茜色の姫君
拙い文章ですがよろしくお願いします。
ローズは、不運な少女だった。
彼女は、寒い冬の日に双子の姉と共に生まれた。双子の妹は、不吉の象徴とされていたため、親に疎ましがられ部屋の一室に監禁されて育った。
ローズは、とても素直で優しい子であったが、誰一人としてその本質を見つけることが出来ずにいた。彼女は己を不幸だとは、一度も思ったことがない。また幸せだとも思ったことがなかった。
そんな彼女の人生に転機がやってきた。いい転機だと良かったのだが、神は無慈悲だった。
ローズの父は、多額の借金をかかえていて、返せずにいた。そこで悪知恵が働いたのだ。
その借金は、彼女の体で払うことになった。
毎日、代わる代わる男がローズの元にやってきて、その体を無理やり開いていく。彼女の力では、抵抗など出来るはずもなく、次第に従順になっていった。
周りの人間は、彼女を「淫乱」などと貶めて言った。ローズは、死にたいと思った。何故かは分からない。彼女には分からない。
不幸を知らない彼女は、毒を煽った。
これが、「茜色の姫君」という小説の悪役令嬢、ローズの記憶だ。
毒を煽り、生き延びた彼女はローズではない。日本という国で、普通に生きていた少女が乗り移っていたのだ。
つまり、体はローズでも中身は別人という状態なのだ。
「まじか~」
少女は頭を抱えた。
少女がまだ日本という国の少女であったころ「茜色の姫君」という小説にハマっていた。
内容は、主人公のリリーが、王子と出会い恋をしていくというもの。題名の理由は、二人の逢瀬の時間が夕方だかららしい。
そんな二人の間を邪魔するのが、ローズだ。ローズは、姉のリリーになりすまし、王子に近づく。その時の醜悪な態度に、王子は嫌悪感を覚え、リリーを避けるようになる。どうにか誤解を解き、再び愛し合う二人に嫉妬したローズは、黒魔術を使い、襲い掛かってくる。しかし、最終的に勝つのは正義。王子に打たれ、ローズは塵一つ残さず消えるという物だ。
「なんで私がローズなの・・・・・」
生まれ変わるんだったらリリーになりたかった。でも、よく考えたら主人公なんて荷が重いし、やっぱりモブになりたかった.........
新生ローズは項垂れる。これからのことを考えると頭が重いのだ。
(しかし、ローズめっちゃ可哀想だな)
生まれた時から忌み子として嫌われて、挙句に慰みもの扱いを受けて、そんで最終的に邪魔だから殺される。踏んだり蹴ったりだ。
まぁ悪役とはそういう物かもしれないが、仕方ないでは済まされない。ローズは立ち上がる。
「殺されるなんて真っ平御免!! 向かい来る敵はギッタンギッタンにやっつけて、100歳まで生きてやる!」
ザバーン!!と彼女の後ろに大きな波が見えたとか見えなかったとか。
取り敢えず、慰みものを卒業しようと考えたローズ。
脂の乗ったおっさんを相手するのが嫌だと言うのもあったが、やはり性病が怖い。この世界にそんなものがあるのかは疑問だが、何事も備えることが大事だ。
大の男にまだ少女と言える歳のローズが力で敵わないとは分かっている。身体的暴力がダメなら後は一つだ。.........精神的暴力だ。
「やぁ、ローズ。また来たよ」
脂でテカった顔の中年男性がニヤリと笑った。ゲスい顔である。
「ようこそおいでくださいました。マゾ・ヒスト様」
ローズは丁寧にお辞儀する。心のうちで彼の名前に爆笑しながら。
「ぐふ........今日もよろしくね」
「はい!任せてください!今日はいつもと趣向を変えて頑張ります!」
へ?とマゾ・ヒスト様(笑)がマヌケ顔を晒す。しかし構ってはいられない。ローズはベッドに座ると足を伸ばして、彼の息子をつつく。
「ふふふ。もうガチガチになって.........流石オス豚ね」
「ロ、ローズ?」
「おだまり!今から私のことはローズ様と呼びなさい!」
「は、はい!ローズ様!」
まぁ、こんな感じで前世の知識をフル活用しSMもどきをした。その間、マゾは1度もローズに触れていない。そんなこんなで夜が明け、マゾ・ヒストはとぼとぼと帰っていった。
「や、やったわ! これで1人目クリアーよ!」
ローズはぴょんぴょんと飛び跳ねた。
それからも色んな客が来たが、その度にローズは女王様を演じ、やっかいな客もドMにして帰した。次第にそういう才能があるのではと考えるようになった彼女だったが、そこに事件が起きる。
「よろしく頼む」
(な、なんで王子が来たー?!)
遡ること数時間前、空が茜色に染る時刻。王子は1人庭で項垂れてた。
彼はどうにも言えない寂しさで胸がいっぱいだった。誰かこの寂しさを慰めてくれる人は居ないだろうか.........
