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地下鉄防衛戦  作者: 睦月
第伍.伍章・運命の二人が出会う時 (人によっては蛇足)
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拾壱話 お出かけ

・この話は番外編です。この章の話を飛ばしても本編を読み進めることが出来ます


  草木も眠る丑三つ時。


 街灯の光をも吸い込んでしまいそうな深い闇の中、熟睡をしていた舒唄は布団の中に身を寄せていた。

 するといきなり、舒唄がかけていた掛布団がめくられ、夜の冷気を肌で感じた舒唄は寝ながら身震いした。



「しょうちゃ~ん」



 いきなり耳に生暖かい息がかかり、声も聞こえたので舒唄はゆっくりとこすりながら目を開けた。

 すると、目の前に目をパッチリと見開いた崗上が舒唄の顔を覗き込んでいた。


 舒唄は驚いて、慌てて布団から這い出て後退した。

 

「うわぁ!! びっくりした!!……って、母さん? どうしたの」

「しょうちゃん~悪いけど、お着換えしてくれる~?」

「お着換え?」

「ジャージでもなんでもいいのよ~。ちょっと一緒に行きたいところがあるの」


 話し方とは裏腹に、崗上の顔は真顔だった。


「行きたいところって、こんな時間に?」

「お願い……! お願い……! ついてきて!! 一緒に()()しに行くのよ!!」

「……説得?」


 舒唄は訳の分からないという顔をしていた。

 真顔だった崗上は、フッと微笑んだ。


「大丈夫よしょうちゃん。お母さんはあなたの事怒ってないから~……(むし)ろ感謝しているのよ?」

「……ちょっと待ってよ母さん。どこ行くつもりなの?」


 崗上の言葉を聞いていた舒唄は、嫌な予感がして手をギュッと握った。

 その時、ほんのりと嗅いだことのないような匂いが漂ってきた。



「いいから早く!!!! お出かけする準備をして!!!! お願いよしょうちゃん!!!!」



 崗上は舒唄の両肩を掴み、外にまで聞こえそうなほどの大声で言った。

 舒唄は耳を塞いだ。


 こんな時間に大声を出されては近隣住民に迷惑がかかる。

 それに、大声を出されたことによって舒唄の眠気はとっくに無くなり、目が覚めてしまったのだ。


 舒唄は「分かったよ」と言って、しぶしぶ寝巻を脱いで学校の長ジャージに着替えた。

 崗上は着替える舒唄を少し見てから、背を向けて歩いて行った。


(深夜二時……こんな時間にどこ行くつもりだよ……)


 舒唄はため息をついた。



 着替えが終わり玄関に向かうと、靴を履いた崗上が舒唄を待っていた。

 手には長財布のようなポーチを持っていた。


「ま、待たせてごめん……」

「いいのよ。さあ、()に乗って」


 崗上は玄関に置いてあった車の鍵を手に取り、外に出て車を開けた。

 舒唄は助手席に座った。


 エンジンをかけ、車が動き出す。


「ねえ母さん。本当に何しに行くの?」

「あらあら……そんなに心配しなくても大丈夫よ……」


 崗上はうつろな目で舒唄の方を見ながら言った。


「私……ゴールド免許だから……」


 話の噛み合わない崗上に、舒唄は呆れて質問をすることをやめた。


(ゴールド免許って言っても、ただ車に乗ってないだけでしょ……)


 舒唄はそう思いながら、横目で崗上を見た。






「こうしてそうして……おお!! やったあ!!! 繋がったぜ!!」

「あんな形からでも繋げられるものなのね!! 凄いわ!!」


 夕飯を食べ終わった後、豪輝と玲良は豪輝の部屋で二人あやとりをしていた。


「よいしょっと……これで何回目?」

「多分三十ぐらいじゃねえか?」

「結構やってるわね……はい。次やって」


 玲良はあやとりの紐を指に絡めたまま、豪輝の方に寄せた。

 豪輝は一瞬あやとりの形を見てから、紐を動かしてあやとりを受け取った。


「……あれ? これってどうやるの?」

「あ?……って、絡まってんじゃねえか!!! やっちまったー!!!」


 あやとりの一部が絡まって、これ以上続けられなくなった。


「本ッ当にすまねえ!! ああー最高記録だったのにー!!!」

「大丈夫だよ。気にしないで」


 豪輝は指から紐を外し、絡まっている部分をほどき始めた。

 太めの指を不器用に動かしながら、紐をいじる。


「毛糸が絡まった時ってよ、手でほどけたとしてもなんかボサボサになるよな」

「あるあるだよね。……大丈夫? やってあげようか?」

「わりぃな……」


 全くほどける気配のない紐にしびれを切らし、豪輝は紐を玲良に渡した。

 そして、細く華奢な指を起用に使い、あっという間に毛糸をほどいた。

 玲良の早業(はやわざ)に、豪輝は少し驚いていた。


「早!! すげえなお前!!」

「そんなことないよ……ふわぁ……。眠いからもう寝るね。おやすみ」


 玲良はあくびをしながら立ち上がり、豪輝の部屋を出て行った。

 豪輝は玲良に「おやすみー!」と言ってから、自分も寝る支度を始めた。


 玲良の寝室は、豪輝の隣の部屋だった。


 普段使われていない部屋をわざわざ綺麗に掃除してもらったのだ。

 奥の壁は障子になっており、そこを通れば廊下を歩かなくても居間や豪輝の部屋に行くことが出来た。


 日光に当たってフカフカになった布団に、玲良は潜り込む。

 

「はあ~……お布団大好き……」


 忍におすすめされた葛湯(くずゆ)を飲んでから、電気を寝灯りにして玲良は眠りについた。






 玲良も豪輝も、仕事から帰ってきた安康も眠っていた中、忍は居間で一人新聞を読んでいた。

 その時、忍にも聞こえる音で


 ドンドンドンッ!!!


 と、玄関の戸を叩く音が聞こえた。


 忍はかけていた老眼鏡を外し、立ち上がって腰を押さえながら玄関に向かった。

 サンダルを履いて、扉を開ける。


 開けた時には、忍の視界には壁が立ちふさがっているように見えたが、すぐに人間の腹だと分かり上を見上げた。



 訪ねてきた人物は、崗上だった。

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