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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
93/101

拾伍話 結

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


「ハァ……ハァ……」


 普段動かさない体をフルに稼働させ、息を切らしながら高校から土手まで走ってきた玲良だが、既に体力の限界を迎えていた。


(靴の中が……気持ち悪いなぁ……)


 玲良は右足を靴から少し出した。

 靴下にべっとりとついた泥が染み込んでいた。


 玲良が早く洗いたいと思っていた時、ふとあるものが見えた。


「あそこは……」


 見えたのは、玲良が豪輝に教えてもらった、橋の下の空間だった。


 玲良は休むついでに足を洗おうと、橋の下に向かった。



 橋の下の段差に鞄を置き、滑らないように川の近くまで降りる。


 靴と靴下を脱いで、足を川につけながら靴を洗った。


 その時、小魚たちが玲良の足に近寄ってきた。

 玲良が足を動かすと、一目散に逃げて行った。


「……汚い足なんか入れちゃってゴメンね……」


 逃げていく魚たちに、玲良は微笑む。


「人殺しの子供かぁ……」


 玲良は洗った靴下を絞り、靴と共に日向に置いた。


 置いてから、再度川に足をつけた。

 そこから、考え事をした。




(私がお母さんから逃げようとして、死のうとして、そこを豪輝に助けてもらった。そして居候(いそうろう)生活が始まって、おかあさんに居場所がバレて、忍おばあちゃんが……)


 玲良は考えている途中で「ん?」と、ある考えに至った。




(今回の事件って、全部、玲良()のせい?)



 玲良はの顔が、段々と青くなっていく。


(そもそも、私が死のうとせずに我慢してれば……豪輝の家に住むことを拒否していれば……お母さんは、豪輝たちに関わっていなかった……)


 玲良は頬を手で覆う。


「そんな…………私のせいだったんだ……」


 玲良の目から、涙が出てくる。



「私のせいで……豪輝のお父さんに……豪輝に……舒唄に…………おばあちゃんに……迷……惑…………が……ああ!!」



 玲良は水面に映る自分の顔を見て、水を思いっきり叩きつけた。

 やっぱり自分のせいだったという、玲良の自分に対しての苛立ちが爆発したのだ。


 呼吸が荒くなり、手をギュッと握る。

 玲良は深呼吸をして、自分を落ち着かせた。


 そして立ち上がり、一人呟いた。



「やっぱり、私が居ない方がみんな幸せだったんだ」






 ペースを乱さず走り続ける。

 体力のことなどを考えず、豪輝は思いのままに走り続けた。


 その時、結ばれていなかった靴ひもを踏んでしまい、豪輝は「わっ!」と声を出してその場で転んだ。


 鞄が前方に飛び、靴が片方脱げる。


 近くで豪輝が転ぶ瞬間を見ていた老人が、「ちゃんと靴ひもは結ばなきゃだめだよー」と、気の毒そうな声を浴びせて行った。


「クソっ……こんな時に……」


 豪輝は握りこぶしをつくって起き上がる。

 早く玲良の元へという使命感に駆られ、豪輝は履いていた靴を脱ぎ、鞄と一緒に手に持って走った。


 整備されていない道には砂利がゴロゴロと落ちており、靴下を履いていない豪輝の足には、足を出すたびに激痛が走っていた。

 そんなことを気にせず、豪輝は走った。


「家の鍵は俺が持ってる……。だとしたら、あいつが行く場所は……!」


 豪輝は、土手へと向かって行った。






 玲良は川のそこに沈んでいた大きな石を両手で拾い上げた。


(これで頭打てば……一撃で……いけるよね……?)


 玲良は息を飲んだ。

 頭の中でもう一人の玲良が、「ハヤクシネ」と言ってきてるような気がし、玲良は石を自分から少し離した。

 

 勢いをつけて、一発であの世へ逝くためだった。


「……ごめんなさい……豪輝……」


 玲良は目を閉じた。


「精一杯……死に(謝罪し)ます……」


 石を、自分の頭をめがけて思いっきりぶつけようとした。

 その時、石が何かに抑えられ、玲良の頭に当たらなかった。


(……痛くない……?)


 玲良は恐る恐る目を開けた。

 すると、玲良が両手で持っている石に、他の何者かの手があり、遺子にストッパーがかかっていることに気づいた。


 「ゼェ……ハァ……」という思い息遣いが聞こえてくる



「お前……なにしようとしたんだよ……」



 石の動きを止めていたのは、豪輝だった。


 顔から汗を垂らし、傷だらけになった裸足を川につけていた。

 玲良は、目を丸くしながら豪輝を見ていた。


「な……なんで……いるの……」

「それは……」


 心配になってと言おうとしたが、豪輝は学校での玲良にあった出来事を思い出し、口ごもった。


「それより、なにしようとしてたんだよ」


 豪輝は玲良から石を取り上げ、川に投げた。

 玲良は豪輝を見ながら、一言言った。



(つぐな)い……」



「はぁ?」

「私のせいで……みんなに迷惑かけちゃったから……」

「何言ってんだよ! おまえは……」


「だってそうでしょ!!!」


 玲良は感情に任せて叫んだ。


「私があの時我慢してれば! 私があの時、豪輝たちの家に住まなければ……お母さんは来ないで、おばあちゃんは生きていられた!!! 私がお母さんを連れてきた!!! 私のせいで!! 私のせいで!! おばあちゃんが……」