「.........どうしたのですか?」
背後から声が聞こえた。とても小さく、注意していなければ聴き逃してしまいそうな声だった。
彼は振り向く。そこには.........
.........マゾ・ヒストがいた。
「なにかお困りのようですね。王子」
「あ、ああ」
予想外な人物が後ろにいて、王子は少し驚いた。彼は部下の中でも特に喋らず、隅っこの方で黙々と作業をしてるような奴だった。それが最近どうしたのか、一皮剥けたように清々しい顔をして、静かなのは同じだがよく発言するようになった。しかし、王子はこんな気軽に話しかけられるとは思ってもいなかったので目からウロコだ。
「実はな.........」
王子は、何故か悩みを打ち明けていた。
「なるほど。王子は数日前の私と同じというわけですね」
マゾはふむふむと相槌を打ちながら言った。
「それならば、寂しさを紛らわしてくれるいい場所があります」
「.........という訳でここに来たんだ」
(あのドM〜!!)
王子の話を聞き終えたローズは、マゾに怒りを覚えていた。そもそも一国の王子に自分は少女を買っていましたって言うのは色々アウトな気がする。彼のこの先の人生が不安だ。
そもそも王子に女王様ごっこなんて出来るわけがない。あまりにも失礼すぎる。ローズは頭を抱えた。
「あの.........」
「は、はい!」
ローズは王子に話しかけられて背筋を伸ばす。
「君はいつもこの部屋にいるのか.........?」
王子の問いに、ローズはは頭を縦に降った。
やはり分かるに決まっているか。彼女は右足の鎖に手を触れた。
「監禁されているのか?」
「まぁ、そうですね。私は忌み子なんで」
ローズは取り繕うのを辞めた。
王子に今までの事を全て話した。
「すみません。暗い話をして」
「いや、いいんだ。君は偉いな」
ローズは「え?」と王子の方を見る。
「毎日辛い状況でそれでも生きようとしている。君は強いよ」
目頭が熱くなっていくのをローズは感じた。別に誰かに褒められたかった訳では無いが、やはり褒められると、何だか胸が熱くなる。そうだ。ローズは頑張った。一度は死のうとしたけど、それでも前世を思い出して生き延びた。毎日頑張って頑張って頑張って.........
「泣いていいよ」
王子に優しく抱きしめられる。彼の胸の中でローズは泣きじゃくった。
それからも王子は、ローズの元に訪れた。
彼女のお嬢様伝説を聞かせると、王子は声を上げて笑う。その顔を見てるとローズも自然に笑顔になった。
一週間に一回が5日に一回。それが3日に一回になって、ついには毎日王子はローズの元に訪れるようになった。
ローズが前世の記憶を呼び戻し、編み物をしていると王子が言った。
「外に出たくはないか?」
その言葉にローズはピクリと反応した。
「.........さすがに無理ですよ。親が黙ってないだろうし」
「.........そうか」
そう言うと、王子は帰ってしまった。
それから何日経っても王子は来なかった。
「飽きられちゃったかな.........」
ぽつりと呟いたローズは、自分の頬にいくつもの雫が伝っているのに気がついた。
私の話を聞いて爆笑する王子
編み物を興味深そうに見る王子
外の話を教えてくれる王子
私を.........認めてくれた王子
「ひっ.........ふぐ.........うぇ」
嗚咽が止まらない。ローズはヒロインじゃない。悪役令嬢。王子とは結ばれないって分かってた筈なのに、なのに.........
「好きなんです.........王子」
「私もだよ。ローズ」
ローズは外にいた。王子に抱えられて。
部屋に乗り込んできた王子はローズの枷を外すと彼女を抱えて、堂々と外へと向かった。道中には兵士が沢山いて、両親と姉と思しき人も見かけたけど、取り押さえられていた。何が何だか分からないまま、私は茜色の空を見上げる。
「キレイ.........」
ローズは初めてこの世界の外を知った。それは前の世界に似てるけれどやはり少し違う。
「君を外に連れ出したら真っ先にこれを見せたかったんだ」
王子は優しい目をこちらに向けた。その目には愛情が浮かんでいて、こころがあたたかくなる。
「色々と手間取って、来るのが遅くなってごめんね。もう大丈夫だから」
(本当に?大丈夫なの?もう怖い思いしなくていいの?)
ローズは強がってはいたけれど、本当はとても臆病な少女だった。ボロボロとこぼれ落ちる涙を王子は指ですくう。
「君と出会って私は、寂しさが喜びに変わっていったんだ。次はどんな君に出会えるか、そう思うとワクワクして.........マゾくんには感謝だな」
マゾ・ヒストはクシュンッとくしゃみをした。
「ローズ.........私と結婚してくれますか?」
「はい!」
ローズは泣きながら答えた。そして2人は幸せそうに微笑む。
彼らを見守るように空は茜色に染まっていた。
お読みいただきありがとうございました。