第七十八話 行動
従業員部屋の中で、鐵昌は深く呼吸した。
そして、痛みを感じなくなった腹をさすり水を飲んだ。
「お腹はもう平気ですか?」
晃が鐵昌の腹を見ながら聞く。
鐵昌は晃の言葉を聞いてから、後ろを振り向いて服をめくった。
数秒してから服を戻し、再度綺たちの方を向いた。
「ああ。痛みもねえし、目立った傷も無い」
「目立った傷?」
「ちいせえ痣や内出血はあった……ってだけだ」
どうでもいいように言ってから、鐵昌はスマホを手に取り電源を付けた。
時刻は、午前十一時をさしていた。
「相変わらず、連絡しようとすればエラーがでるな……」
「ネットは繋がるんですか~?」
「検索のみならな」
鐵昌はインターネットを立ち上げて、検索ボックスを開いた。
その時、綺があることに気づいた。
「鐵昌さんって……」
「あ?」
「スマホの文字、ローマ字で打ってるんですか?」
鐵昌のスマホのキーボード画面が、ローマ字形式になっていたのだ。
綺の言葉に対し、鐵昌は首を傾げる。
「なんか変か?」
「いえ、その……フリック入力じゃないんだーって思って」
「あんなの無理に決まってるだろ」
鐵昌に言いきられ、綺は苦笑いした。
綺に続いて、晃もあることに気づき鐵昌に聞いた。
「鐵昌さんって両手でスマホ使ってるんですか?」
スマホの持ち方についてだった。
鐵昌は両手でスマホを持ち、左右の親指でスマホを操作していた。
「これも変なのかよ」
「いやー変といいますか、意外だなと思いまして」
「意外?」
「僕のイメージでは、片手でスマホいじってて、何も持ってない方の手はポケットに入れてて、口に煙草銜えてる、ってのを想像してたんですよ」
「あー分かるかも! 私もそんな感じの想像してた!」
晃の考えに綺が便乗する。
その光景を傍らで見ていた美香子は、クスッと笑った。
「鐵昌さん顔立ちいいから絵になると思ってたんだけどなー」
「これはこれでいいと思います」
「んだよお前ら……」
鐵昌は少し引いているような顔をした。
「ご飯食べ終わったら脱出口探しに行こうよ」
「分かった」
綺たちはお昼時ということもあり、昼食を食べていた。
潰れていないコンビニ弁当を電子レンジで温めて口に入れていた。
晃が綺に話しかけてから、綺は残っていた白米を口にかきこみ、「ごちそうさまでした」と手を合わせた。
その横で、美香子はパンを食べていた。
「お腹いっぱーい……って、美香子さん!? そのパン賞味期限切れてますよ!?」
綺がパンの袋を指さしながら言う。
パンの賞味期限は、四日ほど過ぎていた。
「仕方ないわよ~。新しいパンは入ってこないし~何も食べないよりはいいと思うわ~」
美香子は笑いながらムシャムシャとパンをほおばっていた。
従業員部屋の隅では、ヨウダイが横になって眠っていた。
その横になっているヨウダイの上で、スイコとテンノが並んで寝ていた。
(仲いいなぁ)
ほほえましい光景を見た綺は、自然と口角が上がっていた。
「ごちそうさまでした」
「容器捨てておくわよ~」
「あ、ありがとうございます」
晃は少しドキッとしながら美香子に空の弁当容器を渡した。
「鐵昌さんはベビーチーズだけで大丈夫ですか~?」
「動いてねえから……吃驚するぐらい腹が減ってねえんだ」
新しくベビーチーズの包みを開け、一口で口に放り込んだ。
ベビーチーズの包み紙をポケットにしまうと、美香子が「捨てておきますよ~」と言ってきたので、鐵昌は美香子に包み紙を渡した。
「そろそろ行こうか」
「うん。今日から鐵昌さんも復活したことだしね」
綺は鐵昌の方を向いた。
鐵昌はエアガンにBB弾を入れていた。
「まだ駅の中で見てないところはどこかしら~?」
「まだまだいっぱいありますよ。この駅広いので~」
綺が面倒くさそうな顔で言った。
その時、晃が「それなら」と声をあげた。
「二手に分かれて行動しない?」
「二手?」
「うん。グッとパーで分かれましょ、ってやつで」
「いいわね~。やってみましょ~」
綺、晃、美香子は手を出した。
晃は「鐵昌さんも!」と言って鐵昌を手招きで呼んだ。
鐵昌は無言で手を前に出した。
「「グッとパーで分かれましょ!」」
綺と晃が声を揃えて言う。
結果は、綺と鐵昌がグーで、晃と美香子がパーだった。
この結果に、晃は「ふぁっ!?」と顔を赤くしていた。
「み、みみ、美香子さんと一緒だぁぁぁ!」
「よろしくね~晃くん~」
「はい! 物岐晃十三歳!! 精一杯護衛させていただきます!」
晃は緊張しながら敬礼のポーズをした。
美香子は「ありがとうね~」と言って笑っていた。
その横で、綺は美香子を見ていた。
「あうー。いいなー美香子さんと一緒で」
「……悪かったな」
「えっ、あ、そういうつもりで言ったわけでは……!」
綺は鐵昌に対して慌てて発言を訂正した。
「それで~今日は何処を探しに行くのかしら~?」
「確か東口の方は前行きましたよね? あそこ以外かな?」
「そうだね。っていうか、南口の方に行ってショウアンさんに脱出口聞くってのはどう?」
「うーん、多分社長に口封じされてると思うけど……いいんじゃない? 綺と鐵昌さんは南口の方言って聞いてみてきたら?」
「分かった。晃と美香子さんは別のところをお願いできるかな?」
「了解!」
晃は親指を立てた。
「……こいつらどうすんだよ」
鐵昌があるところを指さしながら言った。
指をさした場所には、ヨウダイとスイコとテンノが眠っていた。
「スイコちゃんとテンノちゃんがいるから~大丈夫なんじゃないかしら~」
「一応起こして言っておく?」
「いやぁ……でもすっごい気持ちよさそうな顔で寝てるよ……」
綺の言葉で、晃はヨウダイの顔を見た。
そうとう寝心地がいいのか、気持ちよさそうにスゥスゥと眠っていた。
「本当だ……メモでも置いておこうか」
「そうだね」
晃は少し前に綺と絵しりとりをしたノートの一ページを破り、ボールペンを取り出した。
「なんて書けばいい?」
「普通に、『ちょっと出かけてきます』でいいんじゃないの?」
「んじゃそう書くよ」
晃はノートのページに、『ちょっと出かけてきます』と綺に言われた通りに書いた。
「それじゃ、行ってきまーす」
「行ってきなす」
「行ってきます~」
「……」
綺たちは、従業員部屋を後にした。




