拾弐話 訪問
・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます
目が覚めたとはいえ、ずっと車に乗っていれば眠気が出てくる。
他の車は一台も走っておらず、舒唄の視界にうつっている灯りは、車のヘッドライトと、車の速度を示す発光しているメーター、そしてカーナビだけだった。
あくびをして、頭がボーっとしてくる。
その時、ゆっくりと車が止まった。
「着いたわよ。しょうちゃん」
崗上はシートベルトを外して、ポーチを持って車を降りた。
舒唄は寝ぼけ眼をこすりながら、シートベルトを外して車の外を見る。
その光景に、舒唄は「え!?」と声を出した。
そこは、豪輝の家だった。
(なんで……なんで母さんが……)
舒唄は驚きを隠せなかった。
崗上にバレないように、常に歩いているときは周りを気にしていたし、携帯電話の位置情報も切っていた。
舒唄はそんなことを考えている場合ではないと、慌てて車を降りた。
そして、玄関に歩を進める崗上に、駆け足で近寄った。
「か、母さん!? 何でこんな真夜中にし、知らない人の家に行くの?」
動揺を隠せなかった舒唄は、必死に崗上に聞いたが反応せず、小声であることを何度も呟いていた。
「殺ス……あの野郎……殺ス……」
崗上が玄関の扉に手をかけた時、舒唄はしびれを切らして崗上の手を掴んだ。
「か、母さん!!! もう帰ろう!!! こんな時間に来ちゃ迷惑だよ!!! 何しに行くつもりなの!!!」
舒唄が切羽詰まった勢いで崗上を止めようとする。
崗上は少ししてから、自分の手を掴んでいる舒唄の手を、ゆっくりと掴まれていない方の手で離した。
「そうだよね……他の人の家に行くときは、ちゃんとドアをノックしないとね……」
「……は?」
崗上はそう言うと、振り返って扉を強くノックした。
突然の行動に驚き、舒唄は力づくで崗上を止めた。
「しょうちゃん!!! 何するのよ!!!」
「やめてよ母さん!! やっぱり帰ろう!!!」
「離しなさい!!!」
崗上は舒唄を振り払った。
舒唄は尻餅をついた。
その時、玄関の扉がガラガラッと開いた。
出てきたのは、忍だった。
「忍さん……!」
舒唄は震えた声を出した。
忍をみた崗上は、大声を出して忍に話しかけた。
「おいテメェ!! 玲良がここに居るのは知ってんだ!!!! とっとと出しやがれ!!!」
息を荒くしながら、崗上はまくしたてた。
その言葉を聞いていた忍は、しばらく間が開いたかと思うと、頭をポリポリと掻きだした。
「声は聞こえてるんだけどねぇ……早口すぎて何言ってんのか全然聞こえねぇなぁ。もっとハッキリ喋ってくれねえと」
忍の言葉に舌打ちをした崗上は、怒声を浴びせた。
「黙れ!!! いいから玲良を出せ!!! あれは私のもんだ!!! 勝手にそっちで住まわせてんじゃねえよ!!!!」
忍は崗上の言葉を聞いて、「フゥ……」と息をはいた。
「お前さん、玲良のおふくろさんかえ?」
「そうだよ!!! 分かったなら出せ!!!」
「出すわけねぇだろ。お前さんみたいな沙汰の外の奴に」
忍の意外な発言に、崗上は歯ぎしりした。
二人のやり取りを聞いていた舒唄は、忍を見た。
「……あ? この野郎……なんて言いやがった?」
「流石にお前さんにのうのうと玲良さんを返すほど、私ボケてねえぞ。立派な大人のはずが、ここまであんもらるな人間は初めて見たわい」
「うるさい!!! 黙れって言ってんじゃねえか……!」
「黙ってろと言いたいのはこっちじゃ。大体お前さん、自分の娘になんてことしてきたと思ってんだ。お前さんがやってきたことが良いか悪いかは赤ん坊でも理解できるってのに、お前さんって奴は……」
忍は崗上の言葉を遮り、説教を始めた。
玲良に関して、崗上自身に対して、ありとあらゆる分野から崗上を攻め立てた。
崗上は下を向いていた。
舒唄は忍を見て、「スゲェな……」と小声で呟いていた。
「玲良さんは今が一番楽しい年齢じゃけぇ。そんな楽しいを後押しするのが親ってもんだろうに……」
「……るせえよ」
「なんか言ったか?」
その時、崗上の額に青筋が浮かび上がった。
「うるせえったんだよ!!! この老害ババア!!!!」
崗上はそういうと、持っていたポーチを開け、中からあるものを取り出した。
それは――包丁だった。
両手で包丁を力強く握り、崗上は忍に刃を向けた。
最悪の事態を想定した舒唄は、「母さん!!! やめろ!!!」と叫んで崗上に掴みかかろうとした。
崗上は、包丁を振った。




