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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第陸章・君は君であれ
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第八十話 瞬く間


 晃と美香子は、まだ見たことのない西口の方を目指して進んでいた。


 道中に何体かいるバキュロを片付けながら、二人は安全に進む。


「美香子さんまで戦わなくても、僕が何とかしますよ」

「心配しなくてありがとう~。でも~ずっと何もせずに如月駅(ここ)にいたら~体がなまっちゃうから~大丈夫よ~」


 笑顔で言いながら、美香子はバキュロに包丁を振るう。


 どこか楽しそうで、どこか寂しそうに刃を軽やかに振るう様は、美しき天女が舞っている姿を彷彿とさせた。


 晃は思わず息を飲んだ。


「凄いですね……! 美香子さん!」

「うふふ~。ありがとう~」



 美香子の手に持つ包丁の刃が届く範囲は、晃のバットに比べて明らかに短い。

 それでも美香子はバキュロに臆することなく、バキュロを(たお)していった。


 そんな姿を、晃は素直に尊敬していた。


 手慣れたような美香子の手つきにふと疑問を抱き、晃は美香子に質問することにした。


「小さい頃なにか習い事でもやってたんですか? バトンとか薙刀とか剣道とか……」

「なにもやってなかったわよ~?……まあこんなこと言うのもなんだけれど~危ない物とかよく振り回してたわね~……」

「危ない物?」


 晃は首を傾げた。

 美香子は少し恥ずかしそうにしながら、危ない物について話した。


「例えば~お姉ちゃんの模造刀とか~」

「模造刀!?」


「後は~お姉ちゃんのバタフライナイフとか~」

「バタフライナイフ!?」


 晃は予想外の武器の名前が出てきて、少々混乱していた。


「美香子さんも凄いと思いますけど、それ以前にお姉さまは何者ですか……?」


 晃は、美香子が武器の名前を言う前に出ていた『お姉ちゃん』というところに目を付けた。



「お姉さま~? ああ~お姉ちゃんのことね~。普通の()()()()よ~」



 美香子はサラッと言った。

 晃はその言葉を聞いて「えっ!?」と声を上げた。


「ス、スケバン!? あのスケバンですか!? ヨーヨー持ってる刑事(デカ)みたいな、あのスケバンですか!?」

「考え方はあってるけど人違いよ~」


 美香子は苦笑いした。


 漫画やアニメの中でしか聞いたことのないスケバンという言葉に、晃は興味を惹かれたのだ。




「上を向―いて、あーるこー」



 その時、カツカツと足音が聞こえてくると共に、歌声が聞こえてきた。

 聞き覚えのある声に晃は「うっ」と声を漏らし、声の聞こえてきた方を見た。


「グッドアフタヌーン!! って、まだギリギリ午後(アフタヌーン)じゃないか。お馴染み聖間社長でーす! 元気ですかー? お二人さん!」


「あらあら社長~。お久しぶりです~」


 聖間が現れ、気さくに晃と美香子に話しかけてきた。

 いつも通りのような明るい雰囲気と笑顔で接してきていた。


「美香子ちゃんお久しぶり。元気そうで何よりだよ。晃くんも元気してる?」

「はい、なんとか……」


 顔を近づけて話してきた聖間に、晃は無意識にたじろぐ。

 

 アナホベとハシヒトを目の前でなんの躊躇もなく死ぬよう命令した狂人(聖間)が、酷く恐ろしく見えたからだ。


 聖間は何事も無いように、いつも通りの笑みを浮かべていた。

 その笑みが、より一層晃の恐怖心を煽ったのだ。


「さ・て・と……急に聞くけどさ……ねえ晃くん」

「は、はい。なんですか?」


 名指しで呼ばれ、晃は少し驚いて背筋を伸ばす。



「…………如月駅(ここ)、出たい?」



「……はい?」


 突然の問いに、晃は思わず ? を浮かべる。

 そんな晃の反応を見て、聖間は「あはは」と笑った。


「どうしたのさその反応。出たいから今ここにいて、脱出口探してるんじゃないの?」

「いや、そうですけど、なんで……」

「そんなこと知ってるのかって? 甘く見てもらっちゃ困るなー。この駅にいる以上、僕に隠し事は出来ないと思った方が良いよ?」


 晃は笑う聖間を見て、小さくため息を吐いた。


「社長の言った通りです。僕たち、いい加減ここから脱出したいと思って……」


「そうだよねそうだよね!! そんな君たちを可哀そうに思った僕は考えました! 特別に君たちを、外に出してあげようと思います!!」


 聖間は一人で拍手をしている。

 聖間の言葉を聞いて、晃と美香子は目を丸くした。


「可哀そうって……この駅に僕たち閉じ込めたのあなたでしょう」

「まあまあ、そんなこと言わないでさ! 出してあげるって言ってるじゃん」


「本当に出してくれるんですか~?」

「本当だよ。やっぱり人間、太陽光と自然の風を浴びないとすぐくたばっちゃうかもだからね」


 晃と美香子は顔を合わせた。


「な、何て言えば……」

「分かんないわ~でも~もし本当に出してくれるなら~……綺ちゃんとかも連れてこなきゃ~」


「おーい。二人で何話してるのー? 外に出たくないの?」


 晃と美香子の間に、聖間が割り込んでくる。


「その~外に出してもらえるなら~、綺ちゃんたちも連れてこなきゃ~……」

「綺ちゃんたち……か」


 綺という名前に一瞬ポカーンとしてから、聖間は笑顔を再度作った。




「それはちょっと面倒くさそうだから、君たちだーけ!!」




 聖間はそういうと、両手をポケットに突っ込み、中から何かを取り出した。

 スプレー缶だった。


 聖間は噴射口を晃と美香子それぞれに向けると、一気にスプレー缶をおした。

 中から出てきた白煙は瞬く間に晃と美香子の顔を覆い、口や鼻から体内に入っていった。


「しゃ、社長!? なにを……!」

「あらら~……なにかしら~……これ~……」


 晃と美香子は、その場に倒れこんだ。


 二人の意識が無いのを確認した聖間は、「フフフ」と笑った。



「やりすぎちゃったかな?……まあごめんね。僕は嘘はつかないけど、騙したりすることはあるんだ」

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