルが領地に戻るまでには完成しそうだ。

 出来上がったネックレスは、黒い石を中心として銀を使って月と天を流れる星の河を模した美しい物だった。後にそれは、夜空の星、と呼ばれることになる。


 サファイアに見送られながらスピルは2人への土産と共に領地へと戻った。次に来るのは妹のリグレットだ。

 さて、どんな剣を作って欲しいのか、どんな我が儘を言うのか、スピルは馬車の中で少し不安を感じていたが、サファイアとその妹の2人が居れば何も心配はないだろう。


    To be continue

 このワーグナー家の良心とも言える兄、スピルバーナと、その婚約者サファイアのお話です。

 以前サファイアがワーグナー領の収穫を祝う豊穣会で婚約をして、領民からの祝福も得られました。

 それで今回は前からサファイアが言っていた、自領での火祭りにスピルを招待した、という話しです。

 恋愛での婚約ですからね~、仲がいいんですよこの2人。両家の両親からも気に入られているようですし、

羨ましい限りです。と一緒に、同じ婚約者同士でもリグレットと王太子のカップルとの温度差と比較するとねえ……。

 まあ、この調子でずっと仲睦まじい2人でございます。

 さて、この話しに出てくる火祭りというのは、3月1日から14日の間に開かれる仏の前で罪を懺悔し、国の平安を祈るという東大寺お水取り(修二会)の儀式が元になっております。

 たまにニュースでも取り上げてますよね。

 私は去年TVでライブ放送していたのを見ておりまして、それを思い出し話しのアイディアとさせて頂きました。

 上手くあの荘厳で静寂で勇ましい儀式を表現出来たでしょうか?

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