 玲良体が、小さく震える。

 そして、全てを悟ったような顔で言った。



「私は……立派な人殺しだよ……」



 その瞬間、黙っていた豪輝が突然「何言ってんだよ!!」と怒鳴った。

 玲良は豪輝に視線を向けた。


「お前が死んでもこの出来事が終わるわけねえだろ!! 父ちゃんの言葉忘れたのかよ!! お前が死んでも、喜ぶ奴なんざいねえよ!!」  


 そう叫んだ瞬間、豪輝の頬に涙が流れた。



「お前は悪くねえって言ったのに…………どうして……信じてくれねえんだよ……」



 玲良は、泣き崩れる豪輝を見て胸が締め付けられるような思いになった。


 豪輝は忍のことがあった後も、玲良に気にしてもらわないようにいつもどおり振舞っていたというのに、玲良は豪輝に対して冷たい態度をとっていた。


(私は……なんてことを……)


 自分に嫌気が差す。


「豪輝……ごめん……。私、つい……」

「分かってくれよ……お前が死んだら死ぬより悲しい思いをする奴が、目の前に居るんだぞ……?」

「……え?」


 玲良はつい声を出してしまった。

 豪輝は少し遠回しに、自分の思いを言ったのだ。


 豪輝は、玲良の手を握った。


「約束も果たしてねえじゃねえか……。絶対に、お前のことを助けてやろうって、心に誓ってたんだぞ……」

「約束って……まだそんなこと言ってるの……完璧主義なのね……豪輝って」


 玲良は思わずクスッと笑った。

 何故笑われたのか分からない豪輝は、? を浮かべていた。


「私の居場所ね……ふふっ、そうね。案外もう見つかってるかもしれないわ」

「そ、そうなのか……?」

「私の居場所は……」


 玲良は微笑みながら言う。




「あなたの隣――」




 玲良のその言葉を聞いた瞬間、豪輝の顔が赤くなっていった。

 そのあと、玲良はまた笑う。


「っていうのは冗談……で、本当はまだ見つかって……」



 玲良は冗談だということを明かした時、心なしか何処かでこんなことを思っていた。


(本当だったらいいのに……)


 豪輝は返答した。


「いいぜ」 

「……え?」

「お、俺の隣が居場所なら……その……えっと……いてくれても、別に……嬉しいし……」


 声量を押さえながら、豪輝は言う。

 玲良は、思わず両手で口を押えた。


「嬉しい……?」

「……今言うのもおかしいかもしれねえけど……もう言うぜ」


 豪輝は真っ直ぐ玲良を見た。


「お前と出会ってから、俺毎日楽しかったんだ。色んな遊びして、色々話して……。いつからか分からねえけど、気づいたら……お前のことが好きだったんだ」


 豪輝の言葉を聞いた瞬間、玲良の顔が赤くなっていった。


「だから……あの……」

「私も……!」


 玲良は思い切って声を上げた。



「私も、あなたと出会ってから、憂鬱だった毎日が輝いて見えた……! 今凄く嬉しい……! 私たち、両思いだったんだ!」



「玲良……!」

 玲良の笑顔に、豪輝も顔がほころぶ。


「私たち……付き合えるかな……?」

「っつ……! あったりめえだろ……!」


 

 豪輝は、泣きながら玲良に抱き着いた。

 玲良は一瞬驚いたが、微笑んで涙を流してから自分も腕を豪輝にまいた。


「ありがとう……あなたがいたから……私……変われたよ……!」

「俺もだ……お前が居たから……!……よし、決めた!! 次の約束!」


 涙を拭いて玲良の肩を掴み、正面から話す。


「次の約束? 今度はなに?」

「次の約束は……」


 玲良は、思わず唾を飲んだ。



「お前を! 死ぬほど愛す!!」



 屈託のない笑顔で言う豪輝に、玲良はありがたみを通り越して恥ずかしさを覚えた。

 それでも、玲良には嬉しかった。


「それじゃあ、指切りげんまん?」

「おう! 約束するぜ!」


 豪輝と玲良はお互いの小指を出し、指切りげんまんをした。


「……この前も、ここで指切りげんまんしたわね」

「そうだな。もうあの時から結構時間経ったよな」


 豪輝と玲良が初めて会った日も、同じ場所で指切りげんまんをした。


「にしても、『死ぬほど愛す』なんて、言ってくれるじゃないの。本当に約束してくれるの?」

「ったく、いい加減俺の言うこと信じてくれよ」


 豪輝は満面の笑みで言った。



「有言実行は男の使命!!! 愛したからには、必ず幸せにして見せるぜ!!」

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